あたしは9回死んだ。
リノンが死んだから、あたしが生まれた。
今回はリノンが死んだ日から19年前に転生した。
生まれて初めて、看護師さんがベッドに寝てる女にあたしを抱かせて、たぶん母親だと思われる女の声を聞いたときから嫌な予感してた。
視力を得て母親の顔見てみてドン引きした。
なんでかって、あたしだったから。
こいつ転生6回目の川奈ミサ《あたし》だわって。
あたしがあたし生むってもうなんか業が深すぎるくない?
どういう
最初のうちは普通に赤さんしてたけど、どのタイミングで白状しようかと思い悩んだ結果、二歳の誕生日、
「あたし、転生したんだけど」
って告白したらママは、
「なんとなくそんな気がしてたわ」
溜息ついてた。
普通の子とは違うって思ってたみたい。
そうだよね、外見は赤子でも中身は人生何回目よって感じなんだから。
パパにも話した。
ママとあたしの転生のこと、赤竜が生まれてものすごい増えて人間を食べまくること。
信じてくれたかはわかんない。
でも話はちゃんと聞いてくれた。
「じゃあ、モエミもママも、人類のために戦わなくちゃいけない運命ってことか……」
違うよパパ。
なんか運命とか使命とかそういうんじゃなくて。
だって人類とか世界とか別に滅ぶんなら別にいいじゃん、ああそうですかって。
9回も死んだらもう慣れるっていうか、死ぬのはいいのとりあえず。
あたしだけが死ぬんならあれだけど、人類みんな一斉にせーので死ぬんならまあいいかそれでもって。
……別に。
……人類なんて別に。
どうなったって別に。
そんな大げさな話ちゃうんよ。
滅んじゃっていんじゃね? いっそ。って思ったこともある普通に。
違うんよ。
あたしは、あのかわいそうな女の子を助けたいだけだったのね。
ムラサキが死んで転生した、最初のあたしのこと。
若月カナ。
18歳で死んだ。
何も知らずに死んだ可哀想なあたし。
自分はちょっと人と違うかもって思ってたような、よくいる痛い子。
鳥の記憶を持ってた子。
前世の記憶とかって、それがなんか鳥だった。
鳥て。
その鳥のお母さんはトカゲで、お父さんがフクロウで。
フクロウはともかく、トカゲが母親、この時点で意味分かんない。
マミイ。
そう呼んでた。
確か雄だった気がしたけどなんでかそう呼んでた。
——若月カナ。
自分の運命も宿命も業も何も知らずにただ死んだ、未来への希望に溢れながら、一瞬で絶望の底に落ちた。
あのときの怒り、悲しみ、絶望、諦念。
そのあと何度転生しても毎回赤竜災禍で死んだけど、若月カナのときの死が一番嫌だった。
今でも思い出すと震えが来る。
若月カナに会いに行ってレッドドラゴンのことを話したのは、転生三回目のあたしだった。
東京に行っちゃだめって伝えた。
カナはぜんぜん信じてくれなかった。
転生の話も赤竜の話もなにもかも。
えー信じるだろ普通……。
ムラサキの話もしたんだけど「そんなんよくある想像」で却下されたしそもそもカナは自分がムラサキの転生だってこと、本気で信じてなかった。
だから転生四回目以降のあたしは、カナに会ってない。
未来を知ってるあたしなら、もしかしたら止められるのかもって。
あの災禍が発生しなければ、カナがあんな死に方をしなくて済むから。