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帰りたい(289回目)  コン/レギ/プラ


 大きな戦いを終え目覚めたその日、私の家が観光地になっていた。



 と言うかリポーターやっているソニアちゃん、仕事の範囲が広いのは結構なことだけれど、この子だってそのアパートの1階がお家のハズだ。


 よくよく見るとちょっと涙眼だし、私のせいでなんか変なことになってしまって本当に申し訳ない。



「ほーらほら、スピカほら見てごらん? プロマや新聞記者の人達困ってるね。

 エリーがあそこへ帰らないとも知らず、あそこで待ちぼうけなのさ、ふふっ……」

「そうだねリゲル兄、ぐふふふっ……」


 そしてとりあえずこの兄妹の闇の深そうな話題には、触れるのは止めておくことにした。

 この2人は何かメディアに恨みでもあるんだろうか───


「て言うか、なんで私のお家が観光地に……」

「あ、エリーさんようやく泣き止んだ。えっとね……」



 どうやらスピカちゃんの言う事には、私がバルザム教官と相対した映像が街じゅうに広まったことで、プロマや新聞社等のメディアが取材目的で、私の家へ押し掛けてきたらしい。


 それをまた映像で知った人が、感謝の言葉を述べに来たり、一目見ようと野次馬目的で来たりして、事件から3日経った今日になってもあんな状態なんだそうだ。



 コンプライアンスとかレギュレーションとかプライバシーとか、そう言うの無いんですかね。この街には。


「3日間の新聞だよ、持ってきた……」

「うわっ」


 ざっと眼を通してみたけれど、ほとんどが今回の事件に関することだった。

 しかもその後私が行方を眩ませているものだから、書いている内容に進展がない。


「うっは、見てこれ! 【白練】のエリアル・テイラーだって!」

「何ですかそれ!?」


 果ては私に関しての考察に拍車がかかり、ついには異名のようなものまでついていた。


 私は別にそんな物貰えるような事してないし、そもそもいらない。

 何とか無かったことになってやしないかと資料を漁ってみたけれど、見れば見る程収集のつかないことになっていた。


「まぁいいじゃん、変なあだ名付けらんなくて」


 確かに世の中には目も当てられないような異名の人もいるけれど。【破壊怪獣】リーエルとか。

 それよりマシだからオッケーとはならないのである。


「そもそもそんな、止めてくださいよ英雄みたいな扱い……」

「実際英雄と言って差し支えない功績だと思うけどね。

 これがエリーじゃなきゃ、僕だって一度会ってお礼したいくらいさ」

「う~ん……」


 今さらリゲル君からお礼を言われたところで、なのだけれど、むしろ私はこんな状況でも彼にお礼を言わなければならなかった。


「あのリゲル君、家をまるごと運んでくれたことは(表面上は)感謝します。

 それとさっきは怒ってごめんなさい……」

「こっちこそごめんね。君にはよく(も)やってくれたと思ってるんだよ。

 色々と責任押し付けちゃってたから、そこも悪かった」


 確かにあの混乱に晒されて家に帰るよりは、ここでゆっくりできた方が良かった。

 このアグレッシブお引っ越しも、彼なりにそれをおもんぱかっての事だろう。


 何で私が謝らなければいけないのか釈然とはしなかったけれど、とりあえずお互い言外にイヤミを交えながら、この場は丸く収まった。



「いや、でもよく考えたらこんな事態、どうやって終息させたら良いんですか……」


 国の混乱は、まだ丸くは収まってなかった。

 これから終息のために色々しなければいけないと思うと、心が重すぎる。


「止めればよかったかも……」

「え、何て?」

「いや何でもないです」


 さすがにそんな事大声で言えるハズもなく、私は身体を丸めて布団に潜り込んだ。


「おいおい出て来なよ、今から会見が始まるんだぜ」

「は? 私、何にも聞いてませんが??」

「さんざん寝てたからだろ。安心しろって、君が出張る必要はないんだから」


 その時画面が切り替わって、どこかの会議室が映し出された。

 そしてそこに立っているのは、バーパー最高司令官だ。


「あの人が昨日ここに来たんだよ。後の収集は任せてゆっくり休めってさ」

「えっ……?」


 正直あの人がここに来たこと自体驚きだった。


 今回の件で色々と根回しや協力をしてくれたことには感謝しているけれど、私は未だにあの人の事が掴めずにいた。


「あと、感謝してる、このお礼はいずれって」

「そうです、か……」


 しかも感謝の言葉まで。まぁそれを真に受けると、後でこっぴどく騙されそうなので、言葉半分に受け取っておくことにする。



「それよりエリー、随分とハーパーさんは君に恩があるらしいじゃないか」

「そんなことないですよ、むしろ大分助けてもらったし。恩があるのは私の方ですけど?」

「でも向こうはそうは思ってないみたいだ。

 どうだい、ひとつここで国盗りでも」


 そう言って、リゲル君は気安く肩を組んでくる。

 別にそれはいいのだけれど、私は敢えて強めにその腕を振り払った。


「────ご生憎様、乗れませんよそういうモノには。やるなら他当たってください」

「なーんだ、残念」



 彼にはそう言う野心はない。


 今のは多分、彼なりの警告なんだと、私は思った。



 よくよく考えてみれば、いまこの国の最大戦力であるエクレア軍の最高司令官は2人。

 そしてそのひとりは、私に恩があるのだ。


 強制業務執行権パーフェクト・コマンドもある以上、この国の「力」が私に集中してしまっている。


 私的には望むことではなくても、周りはそうは思わないかもしれない。

 国王様に言われたのか、王国騎士としての義務かはわからないけれど、そうやってかまをかけることで、私にその意思があるかをリゲル君は確認したかったのだ。



 まぁ、彼の事だから私がのるなんてつゆ程にも思ってないだろうし、騙されないように気を付けろ、くらいの意味合いなんだろうけれど。



「うわっ、リゲル兄そういうことするの? ぱぱ裏切るの……?」

「しない! 冗談だから!」

「リゲル兄、さいてー……」


 まぁ、隣の妹には理解されなかったみたいだけれど。


 面倒くさい性格だと、こういう時大変らしい。




   ※   ※   ※   ※   ※




 その後兄妹関係の仲裁をしているうちにプロマでの会見は終わり、セルマとクレアがお見舞いにきてくれた。


 顔を見るなり、クレアから腹に少し重いパンチを一発。


「がっ……!」

「ちょっとクレアちゃん、病み上がりよ!?」


 正直あまり痛くはなかった。


「アタシも軍人だ、この一発で忘れる」

「どうも……」




 その後落ち着いてから、ようやく私はみんなにいままでの事を謝って、何があったかを話す事が出来た。

 と言っても、ほぼ全てハーパー最高司令官の会見をなぞるだけだったんだけれど。


 みんなは、私の口から、聞きたかったそうだ。



「そんなことが、あったのね」


 思いの外みんなは落ち着いて聞いてくれたので、私も多少は話しやすかった。

 ただ、ずっと黙っていたクレアだけは少しだけ反応が違った。


「話してくれてありがとよ」

「えぇ、はい」

「でも大事なこと、言ってねぇだろ。アンタ、これからどうすんだよ」


 確かに私は一応、まだ最高司令官の資格を持っている。

 先の闘いが終わったところでそれが解消されるわけでもなく、むしろ周りにそれが知れわたってしまった以上、矢面に立たなければいけないことは増えるだろう。


「正直、最高司令官を目指しているクレアには申し訳ないですけれど、すぐにでも辞めたいです」

「おいおい待てよ、それはダメだよ」


 やる気のない私を制止したのは、もはや部外者のリゲル君だった。


「リゲル兄、なんでダメなの……?」

「最高司令官は最低2人いるのが絶対条件だぜ。むしろ本来なら3人いなければいけないのを、いまは特例として2人でやってるんだ」


 彼の言う通り、飽きたから止めます、なんてのは簡単には出来ないと言うことだ。

 それに対しては、私も念頭にはある。


「でも実際、これまでお飾りだった私が、いま最高司令官の業務をこなせないのも事実です。

 だから代わりの人を選出してから辞めようかと」

「まぁそれなら安心だね、精々ハーパーさんと相談して決めてよ」


 実際何人か候補は頭に浮かんでいるけれど、引き受けてくれそうな人が少ない。

 最低限の最高司令官の仕事と平行しても、それは目下頭の痛い課題だ。



「あの、だからそれまで忙しくなると思うんですけれど。どうか皆さん、フォローお願いしていいですか?」

「ま、任せて!」


 小隊のみんなが頷いてくれたので、私も一安心だった。

 しばらく前から行方の知れないアデク隊長も合わせてかなり負担をかけてしまうけれど、了承してくれて本当に助かる。


「エリーちゃん、実はみんなで話してて、もしかして、軍も辞めちゃうんじゃないかって思ってたの」

「こんなことがあった後だから、引き留めるのも無理な話だけどな」

「あー、それも考えたんですけどね」


 と言ってもほんの少しだ、具体的には目を醒ましていままでの間の時間。

 それまでは目の前の事に必死で、先の事なんて考えられなかったから。


「エリーさん、どうなの……?」

「まだ軍でもやりたいことあるので、私は辞めませんよ。

 これからも、よろしくお願いしますね」


 正直最高司令官バレをした後で、周りの目が変わってしまうんじゃないかと少し心配だったのだけれど、完全な杞憂だった。

 大きな役割を果たした後でも私に帰れる場所があるのは、私にとって大きな救いだったのだ。




 まぁそんなこと言っても、私の物理的に帰れる家はなくなってしまったのだが────



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