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第13話 ご主人様の活躍!

 六月に入り、体育祭当日――――


 体育祭と聞くと、やはり司がリレーの練習中に怪我をしたことや、それが切っ掛けとなって保健室でちょっとしたトラブルがあったことなど、関連付いた記憶が芋づる式に呼び起されるが、それももう過ぎた話。


 特に人気者である司が転倒したシーンは、目撃していた一組から三組の生徒の皆にとってもかなりの衝撃だったはずだが、そんなことはもう忘れてしまったかのように、今は目の前の光景に胸高鳴らせ、熱を帯びた歓声を上げていた。


「走れ走れぇえええええ!!」

「いっけぇえええええ!!」

「頑張れぇ~~!!」


 体育祭午前の部。

 その最後を飾るのは学年別クラス対抗リレー。


 走る順番は学年順で、最初が一年生。最後が三年生だ。


 一度、一組から三組まで合同で練習したが、やはり全五クラスで競い合うと迫力が段違い。


 現在暫定的に順位は、四組の男子生徒が一番手でそれに続いて三組の男子生徒。そこから少し間を開けて二組。そのさらに後方で、私達一組と五組が競り合っている感じだ。


 そろそろ私の走順が回ってくる。


 最初は練習のときくらい余裕を持って走って、最後はアンカーの司にバトンを渡して決めてもらおうと思っていたが、現状を見るにそうも言ってられない。


 仕方ない……ちょっと、頑張りますか。


 肩口で切り揃えて下ろしていた黒髪をサッと持ち上げて、左手首に付けていたヘアゴムで一つに束ね、ポニーテールにする。


 よし、これで邪魔じゃない。


 最後に、この協議では関係ない紅組のハチマキをキュッと強く結び直してからスタートラインに立った。


 私が走れるのはグラウンド半周。

 その限られた距離の中で、司にバトンを渡す前に出来るだけ順位を上げておく必要がある。


 そんなことを考えながらチラリと反対側のスタートラインへ視線を向けると、走る準備を始めていた司とグラウンドを縦断して目が合った。


 ――頼んだぞ、結香。


 もちろん声は聞こえない。

 口パクで合図すらしてない。

 それでも、そんなご主人様からの頼みを、私は確かに受け取った。


「はぁ~あ。ほんっとうに世話が焼けるご主人様……」


 面倒臭いが、悪い気分じゃない。


 意図せず、私の口元は弧を描いた。


 そして――――


「任せたっ……!」

「はい!」


 全力疾走で汗まみれになった一組の男子生徒から、しっかりと後ろ手でバトンを受け取った。


 グッ、と地面を力強く押す。

 生み出された推力が背中を押し、その分足の回転数を上げ、加速する。


 ビュゥ――と耳元で風を切る音がうるさい。

 もはやどのクラスからなのか聞き分けられないような歓声がやかましい。


 ざわざわした場所を好まない私だが、なぜか今はそれらの騒音が私を鼓舞する。


 言うなれば、体育祭マジックだろうか。


 タッタッタッタッタッ――と、バトンパスの流れで競り合っていた五組を置き去りにし、二組の背中につく。


 すぐにコーナーが見えるが、曲線で抜くには走るコースを外側から膨らませる必要があるためロスになる。


 ピタリと二組の背について圧を掛け、集中力を乱し、チラッと様子を見るため振り向いてきた瞬間――――


 ダッ!! と思い切り加速して抜き去った。


 コーナー前で加速しすぎて、少々コーナーを膨らんで走ることになってしまったが、この程度なら問題ない。


 代わらずトップを走る四組を抜くのは流石に現実味に欠けるが、三組に並ぶくらいは出来ないこともない。


「……っ!!」


 コーナーを抜けて直線に入ったところで三組の背中を捉えたが、全力疾走でグラウンド半周と言うのが予想以上に体力を消耗した。


 並ぶまであと一歩と言うところで力及ばなかったが、これだけ差を縮めれば充分だろう。


「こけないでくださいねっ……!」

「任せろっ!」


 冗談交じりにそう言ってパシッ、とバトンを司の手に叩き付ける。


 すると、自信に満ちた返事と同時にグンと加速した司が、すぐに三組を追い抜いた。


 アンカーはグラウンド一周走るので、客席で座っていた他の生徒達も勝負の結末を見届けようと興奮して立ち上がり始める。


 それなりの間を開けてトップを走っていた四組だったが、司がグングンその距離を縮めていく光景に、客席から黄色い歓声が上がる。


 それは両者の距離が五、四、三メートルと近付くにつれて大きくなっていき、遂に――――


「「「うおおぉおおおおおおおッ!!」」」

「「「きゃぁあああああっ!!」」」


 司が見事な走りで四組を追い抜き、そのままゴールイン。


 一組の生徒だけではない。

 司のファンとも言える他クラスの生徒らも大歓声を轟かせる。


 まさに午前の部を締めくくるに相応しい逆転劇。


 私も少しは称賛の言葉を掛けてあげたかったが、残念ながらすでに司の周りには人だかり。


 こんな人目に付く場所で話し掛けるにはいかないので、まぁ、家に帰ったときにでも「よく頑張りましたね」と褒めてやろう。


 そんなことを言えばきっと「お前は俺の保護者か」とツッコミを貰うだろうが、世話係も考えようによっては保護者のような存在ではないだろうか。



 このあと、二年生三年生の順にクラス対抗リレーが行われ、体育祭午前の部は終了となった。


 ここで、昼休憩に突入だ――――

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