モニターから眼が離せなかった。
「そんな、ウソだろ……」
「エリーちゃん……!」
エリアルが心臓を刺された。
そしてそのまま血を流して動かなくなる。
あんなことされて、生きているわけが、ないじゃないか。
「エリアァァァル!」
叫ぶアタシの隣で、セルマが膝を付いた。
スピカは呆然と立ち尽くしている。
そんな、この壁の向こう、ホンのすぐそこにアイツはいるのに────
「待ってください、あれをっ!」
ララさんが叫んだ先、反射的に顔を上げると。
エリアルは先程のダメージがウソだったかのように立ち上がった。
まるで刺されたのなんてウソだったかのように、だ。
「い、生きてる!? 良かった!! モニターってのもアテになんねーな!」
「いやいやいやいや! 心臓刺されてたわよ!? なんで生きてるのよ! 生きて良かったけど!」
マジで終わったかと思った、まだ心臓がバクバクして痛い!
そしていま気がついたけれど、周りの野次馬たちも良かっただの何だのと安心した声を上げていた。
「す、スピカだめぇ……」
「うぶっ……」
横ではスピカとイスカが、膝からヘナヘナと崩れ落ちていた。
特にイスカなんかヘラヘラして何考えてるか分かんないクセに、今の映像を見て一番ダメージを受けてるみたいだった。
「おいテメーら、さっきの作戦忘れてんじゃねーだろーな! やるのかやんねーのかハッキリしろ!」
叫ぶロイドだったけれど、モニターとはいえ目の前で仲間が刺されたんだ。
今の一瞬でどうにかならない方がどうかしている。
〈それでも、どうにかしてもらわないと。僕もビックリしたけれど、もう一刻の猶予もない。そうだろララさん?〉
「えぇどうやら彼女は蘇生したようですが、二度目は無いと踏んでいいでしょう。
通信機向こうの彼の作戦に乗るしか、今は方法がありません」
あのアリーナのでかいバリアを壊す方法を、さっきスピカのにーちゃんは作戦として話した。
正直他に方法は無いらしいし、最早アタシたちに選択の余地はない。
「やるぜララさん、中にいるエリアルのためだ。ぶちかましてやる!」
※ ※ ※ ※ ※
もちろんその場の全員が例の作戦とやらに同意した。
そんでもってそれぞれが、そそくさと位置に付く。
アタシはセルマとアリーナの上空で待機だ。
それぞれボードと杖で、空中に上がる。
もうすぐ来る、仲間の合図で行動開始。
それで少しだけ街の喧騒から少しだけ離れ、アタシとセルマふたりきりの空間になる。
「ねぇクレアちゃん、さっきエリーちゃんが倒れる前の映像見てた……?」
「────見てたよ」
エリアルが最高司令官の資格を持ってた、今の瞬間までなるべく考えないようにしてたけど、そう言われるとやっぱり考えちまう。
軍の幹部や最高司令官は、アタシの目標だ。
入隊したばっかの時にあった焦燥感、みたいな偉そうなものはもうアタシの中ではかなりしぼんだ。
けれどその目標は、いつまでもアタシん中にある大事なものだ。
エリアルもそれを知ってたハズだし、ずっと目の前で一緒に頑張って来たと思ってた。
それなのにアイツはアタシにはずっとその事を隠していたんだ。どんな事情があれ。
「あーもう! それがどうかしたのかよ!」
「クレアちゃん! エリーちゃんを責めないで!」
セルマの眼は、少しだけ涙ぐんでいた。
その眼を真っ直ぐ見たせいで、アタシは少し面食らってしまう。
「いや、お前が泣くのかよ……」
「エリーちゃん、ずっと抱え込んできて辛かったと思うの!
だって昔の教官は裏切り者で、行方不明のふりしてて、それをずっと知ってて、それでそれで────!」
「あー! だー! うるせーっ!」
せきを切ったようにセルマが叫ぶ。
せっかく静かだと思ったのに、耳元でキンキンされてとても辛い。
「怒ってるよ! すげぇ怒ってる! 失望もしたし落胆もした!
あんなでっけぇこと抱え込んでて頼られないことも悲しかったし、頼らねぇのも腹が立った!」
「怒んないでってあげてって!」
「ムカつくもんは仕方ねぇだろ!」
いま考えるだけでも頭がどうにかなりそうだ。
だから考えないようにしてたのに────
「いや、これだけは言っとくわ。エリアルの隠し事はムカつくけど、死んじまったら文句も言えねぇだろ。
絶対アイツ手繰り寄せて、ぶん殴るまで死なせねぇよ」
「っ────もういいわよ、それで。全部終わったらにしてね!」
セルマは多分、アタシの心が鈍ることを心配していたんだと思う。
その通りだ、あんなもん見せられて、今も深く考えたら気が狂いそうなくらい色んな感情が押し寄せる。
だけれど、不思議とこの瞬間、それでも全力を出しきれそうなアタシがいた。
「昨日エリアルと戦って、アイツの気持ちは充分伝わったからさ。
相変わらず何考えてんのか分からないけど、本気なのだけは分んだよ」
「うん────」
「アタシはエリアルのために、あのバリアを破壊するぞ!」
そして気合いをいれると同時くらいに、下から声がする。
それぞれの準備が完了して、ララさんが合図をしたんだ。
「頼みましたよ、イスカ・トアニ」
「分かってるって、“グランド・セット”!」
イスカはバリアに張り付いて、ツルツルとしているその壁をよじ登る。
何でも両手足から地面の魔力を吸収することが出切る、アイツならではの芸当らしい。
その要領でバリアに流れる魔力も、グングン吸収していく。
「あーやっぱりほんの一瞬で新しい魔力が供給されてるね。
だけれど足掛かりくらいなら────ここっ! “プラス・
エリアルとのバトルでも使った一直線のエネルギー砲が、空に向かって打ち上げられる。
その瞬間だけ魔力は吸収され、わずかにバリアが薄くなったはずだ!
「ロイドっ!」
「“精霊天衣・
そこへ透かさず、ロイドの連続攻撃がバリアを叩く。
近くにいるだけでもものすごい衝撃だった技を、百じゃ足りない程に打って打って、打ち続ける!
「うおおおおおおっ! ちっ────
その合図を待っていた!
「セルマっ!」
「了解っ、振り落とされないでよっ!?」
弾かれたように、セルマがアタシを掴んだまま直角に降下する。
かつて無いほどの速度で落ちるアタシたち。
「ここっ! お願いクレアちゃん!」
そして目標地点/標的方向ドンピシャで、セルマは私をバリアへぶん投げた。
硬いバリアが目の前へグングン迫る。
そう、これでいいっ────あとはアタシの
「“
セルマ協力による、アタシ渾身の一撃が弱くなったバリアにぶち当たる。
ミシミシと音を立て、少しずつ堅かった壁に、杭がめり込んでいくのが見える。
エリアル、お前がでっかいモヤモヤをずっと抱え込んでいたこと、アタシは今まで気付かなかった。
それはとってもエリアルらしいけど、それがお前のいけないとこなんだって、アタシは知っている。
不思議だ、こんな怒りだって、今は一瞬の糧になる気がする。
そんな思いをただひとつ、壁の向こうにいるお前に────
「届けええええっ!」
その一撃で、破壊不可能といわれたバリアに、確かに穴が開いた。
それはもちろん、アタシに出切る最大火力を終結させた、杭一本分の小さな穴。
だけどうちの
「いっっっけええぇ! スピカあぁぁっ!」
「“
ゴーグルを付け、バリア維持装置の場所を正確に把握したスピカの、弾丸が放たれる。
そしてその弾は確かに、アタシたちの空けた穴をくぐり抜け────
エリアルの立つ、アリーナの中へと吸い込まれた。