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帰りたい(295回目)  ガラでもねぇから



 “精霊天衣”で発生するエネルギーを使って、自分の周りに壁を作り出しているんだ。



「てめぇとも決着つけてぇと思ってたんだ。

 いい機会だ、やってやるぜっ!! “精霊天衣”!!」


 凄まじいエネルギーとともに、ロイドが女性の姿になる。

 彼の内にいる概念聖霊との一体化は非常に強力だ。


 でも────



「ロイド! あんまり飛ばしすぎないでください!」

「うるせぇよ!」


 ロイドの“精霊天衣”は人獣が一体となる瞬発型。リアレさんのように出力は高いけれど、持久力はあまりない。すぐバテる。

 長期戦を考えたら、ミリアのような衣形態の持久型天衣には不利なハズだ。



「おらよっ!」

「っ!!」


 2人の激しい直接戦闘ステゴロの応酬は熾烈を極める。

 スピードのミリアと、パワーのロイド。大会でもここまで激しい試合はなかっただろう。


 つまり小さい規模で収まらない、こちらにも被害が出て陣形が崩れる!


「“精霊亜空”!」

「うわっ!」


 ロイドの空を裂く攻撃を避けたリゲル君、その隙間を縫ってミリアが逃げていった。


「待てコラ!」

「うっわ、何やってんですか!!」


 しかし声も聞かずどんどん2人はぶつかり合いながら離れていく。

 もう一度陣形を組み直さないと、包囲するのは無理だ。


「みんなで囲む作戦だったのに……」


 前々から戦闘狂なのは知っていたけれど、ここまで状況判断の出来ないヤツだとは思わなかった。

 よくあんなんで任務とか出来るものだ。


「リゲル君、普段からアイツあんなんなんですか?」

「うーんどうだろうねぇ」


 そう言いながら彼は、スタスタとイスカの方に歩いていく。


「軽くツンと」

「ふえぇ~……」


 軽くこづいただけで、イスカがへなへなと崩れ落ちてしまった。


「ど、どうしたんですか!?」

「どうしたじゃないよ、首を刺されたんだぜ? 彼女だから、この程度で済んでるんだ」



 そうだ、イスカの【メタモル・ツリー】は身体を切られても回復できるけれど、その分疲弊するのだ。


 大会で首を取った時だって、何日も入院するような事態になったんだ。

 そもそも戦闘続行なんて、出来るはずがない。


 それを分かった上でロイドは、敢えてミリアを引き離したんだ。


「ごめんなさいイスカ、気付けなくて……」

「だ、大丈夫……僕はまだやれる……!」

「止めときなよイスカ、しばらく休んでからいこうぜ」


 リゲル君に無理矢理に地面へ座らされて、さすがの彼女も諦めた。

 気張るイスカだったけれど、その姿はやはりきつそうだった。


「いくらミリアを捕まえるのが優先でも、こっちの命を本気ではかけられない。安全第一が君のモットー、だろ?」

「当然です────」




   ※   ※   ※   ※   ※



 私は“聖霊天衣”で空へ羽ばたいた。


 イスカはリゲル君に預け、ロイドとミリアを追いかける。

 ロイドの事だから私が追い付くまで、彼女を逃がすと言うヘマはしないだろう。



 けれどそこからが問題だ。ミリアは、速い。

 だからこそあの速さを押さえ込むために、複数人で囲む必要があった。


 それが今から出来ないとなると、彼女を捕獲できる確率は少なからず下がってしまうだろう。



「私のせいで────」


 私が弱いせいでイスカは自分への攻撃を守れず負傷し、作戦は瓦解したのだ。

 むしろ首を刺された状態で、武器を奪うまでもっていけたのは、彼女でなければ出来なかった。



 油断なんかしていなかった、隙を作ってしまった理由は分かっている。

 このメガネ────“魔眼”防止メガネへの攻撃を恐れて、思うような動きが出来なかった。


 聖なる力に、超高純度の光の魔力、世界樹の葉を丁寧に練り込んで作るこのメガネは、まだ2本しか作られていない。

 これを壊され下手に眼を合わせてしまえば、いまの私のミリアを捕まえるという「目標」さえ、失いかねないのだ。



 しかし最早、恐れてはいられない────!


「いた……」


 ロイドとミリアが、ちょうど戦っていた。

 やはりロイドの“聖霊天衣”は続かず姿は戻っていたけれど、それでもしっかり喰らいついている。


 お互いに決定打に欠けて、攻めあぐねている様子だ。


「ごめんなさい!」

「ぬボーっとしやがって、何様だ?」


 ロイドの隣に立つと、イスカは一歩後ろに下がった。


「ミリア、コイツがそんなに警戒対象か? コイツが? 似合わない眼鏡かけかてるコイツが???」

「うるさいな……」


 戦いの途中、余計な茶々を入れられるのは嫌いだ。気が抜けるから。



「よぉ、だったらこうなる事なんて予想だにしてなかったろ」

「……………………」

「エリーがテメェじぶんのけじめをつけるために、ここまでやるヤツだとは思ってなかったわけだ……」


 けじめをつける──その言葉は確かに、私の目的を的確に表していた。

 本当は国なんてどうでもいい。私の側にいれないとしても、私はミリアに生きていてくれれば良かった。


 ただ彼女がどんな理由があれ、これからも多くの人が悲しむようなことをこれからもする可能性があるのだから。


 せめて私がミリアを捕えて、これ以上の罪を負わないようにするのが、私のけじめなのだ。



「エリーは強くなったよ。今日のために長い期間をかけて計画を練り覚悟も決めてきた。仲間に頼ることも覚えた。

 少し前なら考えられねぇような行動だ。だからこそミリア、テメェもコイツの事を警戒せざるを得ない」


 ミリアはその言葉に、逃げようともせずただ立ち尽くしていた。

 もしかして、ロイドの言葉に迷いが生じているのか。


「オレは正直どんな理由があれ、裏切り者になったお前がどうなろうが、知ったこっちゃねぇと思ってる。

 だがなぁ、あのマヌケのエリーがここまでしてんだ。一緒に背負ってやるのが、オレなりの仲間だ」


 動かないミリアに、ロイドはジリジリと近づいて行く。


「ガラでもねぇから、一度しか言わねぇ! よく聞けミリア!

 オレは今、エリアル・テイラー最高司令官と心を共にすることを誇りに思う!

 例えテメェが相手で、オレが迷うと思うなよ!」

「────っ!!!」


 かなり接近するまで、ミリアは動かなかった。


 そして彼女が我に返るよりも早く、ロイドが叫ぶ。


「エリー! 殺しちまうかもしれねぇが、いいんだよぁ!!?」

「いい、です!」

「もっかいいくぞミリア、“聖霊天衣”!!

 オレがテメェを沈めてやる! “キャノンボール・アクセル”!」


 空中を蹴り接近するロイドに対応できず、ミリアの身体に拳が入った。

 その間に私は後ろに回り込み、隙を窺う。


「────っ!!」

「オラッ! オラよっ!」


 強烈な拳の応酬が、何度もミリアに突き刺さる。

 何とか腕でガードしているが一撃一撃が彼女を追い詰めているのが分かる。


 なら────今だ!!



「“珊瑚連斬コーラルビート”!」

「っ!?」


 後ろからの切りつけにも、ミリアは素早く反応した。


 しかしその瞬間、彼女のガードが下がる!


「こいつの本気が分かったろ! オラよっ!」

「つっ!!」


 足で蹴られて、ミリアはそのまま地面を転がった。


 素早く追いかけたロイドは、そのまま馬乗りになる。


「どんなに速かろうが、こうしちまえば逃げれねぇだろ! 終いだ、本気で行かせてもらうぜ! 【リミット・イ────」


 満身創痍のはずのミリアの掌がロイドの腹に伸びていた。

 一瞬の素早さに捕えきれなかったけれど、ダメージはない。ただ手を添えただけ。


 けれど私はその瞬間、なぜか全身の血が引くほどの嫌な予感がした。


「何を────」

「っ!!!」


 瞬間黄色い光が身体を貫かれ、ロイドが後方へ吹き飛ばされた。


「ロイド!?」

「がっ────があっ!」


 不自然にからだが痙攣している。ただ魔力で攻撃しただけじゃ、ああはならない。


 しかも彼の“精霊天衣”が強制的に解除されている。

 いや違う、あれは弾き飛ばした・・・・・・のか!?



 強力な“聖霊天衣”は、それだけで周囲の空間に影響を及ぼし、魔力の膜を纏う。

 例えばロイドの先程の“キャノンボール・アクセル”は、その膜を踏み台に空中でも踏み出せる技だ。


 ミリアはその膜を相手の身体に打ち込むことで、“聖霊天衣”の力を弾き飛ばしたのだ。



「まさか、ミリア!」


 そんな事が出来るなんて、どれだけの連度が必要なんだ。

 そう思ってミリアを見た瞬間、彼女は既にこちらに迫ってきていた。


 まずい、同じことをされる。

 そう思い反射的に避けた私から、ミリアはそのまま────


「しまった!」


 最速のスピードで、空へと飛ばれた!


 私も追いかけるが速すぎて距離がどんどん離される。



「くっ、こんなところで……!」


 もうミリアを逃すわけには、いかないのに。永遠に会えないかもしれないのに!


 私はアイツの背中に、手を伸ばすことしかできないなんて!



 誰か────


「うおおおーーーっ!」

「えっ!?」


 その時、ものすごい速さで何かが後ろから私を追い抜いていった。

 その物体はすぐにミリアに追い付き、彼女の行く手を阻む。


「っ!?」

「おーーらっ!」


 流星のように接近したボード・・・は、ミリアを叩き落とした。

 間違いない。このタイミングで、来てくれたんだ!



「意趣返しだ! エリー、間に合ったか!?」

「クレア!!」


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