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帰りたい(303回目)  いい御身分の姫様たち


 国王様から後日説明の約束を取り付けた後、王子様と王女様、王妃たちが続々と食卓に集まってきた。


 どうやら皆さん、私達が食堂で何か話し合いをしているのを察していたようで、邪魔をしないようにと近付いていなかったらしい。(アダラ様以外)



「む? 今日は子供達全員集まってるな」

「そうね、いつぶりかしら?」


 見知った顔も何人かいるとはいえ、王室ロイヤルファミリーが全員並んでいるのは、かなりの壮観だ。


 ここ何日かのお城で暮らしで夕食も度々いただいるけれど、国王はもちろん子供たち7人も、集まりは中々まばらだった。

 昨日までいなかった誰かがようやく来たかと思えば、誰かが必ず仕事や付き合いでいないと言った感じ。


 国王はもちろん、次期国王に王国騎士、軍人や貴族に嫁入りと、みんな仕事があったり嫁いだりで忙しい身なので、夕食に顔を出せる余裕がないんだ。



「こうやって子供達の成長を見守るのは、私の喜びなの」

「あぁみんな、ここまでよくぞ育ってくれた……」


 一堂に会した子供達を見て、少し涙ぐむ王妃様と、感慨深そうにそれぞれの顔を見る国王様。


 王室であると言う苦労や、次男の死という悲しい過去を乗り越えて、彼らはようやくそれぞれが一人前となったのだ。

 親としてこれ以上の喜びは無いのだろう────



「まぁ、関係ない方が一名いますけどね!」


 アダラ様のその一言で、場の空気がいっぺんに張りつめるのを感じた。

 謎の緊張感が食事の席を駆け巡る。


 あんなに暖かな雰囲気だったのに、こんな地獄みたいな空気になる事なんてあるんだと、胃をさすりながらほんのり思った。


「姉さん。それは皆が気付いていて、皆が敢えて・・・クチに出さなかったことだよ」

「何故ですの?」

「彼女は国を救ってくれた英雄だから、父さんがお城に招いてるんだ。その人がいる前で、そういうことは普通言わないんだよ」


 ほーん、と軽く納得したような、よく分からないような声を出したアダラさんは、そのまま食事を進める。



「そ、そう言えば今日、城の庭で蛇を見たんだけど、あれ確か毒蛇じゃなかったかなぁ?」


 三男ハダル様の無理矢理な話題によって、会話は別の方向へ進んだ。



 早く引っ越し先見つけないとなぁ────




   ※   ※   ※   ※   ※




 そして夕食後、私の借りている部屋にて。


「ほら、もっとちゃんと謝るんだよアダラ! 客人に失礼を働いたんだからちゃんと!」

「ごべんなざいいぃぃっ!」


 次女アダラ様が、長女エレナト様に連れられて謝罪に来た。


「姉として私からもごめんなさいっ!」

「スピカも、妹として……」


 何故か着いてきたスピカちゃんと共に、頭を下げられる。

 もしかしてこの国のお姫様3人に同時に頭を下げさせてる人間て、この国始まって以来なんじゃないか────



「あ、あのぉ、私は全然いいですから、頭を上げてください……」

「いや、そういうわけにはいかない! 妹の教育のためでもあるんだよ! 何故ダメだったか分かるかなアダラ!?」

「相手がイヤな気分になるからですわぁ……!」


 ちなみにスピカちゃんは早々に頭を下げるのを止めて、持ってきた紅茶を椅子に座って啜っていた。

 姉たちが頭を下げてるのを、どんな感情で見てるんだ。


「本当に次から気を付けさせるから、何卒!!」

「わ、分かりましたから、本当に私は別にいいですからっ…………」


 このままじゃ、国で別の意味で有名になってしまう。

 これ以上の悪目立ちなどしてしまったに日は、私の身が持たない。


「そうか、許してくれるそうだよアダラ。こういう時は何て言うんだっけ?」

「ありがどうございまずぅぅぅっ!」


 泣きながら言われるとこっちが申し訳なってくる。


 あまりに不憫だったので、椅子に座らせてそっとしておくことにした────



「ごめんね、せっかくゆっくりしてたところに」

「いぃえぇ」


 流石にあんな形相で部屋に来られたら、追い返せるわけない。


「ところでぇ、なんだけど。エリアルさんからまだちゃんと聞いてなかったと思ってさぁ────」

「まだ?」

「ほら、君の武勇伝だよ。お願い! もう一回聞かせて!」


 断りにくいなぁと思いつつ、今度はじっくりアリーナでの戦いの話をした。




   ※   ※   ※   ※   ※




「いい武勇伝だった……」


 全てを聞き終えたエレナトさんは恍惚としていた。対して私はゲッソリ。

 なんだか生気を吸われたみたいだ。


「あの、今さら訂正するのもあれですけど、武勇伝ではないですよ。私は誇りたくはないです……」

「私は昔からこうして、武勇伝を聞くのが好きだったんだ」

「はぁ」


 話聞いてくれない。もう何でもいいや。


「昔はよく家に来た父の友人や軍のお偉いさんなんかに、こうして勇ましい功績を語ってもらったものさ。

 アダラも昔はこういう場が好きで、一緒に聞いたのは良い思い出だ」

「そうだったんですね」


 確かに私のような食客は珍しいけれど、城へと来る来賓客は多い。

 そんな中で幼い姫様たちが、名のある戦士たちに武勇伝の話をせがんでいたのを想像すると、なんだか微笑ましく思えた。


「まぁ、それはもう今では叶わないからな」

「やっぱり離れて暮らすと、一緒にいられる時間は減りますもんね」

「そう────アダラは、私が嫁いでまた帰ってくる頃には、すっかり性格が様変わりしていた。昔はスピカと瓜二つだったんだけどな」

「えぇ?」


 さすがにそれは冗談かと思ったけれど、見透かされたのかエレナト様は、じとっとこっちを見ていた。


「あー信じてないなー」

「そ、そんなことはないですけど……」


 身内フィルターというのは、あれがあれに見えるのだから不思議なものだ。

 それともやっぱり、エレナト様も独特の感性がそう見せているんだろうか。


「ま、まぁ2人は姉妹ですもんね、そりゃ似てますよね……」

「アダラ、何かイヤなことでもあったのかな? スピカの時もそうだけど、妹達が大変な時、側にいてやりたかった。

 私はいつの間にか、遠くに来てしまったんだな……」


 スピカちゃんの大変な時期────親と喧嘩して家出した時だろう。


 あまり家の事を話したがる子ではないので、その辺は私も分からなかった。



「っと、愚痴のようになってしまったね。何にせよ、みんなが集まれたのは君のおかげだし、少しだけ昔に戻ったみたいで嬉しかった」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

「うん。これからも私に出きることがあったら何でも言って! あとここにもずっと住んでていいから!」


 それは流石に勘弁願いますといいかけたところで、アダラ様が起きてきた。


「ふぁ~あ? 何ですの? 何かしんみりしてますわね!」

「アダラお前、謝罪に来てその部屋で熟睡って、いい身分だね」

「はっ! ごごご、ごめんなさいまし!」


 慌ててヨダレを拭うアダラ様。まぁ、実際いい身分なんだけれど。


「はっ! そうですわ! 私エリアルさんに伝えなければいけないことが!」

「え、話って何ですか?」


 急に思い出したように話を逸らすアダラさん。


 バレバレのタイミングは哀れでさえあるが、武士の情けで一応聞く。


「例の支援協定についてですわ! 今度の任務では、エリアルさんには私が付いていくことになったのでお願いします!」

「あっ、そうなんですね。分かりました」


 本当に大切な話だった。そしてもっと早く言って欲しかった。


「ハーパーさんはカペラが付き添いを、ついでにレスター隊長もいくので! ひいては作戦をこの場で教えていただければ!」

「分かりました。えっと────」


 あと、時と場所を考えて欲しかった。



「あぁ、私がいたら話しにくいよね。そろそろ帰る。スピカは連れてく?」

「ごめんなさい。スピカちゃんもお願いしていいですか?」


 お姫様を使いっ走りにするなど、これっきりにしたいところ。


「ん、スピカは?」

「いやお姉様、スピカならとっくに出てきましたわよ」

「いつの間に!?」


 さっきまでいたハズの布団をエレナト様がめくったが、確かにスピカちゃんはいなかった。

 相変わらず自分に関係ない重要な話を回避するスキルが高い。


 巻き込まれ体質の私も見習いたいものだ。



 私はエレナト様が部屋から出るのを確認して、話始めた。


「で、任務の内容とは? わざわざ最高司令官が2人出撃するなんて、全面戦争でもしますの?」


 うわぁ、いい線行ってる────



 先ほどアダラさんが言っていた「協定」、それはエクレア軍と王国騎士の間に定められた取り決めだ。


 エクレア軍は国王が危険地帯へ行く場合、幹部以上の人員を派遣せねばならず、王国騎士側も最高司令官が戦地へ赴く場合には人員派遣の必要がある。


 まぁ互いを守るためと言いつつ、王国騎士側にとっては、最高司令官が戦地で勝手な政治的決定をしないよう眼を光らせる狙いがあるんだろうけれど。



 今回の場合例えどんな思惑があろうと、味方戦力は少しでも多い方が嬉しい。


「えっと、任務の内容はですね────」

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