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第42話

 あたしは9回死んだ。

 リノンが死んだから、あたしが生まれた。

 今回はリノンが死んだ日から19年前に転生した。

 生まれて初めて、看護師さんがベッドに寝てる女にあたしを抱かせて、たぶん母親だと思われる女の声を聞いたときから嫌な予感してた。

 視力を得て母親の顔見てみてドン引きした。

 なんでかって、あたしだったから。

 こいつ転生6回目の川奈ミサ《あたし》だわって。

 あたしがあたし生むってもうなんか業が深すぎるくない?

 どういうへきなのってそれ。

 最初のうちは普通に赤さんしてたけど、どのタイミングで白状しようかと思い悩んだ結果、二歳の誕生日、パパの帰りが遅くてママと二人だけでちっちゃく祝ってたときに。


「あたし、転生したんだけど」


 って告白したらママは、


「なんとなくそんな気がしてたわ」


 溜息ついてた。

 普通の子とは違うって思ってたみたい。

 そうだよね、外見は赤子でも中身は人生何回目よって感じなんだから。

 パパにも話した。

 ママとあたしの転生のこと、赤竜が生まれてものすごい増えて人間を食べまくること。

 信じてくれたかはわかんない。

 でも話はちゃんと聞いてくれた。


「じゃあ、モエミもママも、人類のために戦わなくちゃいけない運命ってことか……」


 違うよパパ。

 なんか運命とか使命とかそういうんじゃなくて。

 だって人類とか世界とか別に滅ぶんなら別にいいじゃん、ああそうですかって。

 9回も死んだらもう慣れるっていうか、死ぬのはいいのとりあえず。

 あたしだけが死ぬんならあれだけど、人類みんな一斉にせーので死ぬんならまあいいかそれでもって。

 ……別に。

 ……人類なんて別に。

 どうなったって別に。

 そんな大げさな話ちゃうんよ。

 滅んじゃっていんじゃね? いっそ。って思ったこともある普通に。

 違うんよ。

 あたしは、あのかわいそうな女の子を助けたいだけだったのね。

 ムラサキが死んで転生した、最初のあたしのこと。

 若月カナ。

 18歳で死んだ。

 何も知らずに死んだ可哀想なあたし。

 自分はちょっと人と違うかもって思ってたような、よくいる痛い子。

 鳥の記憶を持ってた子。

 前世の記憶とかって、それがなんか鳥だった。

 鳥て。

 その鳥のお母さんはトカゲで、お父さんがフクロウで。

 フクロウはともかく、トカゲが母親、この時点で意味分かんない。

 マミイ。

 そう呼んでた。

 確か雄だった気がしたけどなんでかそう呼んでた。

 あたしは巣に置き去りにされて、そこで死んで、人間に転生した——そんな、なんていうか微妙な前世の記憶を持ってた。


 ——若月カナ。


 自分の運命も宿命も業も何も知らずにただ死んだ、未来への希望に溢れながら、一瞬で絶望の底に落ちた。

 あのときの怒り、悲しみ、絶望、諦念。

 そのあと何度転生しても毎回赤竜災禍で死んだけど、若月カナのときの死が一番嫌だった。

 今でも思い出すと震えが来る。

 若月カナに会いに行ってレッドドラゴンのことを話したのは、転生三回目のあたしだった。

 東京に行っちゃだめって伝えた。

 カナはぜんぜん信じてくれなかった。

 転生の話も赤竜の話もなにもかも。

 えー信じるだろ普通……。

 ムラサキの話もしたんだけど「そんなんよくある想像」で却下されたしそもそもカナは自分がムラサキの転生だってこと、本気で信じてなかった。

 だから転生四回目以降のあたしは、カナに会ってない。

 赤竜レッドドラゴンが生まれない未来を作ることにシフトした。

 未来を知ってるあたしなら、もしかしたら止められるのかもって。

 あの災禍が発生しなければ、カナがあんな死に方をしなくて済むから。

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