これは、数日前の電話でのやり取り――――
『えぇ~? 結香ちゃん、まだプレゼント決めてなかったんですか?』
夜遅く。
司のマンションの隣の部屋――七〇二号室の自室のベッドの上で、私はスピーカーモードにされて傍に置かれたスマホと睨めっこをしていた。
スマホから聞こえてくるのは、家が取り決めた司の婚約者である千春さんの声。
以前千春さんのプライベートビーチでの一件で仲良くなって依頼、こうしてよく女子トークのようなものをしているのだ。
『司くんの誕生日は十一月二十二日……もう三日もありませんよ?』
「それはそうなんですけど……」
話題は迫り来る司の誕生日に贈るプレゼントについて。
これまでは適当にシャープペンシルやボールペン、ルーズリーフなど日常で使えるものを選んで渡していたが、もう私達は高校生。
もう少し粋なものをプレゼントしたいし、何より、いつも司にからかわれてイジワルされて驚かされてばかりなので、この機会に私も司をあっと言わせてやりたいのだ。
しかし、悲しいかな特にこれと言ったアイディアが思い付かないまま時間だけが過ぎていき、今に至るワケだ…………
「ちなみに、千春さんは何をプレゼントするか決めたんですか?」
参考になるかなと尋ねてみると、千春さんtが『もちろんですわ』と自信ありげに答えた。
『ふふっ、わたくしは自社ブランドの新作のコートを贈ろうかと思っています』
「お、おぉ……! 流石大手アパレル会社の社長令嬢ですね……!」
『ありがとうございます。これからどんどん寒くなっていきますし、コートはお洒落だけでなく防寒着にも大きく役立つかと思いまして』
私は感嘆の息しか出なかった。
まず自分の立場を最大限に利用したチョイスだ。
自社ブランドの服を贈って司が気に入れば、『花ヶ崎家』は『院瀬見家』に大きなアピールが出来たことになる。
婚約者として一つのステータスにもなる。
加えてコートという選択も、千春が語った通りこれからの季節に持って来いのモノ。
シンプルにセンスが良いと言わざるを得ない。
「でも、そういう類のモノは私には少し難しいかもしれません……」
『あら、そうなのですか?』
素直な疑問の声を上げる千春さんに、私は「はい……」と少し残念な気持ちを乗せて返事をした。
「司の誕生日には『院瀬見』の関係者達から色んなプレゼントが贈られてくるんです。千春さんのように服を贈る方もいれば、時計やカバン、少し趣向を変えて優待券などをプレゼントされる方もいるんです」
司に贈られるプレゼントはすべて高価で高品質な一品。
そんな中で、私に購入出来るような価格で下位互換に過ぎない同じようなモノをプレゼントする勇気はない。
『あぁ、なるほど……』
千春さんは理解したように呟いた。
『つまり、結香ちゃんは――』
「はい。そうなんで……」
『――他の誰とも違う特別なモノを送りたいんですねっ!?』
「やっぱ違います」
前言撤回。
どうやらあまり理解出来ていらっしゃらなかったらしい。
私は千春さんの言葉を食い気味に否定した。
「別に特別とかそう言うんじゃなくてですね……!?」
『えぇ~、そうですか? でも、そこまで悩んでいるということは、やはり自己満足のプレゼントではなく、司くんに喜んでもらえるものを贈りたいと考えているからですよね?』
ふふっ、と上品な笑い声が聞こえる。
私の顔はみるみるうちに熱くなっていって、気付いたときには心臓は早鐘を打っていたのに、スマホのスピーカーから出力される千春さんの声色は、どことなく楽しげだ。
「よ、喜んで欲しい……も、まぁ、なくもないですが……やはり驚かせたいんですよっ!」
私はスマホ越しの会話であることを忘れて、ギュッと拳を握ってみせた。
もちろん司には喜んでは欲しい。
喜んでくれないと悲しくなる。
無反応だったら流石の私も泣くかもしれない。
でも、やはり日頃のお返しを……毎度毎度私を振り回してくれる司に、驚きを与えてやりたいのだ。
――と、そう反論した私だったが、二歳差というのはこんなにも違うのか。
千春さんは大人な対応を見せてきた。
『まあいいでしょう。そういうことにしておきますね』
「えぇ~、何か釈然としないんですけどぉ~!?」
『ふふっ、結香ちゃんは本当に可愛いですねぇ』
「ちょ、何かバカにしてませんかぁ~?」
『いえいえ、そんなまさか。ただ、本当に結香ちゃんみたいなお世話係がわたくしにもいればなぁと思っただけです』
千春さんが楽しそうに笑いながら言う。
それは、プライベートビーチの一件でも口にしていたことだった。
『あっ、でも……わたくしが無事に司くんと結婚出来たら、結香ちゃんも一緒についてきてくれるんですかね?』
「いやっ、それは目的が私になってしまってませんか!?」
『ふふっ、良いじゃないですか~! コミックを買うのも実は付録が目当てだった、みたいな感じですよ』
「な、なんか千春さんの口から庶民的な例えが挙げられると凄い違和感が……」
私はスマホに向かって苦笑いを禁じ得なかった。
『まぁ、ともかくです』
「はい?」
『結香ちゃんが司くんに何を贈るにしても、素直な気持ちを込めてあげてくださいね』
ではおやすみなさい、と千春さんは最後に柔らかく言ってから、通話を切った。
静まり返った自室の中で、私は力なくボフッ……、とベッドに仰向けに寝転がる。
天井を見詰めて、千春さんの言葉を頭の中で反芻していた。
「素直な気持ち、かぁ……」