田中一郎は、いつものように朝の通勤ラッシュの中にいた。薄曇りの空の下、駅から会社までの道を歩きながら、彼の目は何気なく周囲の風景を見渡していた。サラリーマンたちの足音が響き、朝の忙しさが街に漂っている。
「今日はちょっと遅れそうだな…」と、一郎は時計をちらりと見る。毎日の通勤がルーチンになっているとはいえ、今日は何か違った。
ふと、彼の目に止まったのは、歩道の脇に落ちていた小さな光るボタンだった。周囲の人々は誰も気に留めていないようだったが、一郎はそのボタンに引き寄せられるように足を止めた。光を反射するそのボタンは、まるで何か特別なものを内包しているかのように輝いていた。
「これ、何だろう?」と一郎はつぶやきながら、ボタンを手に取った。手のひらに乗るそのサイズ感は、ちょうどいい具合で、何となく不安を感じさせるほどの魅力があった。
会社に着くと、一郎は早速そのボタンのことを同僚の佐藤美咲に話した。「見て、美咲さん。今日、道端でこんなのを見つけたんです。」
美咲は興味深げにそのボタンを覗き込み、「へえ、光ってる。なんか不思議な感じがするわね。何かのスイッチかしら?」
「試してみてもいいかもしれないですね」と一郎は微笑む。美咲の言葉に後押しされるように、一郎は自分のポケットにそのボタンをしまい込み、昼休みの時間に帰宅することを決めた。
昼休み、一郎は家に戻り、ボタンを取り出してテーブルの上に置いた。彼は少し緊張しながらも、そのボタンをじっと見つめていた。「さて、どうなるかな」と一郎は心の中でつぶやくと、ボタンを押した。
瞬間、ポンッという小さな音とともに、目の前に小さなカプセルが現れた。カプセルを開けると、中には小さな石像が入っていた。石像は一郎がよく知っている日本の古い神様の像に似ていた。
「これ、なんだろう…」と一郎は首をかしげる。石像は見た目には何の変哲もないが、一郎の心には少しだけ期待が残っていた。
その夜、一郎は家族と食事をしながら、今日の出来事を話題にした。「今日は変なものを見つけたんだ。光るボタンを押したら、こんな小さな石像が出てきてさ。」
妻の美咲は微笑みながら、「それ、面白いわね。でも、石像だけじゃ何も変わらないんじゃない?」
「まあ、そうなんだけど…でも、何かが始まるかもしれないし、もう少し試してみるつもりだよ。」と一郎は答えた。
その晩、一郎はボタンのことで頭がいっぱいだった。眠る前に、次の日もガチャを引こうと決心し、期待と少しの不安を抱えながらベッドに入った。
翌朝、一郎はワクワクしながらボタンを取り出そうとしたが、家の中で再びボタンを押すことができないと知った。どうやらボタンを使うのは一日に一度だけのようだと気づき、少しがっかりしながらも、「まあ、仕方ないか」と自分を納得させた。
「今日は家に帰るまでガチャはお預けだな…」と一郎はため息をつき、日常の仕事に戻るのだった。
一郎の心には、次のガチャに対する期待がますます膨らんでいった。次はどんなアイテムが現れるのか、その期待は高まるばかりだった。