会議後、幹部たちが集まった。
出発前の再確認も兼ねた、決起集会のようなものだ。
「リアレさん。本当に、本当に、イヤな役を押し付けてしまいすみませんでしたっ!!」
「いいよいいよ、セルマも頑張ってるんだ。それくらいさせてよ」
会議前、リアレさんにはあらかじめ例の質問をして欲しいと、私から頼んでいた。
どうせ情報の早い隊長達の中では疑問視している人もいるだろうし、戦いの前にムダなしこりは残しておきたくなかったから、先に謝ってしまうことにしたのだ。
この街に帰ってきたのに恋人のセルマはいないし、すぐに戦争に駆り出されるしで、そんなお願いをされたらイヤな顔をされるかと思ったけれど、心優しい彼は快諾してくれたのだった。
「それより、さ────」
彼はトンと、拳を突き出す。
「君のアツい気持ち、僕は見れて良かったよ。リアレ隊はこの作戦全面的に協力させてくれ」
「あ、ありがとうございます……」
彼と拳を付き合わせて思う。
あぁ、こういうタラシな所が、この人の悪い所なんだなぁと。
しかし(表面上)爽やかに指揮を高めているところで、他の幹部達はあまりいい顔をしていなかった。
「おじさんは反対だな、あんな演説は。わざわざ謝罪を若いのにさせるなよっての」
「他の隊長達も気付いてるかとは思いますが、ララもあまり賛同はできません」
「元はアンドル指令、ハーパー指令の裁定であるからな。後から就任したエリアル指令に背負わすなど、言語道断という他ない」
アルフレッドさん、ララさん、ザブラスさんのベテラン幹部達は苦い顔をしていた。
「な、何かごめんなさい……」
「ほーらまた。そうやって悪くないのに謝ちゃうの、よくないぜ? ま、こっちは元々協力する約束だしいいんだけどな」
「ララ隊も全面的に支援しますよ」
2人の協力を得られるのは、非常に大きい。
正直国でも貢献度と好感度ならば、トップ2の2人だ。
彼らが味方に付いてくれるのなら、賛同してくれる隊も多いだろう。
「すまないがエリアル指令、ザブラス隊は欠席させてもらおう。ここまで幹部が街を離れるのでは、敵の標的になる危険がある」
「はい、こちらの守備はお願いします」
正直ザブラス隊は強力な戦力なので出来れば参加して欲しいが、彼ら以上に街を守るのに適した隊もない。
ここは残ってもらうのが最適か────
「ま、ここまで集まれば出来ることはやってみたって感じじゃねぇかな。どうだ、エリアル嬢?」
「いや、やっぱりみんな協力してくれるか不安で……」
そりゃあ一応の最高司令官の命令には従うだろうけれど、軍隊には指揮というものがある。
やる気のない兵士をぞろぞろひきつれて戦争と言うのは、流石に結果が見えてしまう。
「ま、だーいじょうぶだろ。希望がある任務は人が付いてきやすい」
「どういうことですか?」
「行方不明になった隊員がいる隊も、この街には多い。そいつらが取り返せるかもしれないとなれば、興味くらい沸くだろうよ。
仲間たちが帰ってくるかもしれないってのは、それだけで価千金だ」
「……………………」
それは、とても残酷なことなのではないだろうか。
親しい人間が帰ってくるかもしれない、またあの人に会えるかもしれない。
そんな気持ちで期待して任務に挑んでも、彼らが帰ってこない確率の方が高いだろう。
失った誰かに会いたいと言う気持ちを利用するのはきっと、とても残酷なことだ。
「何だか私、取り返しのつかないお願いをしてしまったんですかね……」
「はっ! やっぱ嬢ちゃん向いてねぇな、司令官」
「はいそうです、誰か代わってください……」
その言葉には全員が目を逸らす。
こういう時は味方してくれないのか、この大人たち────
「ま、そんなの連中も分かってるだろーさ。それにアイツらだって戸惑ってるんだと思うぜ?
ハーパー司令もアンドル司令も、頭を下げるようなタイプじゃなかったしな」
「そうだったんですね……」
それはそれでどうなんだろう。
「なるようになるって、司令官はオレらに任せてどっしり構えときな」
※ ※ ※ ※ ※
軍隊出動当日、エクレア正門にて────
「いざ出撃っ!」
街を揺らすような怒号が飛び交う。
号令したアルフレッドさんによると、大きな戦いの前にはこうして指揮を高めるそうだ。
近所迷惑が心配。
「指揮は上々ってとこか」
「そうですかね?」
「こーゆー仕事、長年やってんだよ。ちょっとは信用してくれ」
彼にそういわれてしまうと、イヤでも信用してしまう。
国最強の戦士と言うのは、そう言う不思議な魅力があるものだ。
「アルフレッドさん改めて初めましてですわ! 王国騎士のカペラ・カルダーですの」
「初めまして」
馬車の中、握手をする2人。
いくら軍と王国騎士の協定があるとは言え、カペラさんの立場までは明かせないか。
「そう言えば敵地には魔人や魔女がいるかも知れない、とのことだったが。カペラ女史は今まで接触の経験は?」
「一度だけ。先日のアリーナへの侵略もありましたし、王国騎士も緊張は続いていますの」
魔人/魔女────その名を聞いて、軍人で警戒しない者はいないだろう。
彼らはいわば、ノースコル国王の懐刀とも呼ぶべき存在だ。
12人の戦士が軍とは別に、国の発展と防衛のため国王直属に配下として置かれている。
そして国王直属と言う性質故に滅多に戦いの舞台には姿を表さないハズたのだが────先日【紅玉の魔女】の称号を持つルールの介入により、こちらは彼らを警戒せざるを得なくなっているのだ。
「2人は指揮官とその付き添いだ。やつらと対峙したら、まず逃げることを考えて欲しい」
「そのつもりです」
私じゃまず相手にならず、ぶちのめされるのがオチだ。
みんなを前線に出させといて申し訳ないけれど、本部で出来ることを頑張ろう。
※ ※ ※ ※ ※
「だははは! 流石プリンセス! 笑いのセンスが違う!」
「アルフさんこそ! 腹が千切れるかと思いましたわ!」
この人、アッサリ喋りやがった────
アダラさんが第二王女だと知ったアルフレッドさんは最初こそ驚いていたが、それで打ち解けたのか2人の会話は弾む弾む。
数日後、目的地のメグリ村に着く頃には2人は意気投合し、馬車の中は大盛り上がりだった。多分悪い意味で。
「いや~、思いの外良い旅になっちまったぜ。こんなに笑ったのはいつぶりか分からねぇ」
「楽しかったですわ~!」
なんか2人とも色々と終わった感を出していたけれど、本番は今からだ。
そして近くの馬車から青い顔をしたレスターさんが降りてきてアダラさんをぶん殴る。
「最高司令官様、申し訳ありません! 私が馬車に同乗出来なかったばかりに!」
「いや、別にいいですよ。彼女が同乗してくれて、私も助かりました」
私も案外楽しかったし、緊張もいくらか和らいだ。
多分死にそうな顔をしている私を見かねて、2人が気を遣ってくれたんだろう。
「アルフレッド様、どうか彼女の出生の件はご内密に────」
「そのつもりです。口は固い方なので信用いただきたい」
レスターさんはこちらに深々と頭を下げて、頭を押さえるアダラさんを引きずって帰っていった。
「王国騎士の部隊長というのも大変だなぁ」
「あ、はい、そうですね……」
それはそうなのだけれど、どこか他人事の彼を見て、私は余計にレスターさんが不憫に思えた。
最強の戦士はそうなのだろうけれど、何だかアルフレッドさんの適当さが【怪傑の三銃士】を彷彿とさせて、ゲンナリしたのだった。