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帰りたい(288回目)  ここどこやねん



 覚えの無い香りがした────


 目を醒ますと私は、自分の家のベッドに寝かされていた。



 そして、自分が意識を失う前にどのようなことがあったのかを思い出して、少しだけ呆然とする。


 長い計画が終わり、国は敵の手より救われた。

 ようやく帰ってこれたのだ、ようやく終わったのだ。



 相当際どい戦いではあったけれど、結果誰も犠牲にならなかった。


 まぁ、肝心の一名以外は、だけれど────



 何はともあれ、私ときーさんがこうして無事に帰宅できたのは、一番嬉しいことだった。


 どうやら当のきーさんは部屋には今いないようだけれど、相棒なので無事なことくらいは分かる。

 大方暇になったから、目を醒まさない私を置いて散歩にでも出たのだろう。薄情者め。



「ん、あれ……? 何だろう?」


 そこで私は、ようやく周りの違和感に気づいた。


 自分の部屋にいるハズなのに、どこかがいつもと違うような気がするのだ。

 家具の配置や置いてある小物なんかまで、私の部屋っぽいのに、大きな何かが違う。


 まだ寝起きで頭が回らないだけか、そう思って試しに窓のカーテンを開いてみて、私は飛び上がった。



「な、ナニコレ……?」


 外の景色がいつもと、全く違うものだった。

 本来の私の家は何の変哲もないアパートメントの2階。


 しかし今、私の部屋の場所は、どう見てもかなりの上空だ。



 見下ろすと王都エクレアであることは間違いなさそうだけれど、一体どうなっているんだ?



 と、その時部屋のドアをノックする音がした。


「は、はい。どうぞ……」


 て言うか、私の部屋の扉ってあんな模様だっけか。



「やーやー、起きたみたいだねエリー!」

「良かった……! エリーざあぁーんっ!」


 入ってきたのはリゲル君とスピカちゃんの兄妹だった。

 眠っている間余程心配させたのか、スピカちゃんの熱烈なハグに、私はベッドへ押し倒される。


「じんばいじだーぁ…………!」

「むぐっ! ふ、2人とも心配かけてごめんなさい」

「スピカ、病み上がり相手なんだか程々にね?」


 彼女の頭を撫でていると、リゲル君も少し安心したように近寄ってくる。


「仲間として言いたいことは沢山あるけれど、僕らから何かを言える立場じゃないよ。

 言いたい事は、もっとアツい人たちに譲るさ」

「あはは……」


 色々隠してた事に対してはきっと、後できつーく言われるのは、一応覚悟している。


 それより今私が気になるのは、申し訳ないけれどその事じゃない。


「あのところで、ここってもしかして────」

「ん? あー、そうだよ」


 特に何も言ってないのに、察したリゲル君が答える。


 そうだ、最初王族であるこの2人が部屋に入ってきた時点で、何となく分かってしまった。



「ここはエクレア城さ。ようこそ、僕らの実家へ」



   ※   ※   ※   ※   ※




 一呼吸置いて、私は改めて周りを見渡す。


 部屋にある物やその配置、壁紙なんかは変わらないから、とっさには気付かなかった。

 でも部屋の扉や、空気感なんかは。私の部屋のものとは全く違う。


 今なら確信できる、ここは私の借りている部屋じゃない。



「いやー、物をそのまま動かすの大変だったよ。

 王国騎士の人達にも手伝ってもらったんだけどね、引っ越しなんか皆したことないから、てんやわんやさ」

「何で、私の家を、わざわざ、ここへ?」


 気分は最悪だったけれど、一応理由は聞くことにする。

 何か止むに止まれぬ事情があって、リゲル君もこういうことしたのかもしれない。


「いやさ、面白いかな~って」

「は? 何でヒトが寝てる間にイタズラでこんな事するんですか? 自分でも信じられないくらい腹が立ってますよ私??」


 私の怒りのボルテージが一気に上がったのを、自分でも感じた。


「おっ、すげぇ怒るじゃん! ウケる」

「キシャー!」

「エリーさん落ち着いて!」


 私が興奮してリゲル君に詰め寄るのを見て、慌ててスピカちゃんが止めた。


「エリーさん、ちゃんと理由あるから……! リゲル兄の冗談だから……! ここで殺生はマズいって!」

「兄貴が首絞められてるの自体はいいんだね。結構苦しいんだけどな」


 イスカに自分の事で怒らないとか何とか言われたけれど、それはやっぱり勘違いだったんじゃないかと思う。


 私だって、怒るときはやっぱり怒るらしい。



「グルルルル……」

「家捜ししたのは謝るよ。だからその膨れっ面は治してくれ」


 スピカちゃんの仲裁もあって、私もようやくその手を離す気になった。

 まぁ、流石のリゲル君でも冗談でそんな(面倒くさい)こと、しないハズだ。



「もちろん家具とか戻すのは、そちらさんでしてくれるんでしょうねぇ?」

「君が望むならね。でもさ、君ってばここに来なかったら、大変な事になっちゃってたんだぜ。

 ほらほら、あれを見てごらんよ」


 大変な事ならもうなってますけども、と思いつつも促されるままに窓の方に連れていかれると、街が一望できた。



「ん? ナニあれ??」


 そしてなぜかその一部に、山の上にあるお城からでも分かるくらい、人が密集している場所がある。


 人気テーマパークの人気アトラクションを何倍も濃くした感じで群集になっているけれど、あの辺りにある建物といえば、心当たりはひとつしかない。


 いやいや、あの場所ってまさか────



「プロマ見てごらん」


 半ばすっ転ぶようにして私はプロマの映像をザッピングした。

 どのチャンネルも例の事件一色だけれど、その中でも軍放送の生中継に私は特段目がいった。



〈ご覧ください! ここが英雄の住んでいる家となります! 事件から3日、果たして彼女はいつ帰宅するのでしょうか!?〉


 画面の中でソニアちゃんが中継をしていた。


 そしてその周りには、沢山の人々が。

 どうやらお目当ては、皆一様に同じらしくて────


「私の、家が……」

「ね、ほら? あんな中じゃゆっくり休めないでしょ?

 あぁなることを見越して、ここに家財道具一式移動させとんだ」



 隣で偉そうにリゲル君は講釈垂れているけれど、それより私は目の前の画面しか目にはいらなかった。


 そんな、まさか────



「私の家があぁぁっ! うわあああぁぁぁっ!」

「あ、泣いちゃった」



 大きな戦いを終え目覚めたその日、私の家が観光地になっていた。


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