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巨龍進化ヤマモト
たきおんこ
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年08月03日
公開日
32,078文字
連載中
山本アキヲは軍の任務中に死亡して、トカゲに転生した。
トカゲとして日々成長していくアキヲだったが、ある日、森の中で人間と遭遇する。
彼らは転生前のアキヲが所属していた、日本国陸上防衛軍特殊作戦部隊の隊員だった。
部隊は森に棲む害獣を駆除する任務を遂行中で、アキヲはもちろん駆除対象だ。
かつての部下と、今はトカゲになってしまったアキヲとの、生き残りをかけた戦いが始まった。

第1話

 覚えている限り、俺が転生したのはこれで二回目だ。



 最初の人生は、悪くなかった。

 剣と魔法の世界で、俺は封建社会の貴族の子として生まれた。

 同時代に生きた人間の中では恵まれていたと思う。

 唯一クソだった母親という要素を除けば、まずまずの人生だった。

 俺は魔法使いとして名を上げたが、魔王討伐戦争に参加して死んだ。


 で、転生(一回目)した。


 二度目の人生はクソだった。

 せっかく日本という平和な国に生まれたのに親ガチャでクソを引いた。

 そのせいで幼少からずっとクソで、逃げるように軍に入ったがここもクソ。

 一番なにがクソって、この世界は魔法が使えなかった。


 小さいころ魔法使いが出てくるアニメを見て、自分も大きくなったら魔法が使えるようになると信じていた。

 当たり前だがそうはならなかった。

 使えなかったのは俺に適性がなかったからではなく、魔法そのものが絵空事ファンタジーだったからだ。

 この世界には、魔素《マナ》が存在しない。

 俺が知らないだけでどこかに存在しているのかもしれないが、それを魔法に繋げる手段がなかった。

 マナを貯められる鉱石もない、呪文を唱えても何も起こらない、そもそもこの世界の人間には呪文がうまく発音できなかった。


 俺は絶望した。

 魔法が使えない人生なんて。

 魔法の存在を本気で信じたら狂人扱いだなんて。


 俺はこの世界における、魔法に相当するものを探した。

 科学や医療が魔法と言えなくもなかったが、そういうんじゃなく。

 宗教、スピリチュアル、占い、黒魔術、錬金術、ムー(定期購読)、マルチ、ア○ウェイ、割と必死に探したがどれも魔法ではなかった。

 前世を覚えてる女にも会った。

 彼女は地球を闇の勢力から救う使命を帯びた光の戦士だった。

 まもなく地球に闇の勢力が復活するという。

 適当に受け流してたら俺は闇の騎士ってことにされた。

 彼女がもし本当の転生者だったなら、たぶん俺の知らない世界からのだ。


 どれもこれもインチキな中で、一番魔法に近いと感じたのが気功だった。

 気という概念が魔法に近く、いろいろと調べるうちに少林拳と金剛身にたどり着いた。

 少林拳は近接攻撃魔法に、金剛身は防御魔法に似ている。

 軍に身を置きながら少林拳を学んだのは、実戦に役立つかもしれないと思ったからだ。

 金剛身もある程度の段階まで会得することができた。

 しかし、どちらも中途半端に投げ出してしまった。

 結局、銃弾や爆弾の前にはまるで無力なのだ。

 魔法じゃなかったし。


 軍での任務中、とうとう四十歳になってしまった誕生日に俺は死んだ。


 俺の中隊は小笠原の島で、クマを駆除するという作戦に参加していた。

 島にクマがいるとは思えなかったが、怪我人や行方不明者まで出ているということで連日島内を探索した。

 しかし遭遇情報ばかりが積み上がる一方で、クマどころかイノシシ一匹見つけられない。

 そんな中、巨大な鳥を見たという通報で俺たちは現場に急行した。

 鬱蒼とした樹林の中に、鳥ではないが、謎の生き物の影を認めた。

 発砲命令を出したら、俺が後ろから射たれた。

 背中に激痛が走り、受け身もとれず頭からうつ伏せに倒れた。

 昔、女に太腿を刺されたときのナイフは冷たく感じたものだが、銃弾は焼けるように熱い。


 誰が射った?

 誤射?

 たぶん、違う。

 目標は樹上にいたはずだ。

 俺を狙ったんだ。

 誰が?

 誰が俺を殺そうとした?


 部下が駆けつけたときには声も出せず、身体の力が抜けていくばかり——。


「隊長! 山本隊長!」


 その声は……南波か。


 南波チトセ。

 結婚の約束をしてた。

 この作戦が終わったら結婚しよう、と言った。

 彼女は、はい、と答えてくれた。

 いま思えば完全にフラグじゃないか。


 南波が俺を仰向けに抱きかかえる。


 ……誰が、俺を撃った?

 そう聞いたつもりがひゅーひゅー息が漏れるだけで全然声にならない。


 隊員たちが集まってきて、俺を守るように囲んだ。

 射ったのはお前か? 田中コータ。

 いつも俺に叱られて、恨みがましい眼をしてたよな。

 それともお前か? 高橋ユウジ。

 南波に横恋慕してんだってな? 俺が死んだら付き合うつもりか?

 鈴木シンイチ、お前ニーマル持ってないけどどこに置いてきた?

 俺と歳変わんないのに昇進できないのそういうとこなんだよ、銃は手から放すんじゃない……。


「山本隊長ぅっ……っ」


 南波の涙が俺の頬に落ちる。


「泣くな南波……」


 やっと言葉が出た。

 南波。

 負傷者はまず止血、気道確保しろって教わったろ?

 肩抱え起こして、抱きしめたりしちゃだめなんだよ……。

 俺の額に胸当たってるし。

 でも、お前の胸に抱かれて死ぬなら、それもいいか……。


 ——どうせ、転生するんだし。


 この世界には輪廻転生っていう考え方があって、死んだら再び生を受け、それを繰り返す。

 生前の行いによって次の生が決まり、輪廻の輪を延々と回り続ける。

 人間から動物や虫に生まれ変わる、またその逆もあるそうだ。

 でもそれは迷信だと思ってる。

 俺は最初の人生で、それなりの数、殺生をした。

 それでも人間に転生した。

 だから次も人間に転生するだろう。


 南波、生まれ変わった世界でもし出会えたら、結婚しよう。

 一足先に行って待ってる……あれ? 南波、君の手から、火薬の匂いがするけど、まさか射ったの君じゃないよね……?


 俺は南波に抱かれながら死んだ。

 意識は消えて、しがらみやこだわりも一緒に流れ去って、記憶だけが残る。

 記憶を持ったまま、次の生へと転ずる。


 次は、どんな世界だろう?

 平和だと良いな。

 魔法があるとなお良い。

 どこの神様だか知らないが、こうしてまた転生できることに感謝するよ、ありがとう——。


 そして、俺は生まれた。

 生まれたっていうか、孵った。


 トカゲとして。


 さっきの神様への感謝の言葉、撤回させてもらっていい?

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