その後、アタシたちは明日の作戦会議を幹部たちと終えて、早々にテントで休むことになった。
セルマはそのままリアレさんと2人で過ごす────なんて事はなく、普通にアタシらと一緒に戻ってきた。
「クレアちゃんなに?」
「なぁ、リアレさんとこ行かなくてもよかったのか? さっきも会話とかあんまりしてなかったし」
「あー、それねぇ……」
セルマは眼を逸らすと、言いにくそうな声でポツポツ喋り出した。
「多分それって、任務に支障が出ることを、心配されてるのよね?」
「まぁーーーーーーーーーー、うん……?」
聞き方が悪かったか、なんとなく察されてしまった。
こう言うときエリアルならうまく言うのかもしれないけれど、アタシにそういうのはできなかった。
「リアレさんとはもし任務で一緒になっても、他人でいましょうって約束してるから、今日はいいの」
「なんで?」
「周りの指揮に影響が出るかもだから」
セルマなら眼の色変えてリアレさんに会いに行くと思ってたので、その約束とやらを大人しく守ってるのは少し意外だった。
まぁ、確かに任務が始まった今、裏でイチャイチャされて面倒くさいことになったら困るから、その心がけはありがたいんだけど。
「前は皆に迷惑をかけちゃったのはホントだから信用ないのは当然なんだけれど、今度こそちゃんとやるわ。
だからもう一度だけチャンスをくれない、かしら?」
「まぁ、アタシは関係なかったからいいんだけどな……」
セルマに関しては、ちょっと心配しすぎだったかもしれない。
そんな感じで悶々としていたら、ずっと黙ってたミリアが口を開いた。
「あ、そうだ2人とも。そのセルマがリアレさんとラブラブだかなんだかって話だけど、あんまりお外でいわない方がいいよ」
「ラブラブなんてぇ~」
デレデレし始めるセルマ。
コイツさっき言ったことホントにホントだろうな────?
「なんで言っちゃダメなんだよ?」
「軍幹部が新人の女の子に手ぇ出してるって、普通に考えてヤーバいでしょ」
「あっ……」
確かにそうだ。場の雰囲気で流されてたけど、もしこんなことが公になったらマズいのなんの!
プロマとか新聞で取り上げられて、リアレさんもセルマも降格とか追放とかされて、アタシたちも石とか投げられるかもしれない。
「分かってるわよ、リアレさんも関係が恥ずかしいとかじゃないと思うけど、この件は公言しないって。
仲間の指揮に関わるだろうし、自分もそれがいいと思う」
「あー、それならいいんだけどよ」
「ミリアちゃん忠告ありがとうね」
リアレさん、案外そう言うところの火消しや釘刺しは、ちゃんとやってたんだなぁと言うのはまぁ納得できる気がした。
まぁ、マズいことやってる自覚もあんのかよとは思うけど────
「そっかそっか、ならいいんだけどね! それにしてもあんなにかっこいい人と幼馴染みなんて、セルマちゃんやりますなぁ~」
「またまたー! そんなこと────あるかも!?」
やっぱり反省してねぇだろコイツ!
ミリアもわざわざのせんなよ!
「あっ、もしかしてミリアにも言っちゃマズかったか? アタシ普通に喋っちまった」
「ううん、ミリアちゃんにはどうせ言うつもりだったからいいんだけど。
だからお願いします2人とも、今さらだけどこの件は、どうかご内密に」
やっぱり色恋ってめんどくせぇなと、つくづく思った。
※ ※ ※ ※ ※
と言うことで次の日の明朝、昨日のメンバーにセルマを加えた5人と、潜入部隊の7人とも合流して、日が昇る頃ついに例の洞窟の入り口手前に到着した。
「ここが去年、エリーが入った洞窟だね」
「らしいな。まさか本人も、この中に敵の基地があるとは思ってなかっただろうに」
崖に広がる洞窟、中は迷路状になっていて、そのうちのいくつかは崖上にも繋がっているらしい。
敵国のこんなところに基地を作るなんて、普通にどうかしてると思う。
「今回君たちアデクの3人をこの作戦に連れてきた理由は覚えてるね?」
潜入直前、リアレさんが念押しをしてきた。
「セルマは潜入時の術師としてのサポート、アタシたちはその護衛だよな」
「そう、だからセルマは作戦の要だ。僕らとは作戦中離れるけど、くれぐれも頼むよ」
「はい」
セルマは特にリアレさんにも反応なく、本当に他人として対応していた。
逆に何も無さすぎて、疑っていたこっちが申し訳なるくらいだ。
「了解です」
「セルマが認識阻害と防音の魔法を張っているから黙視されなければ大丈夫なハズだけれど、ここからは何が起こるか分からない。気を引き締めていくよ」
そっと息を潜めて、洞窟内を歩く。
すると入り口から少し行ったところで、セルマが足を止めた。
「多分ここに入り口があります────でもこんな痕跡、本当に言われなきゃ分からない……」
「解錠できる?」
「大丈夫だと思います」
セルマが壁に手を当てて、何かをぶつぶつと呟く。
余程集中力がいるのか、汗が一滴垂れる。
潜入隊のメンバーも壁際に張り付いて、固唾を呑んで見守っていた。
「解錠……!」
ドロドロと壁の一部が溶け出した瞬間、岩の向こうで男が一人立っていた。
「えっ…………!?」
「っ────! 制圧しました」
慌てて銃を構える男よりも早く、潜入隊の人が首元に一撃を当てて、そいつを気絶させた。すげぇ速さだ!
「全員移動しながら、セルマは防音の魔法を一瞬だけ解除! エリアル指令お願いします!」
〈はいっ────!〉
リアレさんが通信機をかざすと、その向こうのエリアルの声が聞こえた。
そして2,3秒してから、再び声が聞こえる。
〈目の前のT字路を右へ、階段を降りた後2人構成員がいます〉
「分かった」
通信機の向こうからでも、音だけで内構造を把握するエリアル。
こないだの大会のレースでも同じようなことをしたらしいけれど、こんなことまで出来んのかよ!
「2人制圧完了」
〈その先の奥の部屋にも2人います────あ待ってください!〉
その声で、全員が一斉に止まる。
「どうした」
〈2人のうち1人は、魔女・ルールです〉
「っ────!」
場の空気が、一気に張りつめる。
「間違いないのか?」
〈この空気感、質量のある闇に足を取られた感じ────言葉には出来ませんが彼女に相対した時に感じるものです〉
一度、窮地でルールと相対したエリアルだからこそ分かるんだろう。
〈それともう1人は男性、でしょうか? 彼女程のイヤな感じはしませんが、圧倒的な力を感じます〉
「よーくわかった。魔人/魔女か、それを凌駕する相手ってことだな?」
そう言ったのは、今まで黙っていたアルフレッドさんだった。
「今日はセルマの嬢ちゃんが面倒見てくれてたから、腰の調子がいい。その2人を押さえるのがオレたちの仕事ってことだろ」
〈お願いします〉
リアレさんとアルフレッドさんは、ここで別れるつもりみたいだ。
「人質救出が始まれば、ヤツらには潜入の事がバレる。その瞬間オレたちはヤツらを撃つ。おっ始める前に、人質にたどり着けよ」
「ここにいる全員、生きて戻ろう」
幹部2人からの激励は、結構頼もしかった。
「リアレさんも、どうかご無事で」
多分その言葉が、セルマの立場で出せる精一杯の激励だったんだろう。
「あぁ、頑張るよ」
会話を最後に、2人はアタシたちの隊と別れた。