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帰りたい(310回目)  ぱんぱかぱーん


 幹部2人と別れた後、アタシたちは周り道をしつつ、人質が捕らえられている区画の入り口までたどり着く。


 何回か敵を奇襲することにもなったけれど、セルマのおかげで音も気配も遮断できて、鍵も奪取。


 そして牢獄へは難なく到着できたけれど、そこで奇襲隊のリーダー・ヘリアさんが全体を止める。


「おかしいですね……」



 奇襲隊の一人がそう呟く。

 アタシたちもなんとなく、その違和感に気づき始めた頃だった。



「あぁ、ここまで順調に行きすぎている。幹部方と別れた時点で、本格的な戦闘になるものと思っていたが……」


 もちろんアタシたちも、そうなった時の対策はしている。

 だからこそ、ここまで何事もなく通過できてしまったのは違和感があった。



〈その問題なら、解決済みです。どうやら現在敵の基地が手薄な状態だったようです〉


 エリーからの通信だった。


〈どうやら今この────〉

「いやいい、必要事項だけを」

〈人質の中に、少なくとも1名の重傷者〉


 それだけ聞くと、「了解」と言ってヘリアさんは通信を切った。

 流石は長年やってきたプロだ、状況判断が早い。


「今から突入する。どうだセルマさん、体力は」

「まだ行けます!」


 この基地へ潜入する前から、ずっと結界を張り続けているセルマ。

 戦闘に参加をしていないとは言え、魔力と集中力をフルに使いながら前線を維持しているのはとても厳しいはずだ。


「ホントに大丈夫か?」

「このくらい平気よ。こういう時のために、訓練してきたんだもの」

「そっか────っと、おわっ!?」


 その時、施設が大きく揺れた。

 そして同時に侵入者の警告が響き渡る。


「幹部方がおっ始めたようだな。ここにも敵がいつきてもおかしくない。

 我々の隊から2名、扉に見張りを立たせる。合図で突入するぞ」

「了解」


 アタシとミリアはセルマの守備があるから、離れるわけにはいかない。

 ここは奇襲隊の2人に任せるとして、アタシたちは中での人質誘導に尽力することになる。


「3,2────いちっ!」

「うおおおおっ!!!」


 蹴破った扉の先に、敵はいなかった。

 代わりにそこにあったのは、沢山の牢獄。


 そしてアタシたちの姿を確認した瞬間、中にいる捕虜たちが一斉に沸いた。


「うおおおおぉぉぉ!!」


 暗くて何人いるか分からない。喜んでいる人が多いけれど、やつれていて死にそうなヤツも多い。

 こんなジメジメしたくらい環境で何年も捕らわれていたら、当然だ。


 ちなみに一番うるさい監獄にいたのは、【怪傑の三銃士】の賑やかなおっさんエッソ、タラシっぽい痩せたおっさんジョノワ。

 確かこないだの大会でエリーの援軍に行くのにしくじって、ここに飛ばされたんだ。


「あ、おっさんたち」

「やったあぁぁっ!! 助けが来たぞおおぉ!!」

「ようやく助かるんだねぇ!」


 もらった鍵を使って扉を開けると、2人がのそのそっと檻から出てきた。

 よく見ると2人とも、背中にどでかいムシが食いついている。


「うわっ、なんだそのムシ!」

「このワーム邪魔なんだ、殺しておくれよ」

「マジか気持ち悪いな。そらっ!」


 言われた通りボードを斧に変形させて、叩き切る。

 殺した瞬間変な汁がぶしゃっと飛び出て、ムシはあっさりと2人の背中から取れた。


「アンタらなら、こんな虫引きちぎれたんじゃないか?」

「いやぁ、それが無理なんだ。コイツらはチュッチュ・ワームって言ってね?

 噛まれると力と魔力を吸いとってしまうんだ」


 厄介な魔物だけど攻撃力はないらしい。


「ガハハハ! ノースコルが我々を拘束するときの常套手段だ。しばらくオレたちは魔力が使えそうにねえ!」

「笑ってる場合じゃねぇだろ……」


 底抜けに元気なおっさんたち2人を相手にしてると、ミリアが青い顔で袖を引っ張ってきた。


「クレアってばヤバいよぉ、【怪傑の三銃士】にそんなクチ聞いちゃぁ!」

「あん、まぁ、そうなんだけど……」


 このおっさん達が軍でも鼻つまみ者な反面、結構リスペクトしている人間が多いのは、何となくアタシでも感じていた。

 アデク隊長のところにいるとそう言う感覚が薄いから、つい忘れかける。


「僕らのことはいいから、それより他の連中やリーダーの事を心配してやってよ」

「そういや、あんたらのリーダーは? あの人も助けないと」

「あっち」


 奥の方を指差すと、一際大きな牢があった。

 中はから────いや、壁が動いている?


「うわぁ、なんだこのワーム!」


 壁かと思ったのは、巨大なワームだった。

 しかもよく見るとそのクチから、三銃士のリーダーであるライルさんの顔が飛び出ている。


 エリーの言ってた重傷者ってこれかよ!


「そいつらは攻撃はしてこないから、いくら大きくても問題なく叩き切れるぜ!」

「さぁさ、遠慮なくドーンとやっちゃってよ!」

「いやだぁぁぁっ!」



   ※   ※   ※   ※   ※



 全身べちゃべちゃになりながら、何とかライルさんを引き剥がした。

 ワームから飛び出た液体、何だか変な匂いがするし、感触も最悪。


 これで無害なんて絶対嘘だよ。


「セルマさんはライルさんの治療を優先してくれ!」

「はい!」


 回復魔法をセルマが施していると、ライルさんの顔に少しずつ生気が戻ってきた。

 聞けばあんなドデカいやつに一月ほど喰われてたそうだ。丈夫だなぁ。


 エリーの言っていた重傷者はこの人のことか。


「セルマ頑張ってるねー。ライルさんは大丈夫そ?」


 暇そうにしているミリアが、小石を蹴りながらぼんやりという。


「一命は取り留めた──と思うわ。このまま外で治療を受ければ、問題ないはず」

「よかったー、じゃあ私は皆の解放を手伝ってくるね」

「あっ、おい!」


 適当なことを言って、ミリアは入り口近くの檻の方へ行ってしまった。

 アタシらはセルマの護衛なのに、何やってんだよ。



「おい──アデクのとこの子だな」

「え……? あっ、ライルさん!? もう眼を醒ましたの!?」


 見ると横になっているライルさんが呻いていた。

 さっきまで死にそうだったのに、驚異的な生命力だ。


「エリアル嬢は──どうした……」

「あ、エリーちゃんなら無事です! 元幹部の人を倒してこの救出作戦を計画してくれたんです!」

「そうか……」


 安心したようにライルさんは眼を閉じる。

 おいおい、このまま死んだりしねぇだろうな────


「おいおいリーダー、オレたちの心配もしておくれよ!」

「お前らは──死んでも死なんだろ……」

「あ、術師の嬢ちゃん。ヘリアがそろそろどうだって」


 そう言って、奇襲隊リーダーを指差す。


「そう、ですね。ライルさん、後の治療は地上にいる隊にお願いします」

「分かった──そちらを優先してくれ」


 セルマはヘリアさんに駆け寄ると、少し会話をしてから、通信機に話しかける。


「エリーちゃん、こちらは予定通り。今から魔方陣広げるわね」

〈お願いします、地上のララさんたちは大丈夫だそうです〉


 それを聞くとセルマは懐から、何やら円と複雑な呪文の書かれた、小さいバリアを床においた。


「“バリア・スプレッド”!」


 掛け声と共に、バリアが大きくなる。


「エリーちゃんいつでもいいわよ」

〈ララさんに伝えます〉



 このバリアは、ララさんの魔方陣を書いて、伸縮と持ち運び式に改良した、転移魔法の出入口のようなものらしい。

 紙のようにかさばらない代わりに、バリアを常に維持しなきゃイケないから、大変だとセルマが言っていた。


 しばらくすると魔方陣がぼんやりと光始めて、暗い地下牢を淡く照らしだす。


「来るわよ」

「くっ────!」


 光が一瞬強くなり思わず目を覆うと、そこには1人の女軍人が立っていた。


「ぱんぱかぱーん! 軍イチバンの穴掘り女こと【ドリル・アーム】のジュリエットでございま~す! 今回のドリルデリバリーはここでよろしかったでしょ~か!?」



 なんかうるせぇのが来た────!!



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