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帰りたい(306回目)  【ツバサ作戦】


 マガリ村に着いた私たちだけれど、その日は一日ゆっくりと言うわけにはいかなかった。

 到着後すぐに、作戦本部の設置されたテントへと向かう。


「だーい丈夫か嬢ちゃん、ここ来て早々業務があるとは大変だね」

「いや、アルフレッドさんもなんですけど……」

「まーな。おじさんにはキツい重労働だ。だからサポートはよろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」


 そして設置された作戦本部の一角にて集まったのは、ミリア、クレア、アルフレッドさんとリアレさんだ。



「先に説明した通りですね。皆さんには、敵施設への潜入実働部隊をしてもらいます」


 資料を配りながら、大まかな説明をする。


「アデク隊長の以前住んでいたログハウスがこの作戦の第2拠点になっているので、みなさんはそこまで今日中に移動し泊まってもらいます。

 拠点には人質救出部隊のへリア隊とリアレ隊、そしてアデク隊のセルマが先に現地入りしていますので、明日の明朝に潜入を開始してください」

「了解だ」


 全員が穴が空くほどレジュメに目を通す。

 そこまで複雑なことは書いていないけれど、作戦の書いた紙なんて現地に持ち込むことが出来ないので、この場で暗記するしかないのだ。


「リアレは潜入組を率いて人質救出、戦闘になった場合は、オレたち幹部が魔女や魔人を足止めする。それでいいな?」

「了解しました」


 リアレさんが子ども扱いされているのは意外だったけれど、そう言えばこの2人にも、全く繋がりがない訳じゃないのか。

 アルフレッドさんにとっては、リアレさんはまだまだそう言う対象なんだろう。


「それと皆さん、軍服にこのバッジを付けてもらえますか?」

「なんじゃこりゃ?」

「撮影機です。ちょっと私の物を起動させてみますね」


 私がバッジを装着し、本部に設置された投影機を起動させると、そっくりそのまま私の姿と周りの映像が映し出される。

 これなら兵士たちの現場での状況が分かるので、通信機より便利だろう。


「これで映像を撮ってるってことか? 敵に探知されちゃうみたいなことは無いんだろうな?」

「映像を撮ってるのとは、また違うらしいです。

 この投影機で人間から出る魔力波を勝手に傍受出きるようマーキングする装置なので、バッジを付けること自体に影響はありません」


 もし敵地のど真ん中でそんなものをぶら下げようものなら、探知兵に見つかって囲まれてしまう。


「へぇ、おっきい画面。プロマみたいだね~」

「そもそも戦争時の魔力波通信の実験台として、街に映像を放送したのがプロマですから」

「あれそんな経緯だったの!?」


 結構知らない人が多いけれど、あれは立派な通信兵器だ。

 つまんないだの楽しくないだの言われている軍放送が未だに放送されているのはそのため。


 ほとんどの周波数を民間に買われて今その設定は形骸化してしまっているけれど、ようやくこうして成果を還元できた。

 開発局の人たちが頑張ってくれたのが、ようやく実用化に至ったのだ。


「通信に関しても、敵に傍受されないようにする魔法が開発されました。ただし常時発動というわけにはいかないので、敵本拠地で連絡する場合は必ずセルマに伝えてください」

「了解した」



 その後事前確認諸々を済ませ、出発の時が来る。

 村についてすぐの慌ただしいものにはなってしまったが、全員あまり顔に疲れの色は出ていないようだった。


「中継地点までは馬車で半日です、夕方前には着くと思います。

 作戦の要である皆さんには申し訳ないですが、先日のようにジャックされる危険性も考えて、転移魔法は控えさせてください」

「仕方ねぇさ、おじさんは精々腰を大事にしながら行きますよ」


 通常の転移魔法は魔力が莫大に必要で、距離が長くなるほどその比率も大きくなる。

 この距離じゃそもそも、普通の魔術師なら3割の距離も運べずにへばってしまうだろう。


「迷いの森と言うくらいですから、移動の案内はこちらからもさせてもらいます。くれぐれもはぐれないようにお気をつけて」

「誰かさんみたいに途中で迷子になったら大変だもんね」

「あ”?」


 睨んだらすごすごとクレアの後ろに下がっていくミリア。



 その代わり前に立たされたクレアがこそこそ近づいてきて耳打ちしてきた。


「なぁエリー、そういやスピカは? 参加できねぇのはアイツが姫様だからか……?」

「いや潜入任務にスナイパーは、相性が悪いからです」


 遠くから狙う人が相手の懐に潜り込むのは、悪手だと私は考えた。

 わざわざ向いていない戦地に、仲間は送り出したくはない。


「先に説明しとけばよかったですね。あと、スピカちゃんにしか出来ないことがこちらではあるので、こちらに残ってもらいます」

「アイツにしか出来ないこと?」

「作戦の一貫で、待機してもらいたいんです」


 クレアはそれを聞いて少し安心したらしかった。

 確かに危険な任務だけれど、それを理由にスピカちゃんを遠ざけるということは、私の指示ではあまりしたくはない。


「気にしてくれてたんですね」

「エリーには任せっぱなしだったけど、今回はアタシがしっかりしねぇと」

「もしかして何か心配ごととかありました?」


 緊張するのは分かるけれど、それを差し引いても今日のクレアは表情が暗かった。



「あんまこういうこと言うのアレだけど、ミリアは同じ隊になって初任務だし、セルマってあの人絡むとおかしくなるからさぁ……」


 そういいながらクレアはリアレさんの方をチラリとみる。


「い、いやあの子達も大人ですし、いざというときには頼りになりますし、信用して、いいんじゃないですかね?」


 残念ながら強く否定できない。疑問系になってしまった。


 セルマはリアレさんが関わって、暴走していた時期がある。本人も反省してはいたけれど、また同じことにならない保証はない。


 ついでにミリアの事が心配というのもよく分かる。

 最近の浮わついたアイツの言動は、確かに背中を預けるには不安すぎると思う。


「クレア、幹部が2人もついていて滅多なことはないと思いますけど。今回は本当に頼みましたよ……」

「任せろって言いたいけど、安請け合いはしにくいなぁ。善処するけど……」

「充分です」


 そもそも私だって普段からリーダーとして務められているとは思っていないので、それをクレアに全て押し付けることはできない。

 新人の彼女達はせめて、アルフレッドさんとリアレさんの足を引っ張らない程度に立ち回ってくれれば、私はそれで充分だとさえ思っている。


「向こう着いたら、セルマにもよろしく言っといてください」

「ん、分かった」


 そう言って、彼らは戦場へと出発したのだった。




 私はと言うと、大手を降って見送りはしたけれど、さっきの話で心配がぶり返してしまった。


「人選ミスったかなぁ……」


 いや、ミスでは済まされない。


 それに修行を経て強くなった彼女たちなら、大丈夫だと言うのは、何度も実行前に確認したことだ。


「エリアルさーん! どこ行きましたのぉー!?」

「わっ、ビックリした。アダラさん戻ってこれたんですね」

「こちらでも打合せしてましたの、最高指令官様はあまり本部から離れて欲しくないのですけど?」


 見送りくらい、いいじゃないかとも思ったけれど、まぁそう言う小言も同行した王国騎士の務めなんだろう。



『よしっ……』


 気合いを入れ直して、私は本部へ戻る。

 今できる限りの事を頑張ろう。それが私にできる、クレアたちへの精一杯のサポートだから。



 そして本部へ戻るとハーパーさんはじめ、作戦の司令塔達が集まっていた。


「アルフレッド達が出ましたか」

「はい」

「では、号令をエリアルさんからお願いします」


 作戦の開始は、彼らの出発が合図だと決めていた。


 私は軽く息を吸うと、声をあげる。



「これより【ツバサ作戦】本格始動です、みなさんよろしくお願いします!」


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