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第41話

 モエミは長い髪にヘアブラシを当てながら、鏡の中の自分を見つめていた。

 ……どんなに準備をしたって、どんなに覚悟をしたって、着々と進行していく現実にうまく対処していくのは難しい。

 未来になにが起こるかを知っていたとしても、それがいつどのような形で現実として降り掛かってくるのかを予測するのは——。


「簡単じゃないんよなー……」


 ぼやきが口をついて出た。

 アレ◯サの読み上げる7時のN◯Kニュースが、『〝新島〟に調査隊が上陸し、現地の調査に入る』ことを伝えた。

 新島発見のニュースが日本国民に知らされたのは昨日だった。

 つまり、それまで隠されてきたということだ。

 『xx大学の三上教授を中心に国内の大学や研究施設に所属する専門家で構成された——』その調査隊の中に、桜田リノンがいる。

 モエミにとってリノンは大学の先輩となった。


「あんたの言ってた話より、少し早まってない?」


 母のミサは、朝食の目玉焼きをフライパンからダイニングテーブルの皿に移した。

 モエミはその皿を手元に寄せて塩胡椒を振り、口を黄身に直接つけてチューチュー吸った。


「それやめなさいってのに……」


 ミサの呆れ顔など気にしない、モエミは唇に付いた黄身を舌で舐め取った。


「こんな早くって思わんかったわ。やっぱ未来に起こるのって平気でずれたり変わったりするんよなぁ……」


 モエミはすっかり黄身が吸いつくされた残りの目玉焼きを箸で器用にたたみ、一口で食べた。

 ミサが作る目玉焼きの半熟度合いはいつも完璧だ。

 目玉焼きだけじゃない、どんな料理の焼き加減味付け加減も、モエミの好みど真ん中を射ち抜いてくる。

 一卵性母娘とかなんだとか、父方の両親や親戚や周囲から揶揄されてもまったく意に介さない。

 娘のモエミと母のミサは二人とも中身は同じ人間、ムラサキが転生した人間だ。

 桜田リノンが転生したのがモエミ。

 ムラサキが転生して6回目のミサから生まれた。

 親子ともにムラサキなのだ。


「あたしがミサだったときは結婚なんて不可能ファンタジーだったんだけどー。あんなん上級国民の贅沢だったんだけどー」


 モエミはつっかかるように言う。

 ややこしい話だがモエミがかつてミサだったときと、モエミの母のミサが辿ってきた人生は途中から大きく分岐した。


「結婚ってタイミングなんよねー。なんか、そういう勢いっていうか、めぐり合わせっていうか、あるじゃない?」


 ミサはモエミの前で容赦なく惚気のろける。

 デキ婚だったって話だが……。


「どうするの、モエミ」


 ミサモエミに従う。

 この母娘の場合、娘のモエミ(18歳)のほうが実質歳上だからだ。


「マミイを殺す。今度こそマミイを、確実に殺す」

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