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帰りたい(313回目)  いい匂い


 あのおっさんは、どの岩やレンガでも、爆発できるわけじゃ、ないのか────?



「セルマ、ひとつ試させろ」

「なになに?」


 アタシがセルマに耳打ちしようとすると、おっさんがムダに声を張り上げる。


「敵の前で堂々と作戦会議か!? その隙を許すほど、貴様らを侮ってはおらんぞ!」


 そういって、おっさんがこちらへ走り出してきた。

 ゆっくり話してるヒマはねぇか!


「セルマ! とりあえず後方支援してバリアで爆発防いでくれ! 頼んだぞ!」

「ええっ!?」



 アタシはボードでおっさんの攻撃をいなし、腹に蹴りを入れる。

 そして相手が怯んで2,3歩下がったところで、アタシはボードから仕込み針を出して、地面へ突き立てる。


「“一角獣アインホルン・シュトローム”!」

「っ!!」


 送電針から“グライフ・フランメ”地面に伝う電流を、おっさんはジャンプして避けた。

 バランスが取れない空中を狙い、アタシはボードの先についた刃で切りつける。


「ぬっ!?」

「段々慣れてきたぜ、そのスピードにも!」


 しかしおっさんは腕の出血には目もくれず、今度は回し蹴りをしてくる。

 ボードでも防げない程の衝撃でアタシは後ろへ吹っ飛ぶ!


「うぐあっ!」

「何を企んでいるか知らんが、望み通り爆発させてやる!」


 けれど2回目はそううまくはいかせない!

 アタシは空中で身体を捻り、バランスを取る。


「おらっ、ムーンサルト! “グライフ・フランメ”!」

「“ハイ・バリア”!」


 おっさんの指が鳴り、アタシに一番迫っていた岩が爆発する。

 けれどセルマのバリアが上手く働き、アタシは爆風の威力だけを利用して、おっさんに突撃した!


「なにっ!?」

「突撃いいいっ!」


 しかしおっさんはそれをあっさりと避け、アタシは岩へ激突。無念。


「どわぁっ!」

「アホめ。そんな結果分かりきっておろうに。あまり失望させてくれるなよ!」

「ぐぎぎっ!」


 岩の間に挟まったボードに、アタシは力を入れる。


「動けなくなったか。哀れ、せめて一撃で────まて、貴様何をしている!?」


 おっさんはようやく、アタシがしようとしていることに気付いたらしかった。

 そして当然、それを止めようとこちらに迫ってくる!


「ダメっ! いまクレアちゃんが頑張ってる!」

「ちっ!」


 セルマの鎖が隙を見せたおっさんの腕に巻き付いて、動きを制する。

 アタシはそれを確認して、ボードに更に力をいれた。


「ぐぎぎぎぎっ!」


 別に勢い余ってボードが抜けなくなったわけじゃない。

 ただ、どの岩でも爆発できるわけじゃないとしたら、爆発する岩はいったい何なのか。その正体さえ分かればおっさんの攻撃を攻略する糸口になるはずだ。


 だからアタシは、壁に激突するふりをして岩にボードを挟み込み、さっきおっさんが爆発させた岩を剥がしてみることにした。


「うおおおおっ!!」



 そしてついに、岩が────剥がれたっ!


「うわっ、そういうことか!!」


 そう叫んだ瞬間、突如剥がした岩が空中へ浮いて、私の顔へ迫ってきた。


「ぶべぇっ!」

「クレアちゃん!?」


 突然動き出した岩に顔をぶつけて、鼻血が出る。こりゃ鼻の骨が折れたかも知れねぇ。

 ただそれだけの価値はあった。アタシは岩を地面に叩きつけて、それをもう一度よく観察した。


 ようやく見つけた、おっさんの爆発する岩の正体!



「分かったぜおっさん。テメェは岩を爆発させる固有能力じゃねぇ! その岩は『魔物』だ! 爆発する魔物を壁や床に仕込んでいた! 違うか!?」

「つっ、つつつつっつ────合格だっっっっ!!!」


 そういった瞬間、周りから無数の岩とレンガが空中を浮遊する。

 その岩はおっさんの周りをぐるぐる回転しながら動きはじめた。


「なにこれ!?」

「油断っ!」


 浮遊していた岩の一つが、おっさんを繋いでいた鎖にぶつかり、引きちぎれる。


「しまった!」


 けれどそれと同時に、アタシは走り出しおっさんの背中に切りかかる。

 何が何だかわかんねぇけど、さっさと仕留めなきゃより厄介になりそうだ!


「食らえよっ!」

「そう簡単に隙は見せんぞ!」


 背中越しにおっさんが叫ぶと、岩とレンガがこちらへ飛んできた。

 顔や胸めがけて突っ込んでくるそれを、アタシは何とかいなしながら走る!


「くそっ邪魔だ!」


 そしてアタシがおっさんのところへたどり着く頃には、おっさんは既に振り向き臨戦態勢に入っていた。

 後ろではセルマが杖を構えているけれど、そこへ岩がいくつか飛んで、その攻撃を妨害する。


「ふははっ、やりにくかろう! 苦しかろう! この苦境を乗り越えてこそ、晴れて免許皆伝だ!」

「そんな権限ねぇだろ!」


 けれど更に背後から飛んできた岩を避けるために、アタシはそこから離れざるを得なかった。

 何とかおっさんをいなし、セルマの元まで走る。


「クレアちゃん何あれ!? あの人、岩を操ることもできるの!?」

「いや、岩じゃない! あれは虫だ!」

「そう、こいつらは私の契約した魔物“爆岩虫”! 私は看守長にして【蟲遣い】のメイナード! これを見破ったのは、貴様らが初めてだ!」


 ブンブンと大きな羽音をたてて、割れた岩からドでかい虫が顔を出す。


 思えば、ヘリア隊の見張り役2人は身体に爆発させられた痕はなく、何かに強く殴られたような傷が残っていた。

 きっとミリアのときと違って、アイツらはこの浮遊する岩にやられたんだ。


「うそ、岩が虫だったなんて! 全然気付かなかった!」


 術師のセルマは魔法の扱いに長けている分、一見法則性もなく岩が爆発するように見えたあの攻撃が、実は固有能力でないというのは、気付きにくかったんだろう。


 おっさん本人も固有能力だって嘘を付いてたんだから、それこそ違和感がなければ、発見がもっと遅れてた可能性もある。



「嘘つきめ、よく見りゃめちゃくちゃ古典的な騙し討ちしてんじゃねぇか!」

「貴様ら程の軍人が、よもや卑怯とはいうまい」


 確かに騙しかたは大雑把だけれど、それですっかりアタシたちは翻弄されていた。

 アタシたちは敵の作戦にまんまと乗せられて、殺されるところだったんだ。


 ただ、これが分かったところで、この虫共をどうにかできなきゃ意味がない。



「クレアちゃん、どうだった?」

「大丈夫みたいだ」

「じゃあ、ちょっと聞いて?」


 そう言って、セルマはアタシを抱き寄せてきた。


「おい! 今じゃれてる場合じゃねぇだろ────お前すげぇいい匂いすんな」

「ありがと。それより気付いてるわよね、インターバル」

「あぁ」


 おっさんは指を鳴らして爆発をさせる時、連続で爆発をさせられないんじゃないかと言うのは、何となく気付いていた。

 出来るなら、最初から爆発させまくってアタシらを動けなくすればいいはずだ。


 多分おっさんは、連続で岩を爆発させることができねぇんだ。


「だからこそ、こんな作戦タイムしてる場合じゃねぇだろ」

「今しかないわ、それに────」


 セルマが作戦を耳打ちをする。

 おっさんはその間、“爆岩虫”を浮遊させながら警戒はしていたけれど、攻撃はしてこなかった。


 さっきは「その隙を許すほど、貴様らを侮ってはおらんぞ!」とか言っていたけれど、それは爆発のインターバルがなければ、相手も下手に手出しはしてこねぇってことか。


「あんま気乗りしねぇけど、それしかねぇな」

「2人ならやれる。ま、何とかしてみせましょ」


 アタシたちは拳を付け合わせた。ここから反撃だ!


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