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帰りたい(296回目)  ごめん、親友



 もうミリアを逃すわけには、いかないのに。永遠に会えないかもしれないのに!


 私はアイツの背中に、手を伸ばすことしかできないなんて!



 誰か────


「うおおおーーーっ!」

「えっ!?」


 その時、ものすごい速さで何かが後ろから私を追い抜いていった。

 その物体はすぐにミリアに追い付き、彼女の行く手を阻む。



「おーーらっ!」

「っ!?」


 流星のように接近したボード・・・は、ミリアを叩き落とした。

 間違いない。このタイミングで、来てくれたんだ!



「意趣返しだ! エリー、間に合ったか!?」

「クレア!!」


 ボードに乗って駆けつけたクレアが、こちらに手を振る。

 良かった。既にボロボロだけれど、大きな怪我はない。


「コイツ以外の敵は追っ払った、多分もう大丈夫だ!」

「ナイスタイミング! 大好き!!」

「よせやいっ!」


 クレアには、それ以外の敵の一掃を頼んでいた。

 刺客が彼女だけとは限らなかったからだ。


「やっぱり、刺客は他にも来たんですね」

「いたよ、少なかったけど。ノースコルの軍人が3人、前に見た奴らだな。

 その中のチビはなぜかアタシらの戦い見て、鼻血吹き出して倒れたけど」


 あーその3人、絶対知ってる人たちだ。



「ありがとうございます、ゆっくり休んでてください」

「バカヤロー、見ろよ!」


 見ると、またミリアが立ち上がっている。

 本人はとうに限界なんか越えているハズなのに。


 そこまでなんですか、貴女の気持ちは────!



「おいミリアとか言うやつ! 下手に動かねぇ方がいいぞ」

「っ!!」


 クレアの忠告も構わず、ミリアは逃げ出す。

 しかし、彼女の足元に一発の弾丸が掠め、やむ無く後退した。


 向こうの崖の上からの掩護射撃、恐らくスピカちゃんだ。


「────!!」

「そのまま捕まえてあげる! “全方位鎖封じオールディレクションチェイン”!!」


 突然地上から伸びた鎖が、展開されたバリアを機転に周りへ広がり彼女を取り囲む。


「セルマ!」

「エリーちゃん! 今よ!」


 迫るそれらを何とか対処して行くミリアには、大きな隙が出来た。

 そして彼女が鎖から逃げた先には、私がいる。


 直感的に感じた。そうか、ここが決着か、と────ごめん、親友。



「“碧鹿エメラルドハインド”……!」

「……………………!!!」



 私の放った放水砲が、ミリアを地面へ叩きつける。


 彼女の吐血が見えた、胸を打ち骨が折れる音が聞こえた。

 ダメージによって“聖霊天衣”は解除され、本来の彼女が露になる。



「ミリア、一緒に帰りましょう。そんなにボロボロになって。何とか出来る段階は、とっくに過ぎてます」


 もう、ここまで負傷してしまっては、戦闘続行は、難しい、だろう。

 彼女にとっても潮時のハズだ。



「イヤ、だよ」


 フラフラと立ち上がったミリアは、そう吐き捨てた。

 彼女から声が出て、今日一番驚いたかもしれない。


「一番諦め悪いのは自分のクセに、よく人にそんな事、臆面もなく言えるよね……」

「────ですね」


 今までコウモリの聖霊インビジブル・バットのバッつんと“聖霊天衣”をしていたミリアは、人に聞こえる範囲の声を出せなかった。

 代わりにエコーロケーションにより、フードを目深に被っても周りの様子を把握できていた。



 それが“聖霊天衣”が解けたことで、言葉を発っせられるようになったのだ。


「私は帰らない、帰れない……!」

「いいえ。どちらにせよ、連れて帰ります」


 周りにいた仲間たちは、彼女を取り囲んでいる。


 私と、ロイドと、セルマと、クレア。

 死角はない。今度こそ、逃がさない。


「それでも────がっ……!」

「少し黙ってろよ」


 動き出す前に隙を突いたロイドから手刀を打たれて、彼女は地面へ倒れ込んだ。


 意識は、無くなっている────


「ありがとうございます、ロイド」

「さっさと帰るぞ。気分が悪い」


 それだけ言うと、彼は淡々とミリアの拘束を始めた。


「はい……」


 嫌な役割を押し付けてしまっている、分かってる。ロイドだって辛いんだ。


 けれどあんな風に業務をこなすのは、私には出来ない。

 それを彼も察して、前へ出てくれたんだ。




 そしてしばらくしているうちに、離れていた2人も追い付いてきた。


「ミリアぁ、よくもぉ」

「止めなって」


 フラフラとミリアに殴りかかろうとするイスカ。

 おぼつかない足取りは、身体を支えていたリゲル君にあっさり止められた。


 正直ロイドよりこっちの方がひどい気がするけど────


「捕縛した人間への、独断での攻撃は倫理規約違反。でしょ?」

「知らんよ、友達には関係ないもん……」


 本人に言葉は届いていないだろうに。

 何にせよ暴れないならこのまま、街に連れていくだけだ。


「ロイドも、お疲れ様。ありがとうね」

「────ちっ……」


 リゲル君が、座り込んでいたロイドを引っ張る。

 長い“聖霊天衣”の後だ。彼の疲弊も相当大きいだろう。




「エリーさぁん……」


 唯一、少し離れたところにいたスピカちゃんが鉄の鳥かごを持ってきた。

 中にはバッつんが入れられている。


 後で彼とも、ゆっくり話をしなければならないな────


「ありがとうございます、スピカちゃん。ごめんなさい任せちゃって」

「スピカはあの人に、特に思い入れとかないから……」


 確かにスピカちゃんとミリアは、私達が王宮へお呼ばれしたとき、一度会っているだけだ。

 クレアはミューズでの戦いと聖槍をめぐる戦いで、セルマはチームを組始めた頃に会っていてミリアの方も見当がついているみたいだったけれど、スピカちゃんだけは多分、誰かよく分かってなかっただろう。


「それでも、来てくれたんですね」

「もちろん……!」


 正直、今の隊の3人に手助けして貰うのは迷っていた。

 関係ない彼女達を、巻き込んでいいのか────


 それでも私が皆にお願いをした時、皆は私からこうして頼った事が余程意外だったのか、しばらく押し黙っていた。


 けれど、快く承諾してくれたのを見て、私も少しだけ何かが吹っ切れた気がしたんだ。



 こうして考えると、今までこうして誰かを頼る事って、本当に出来ていなかったんだと実感させられる────



「何してんだエリー、夜が明けちまうぞ」

「あぁ、ごめんなさい」


 ミリアを担ぎ上げたロイドに呼ばれて、私も立ち上がる。


 若干東の空が白み始めている。

 早く帰らないと街に人が出てきて、私の周りに人が集まってしまうかもしれない。


 ミリアを護送しながら、それだけは避けたい。



「皆さんありがとうございました。帰りましょう、街に」

「────ちゃえ……」

「え?」


 聞こえた声は、ミリアのうわ言だった。


 言葉になら無いような程小さな声で、何かを喋っている。


「ミリア……?」

「全部、無くなちゃえ────」

「っ!!?」


 その時、強烈な魔力をミリアから感じた。


 この感じには覚えがある。大会でセルマが、自爆をしたときと同じだ。



「退避してください皆さ────」


 間に合わない。


 爆発の衝撃が、荒野の大地を揺らした。

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