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帰りたい(257回目)  直角VS湾曲



 地上に引きずり下ろされたスピカ、それでもまだ戦いは続く。



「っ! “スクエア・レイン”っ!」

「くぅっ────!」


 目の前を多い尽くすほど数多の光、反射するように曲がり追尾してくる。


 それをスピカは転がり、跳んで、時には髪で逸らして何とか避ける。



「はぁ、はぁ……あり得ないでしょう!!

 ここまで粘られるのは想定外でありマス!!」

「スピカも────っ、弱っちいところ、皆に見せられないから……!」


 突然曲がる切っ先も、そうだと分かればぎりぎりの対処できる。

 セルマさんの使う鎖は、こういう風に空中で突然曲がる。


 皆との訓練のおかげで、こういう技の対処も何とか出来る────!


「当たってもかする程度、致命傷にはならず。

 このままでは先にこちらが参ってしまう……」


 肩で息をしながら、ヘレナさんは言った。


「うん、止めよ……?」

「ならばっ!!」


 ヘレナさんは突然前屈みになると、疾風のように接近してきた。

 慎重に取ってきた相手との「間合い」が、一瞬で詰められる!!



「まずっ……!」


 エリーさんがスピカに教えてくれた。

 ヘレナさんは能力もさることながら、接近戦も強かったって。


 そう言えばエリーさんが1回戦で猫ちゃんを叩き落とされたのも、急に近づいてきたのが原因だった。



 だからきっと、レイピアもあるし近くまで来られたら敵わない!


 スピカは慌ててリゲル兄にもらった、すごいごーぐるを装着した。


「来ないでっ……! “ツイン・スターダスト”!」

「うおおおおぉぉっ!」


 咆哮をあげて、スピカの弾幕をヘレナさんは素早く横へ跳んでかわす。

 目が眩む流星ような動きに、その筋肉ひとつひとつを全稼働させて、こちらに一撃を叩き込もうとしているのが分かる。


 だから、やっぱり避けられた────!


「そこだあぁぁぁっ!」

「くぅ! 間に合って……! “螺旋流星スパイラル・メテオ”!」


 無数の弾を掻い潜ってきたヘレナさんの、刺すような蹴りが目の前に迫る!




「────っ! 危なっ……!」

「ぐあぁぁっ……!」


 でも、その攻撃がスピカに届くことはなかった。

 ヘレナさんは振り上げた腕を押さえて、膝をついた。


 その隙にスピカは距離をとる。


「ち、地中から、弾……?」


 それでも立ち上がるヘレナさんの根性に、スピカは驚いた。

 まだ立てるなんて、思わなかったんだけど────



「地面から発砲したわけじゃないでしょうに……

 今の一撃は、こちらの不覚ではないでありマス……」

「そう……」

「カラクリを、聞かせていただいても?」


 あまり言いたくなかったけれど、そう言えば光の突きの仕組みを先に教えてくれたのも、ヘレナさんだった。


 不公平をしたら、沢山いる観客の人たちに、何を言われるか分からない。


「“ツイン・スターダスト”の弾たちに紛れ込ませて、この鉄砲で撃ったの……」


 スピカは背中に隠した、もう一丁の短銃を見せた。


 髪の毛を使って撃っているから、集中すれば3つ同時に操ることも出来る。

 多分これは、スピカだけの特権────


「弾が地面の中でも抵抗なく進めて、さらに向きが曲がったのは?」

「風魔法と土魔法の、応用……」




 この修行期間、スピカは属性魔法を使おうとしても、どうしてもうまく行かなかった。

 風魔法はエリーさん程強くはならないし、土魔法は少し地面が凹むだけ。


 リゲル兄が才能ないって言うのも、よく理解出来た。


「まぁ、スピカは魔力量だけはズバ抜けているし、修行で覚えた事はムダにはならないよ。

 でもまだ、【アド・アストラ】で細かい操作をするのは向いてないね」


 リゲル兄、カペラ兄が教えてくれた────そしてレグルス兄が得意だった力、【アド・アストラ】。


 原理はまだよく分からなかったけど、何度も何度も何度も2人が目の前で見せてくれたり、教えてくれたおかげで、スピカでも少しだけ出来るようになってきた。


 でも使うには、まだ結構集中力がいる。



「あの……スピカ、やってみたいことがあって……」


 大きい範囲で属性魔法はまだ、実践では使えない。


 なら、ほんの小さな部分で使ったら、使うだけなら────



「成る程、極小さな範囲で自身の魔力自体を使用する、魔力弾だから出来る芸当であると言う事でありマスか……!」

「うん……」


 それに地面の中を進む弾丸でも、リゲル兄のすごいごーぐるがあれば、敵の場所を狙うのも楽だった。


 修行の全部が役に立っている────地味かもしれないけれど、これならスピカの得意な狙撃を最大限生かせるはずだから!


「地中を通り思い通りに曲がる弾丸。

 故に、回避不能の弾丸、というわけでありマスか……

 スピカ殿が王の命を狙う刺客でなくて、本当に良かったです……」

「……………………うん」


 ぱぱの事を出されて一瞬びっくりしたけれど、そう言えばこの人は王国騎士だったことを思い出す。


 王国騎士の人がスピカと戦ってるなんて変な感じだけど、多分ヘレナさんはスピカの正体を知らないし、気付いてもない。


 リゲル兄もそうだったけど、普通王族が軍で働いてるなんて、思わないもん。


「スピカ殿、私はここで貴女と戦えて光栄でした」

「どうして……?」

「王国騎士は所属してから最初に、自身の命を賭してでも国王を護れと教え込まれます。

 だから国を護る一員であると言う矜持は、王国騎士ならば誰しもが待っているものでありマス」


 細剣の剣身部分を、つつつ、とヘレナさんがなぞった。

 いま何故だか、スピカは攻撃できなかった。


 とても自分にとって必要な話を、聞いている気がする。



「今日、いま、スピカ殿と戦って分かりました。

 スピカ殿も、私にとって国と同じくらい、大切なもののために戦っているのだと」

「大切なもの────?」


 スピカはそんなおっきな事のために頑張ってるんじゃない、そう言おとしたけれど、何故だか言い出せなかった。

 恥ずかしかったからじゃなくて、なんだかこの理由は、自分で否定するのだけはしちゃ行けないような気がして────



「えぇ、自分のためか他人のためか、家族のためか……

 それは分かりませんが、私はそんな無数の『大切なもの』を護っている、誇り高い職務であることを改めて実感したのでありマス……」


 きっと、ヘレナさんの小さな声は、観客の誰にも届いていないんだろう。

 この世界でスピカだけが、あの人の大切な「声」を聞いている。


 だけど、試合は完全に止まっていても誰も声をあげないのはきっと、ヘレナさんの姿がとても茶化して良いそれではないことを、みんな分かってるからだ。


 それだけの熱意と引き付ける力が、目の前のこの人にはある────



「それに、誇り高いと実感できたと同時に、頼もしくもあるのです」

「頼もしい……?」

「えぇ、大切な何かを護るために、我々は同じ方向を向いているのです。

 それを頼もしいと言わずして、何と言いましょうか!?」


 言い終わると、ヘレナさんはぐっと細剣を構えた。


 また来る、光の突きが────!


「もう一度お礼を言いますスピカ殿!

 誇り高い貴女に敬意を評して、私は全力でいかせていただくでありマス!」


 今度はヘレナさんの剣が、赤く光だした。

 それに何だか今度は、熱い!?


「熱っ!? 熱っ熱つっ……!」


 相手の剣先から、ここからでも火傷しそうな程強力な熱を感じた。

 ごーぐるで調べてみると、ものすごい温度がヘレナさんの細剣に集中しているのが分かる。


「これは! 火の“魔力纏”で包み込んだ! 特熱のヒトツキでありマス!!

 理解しました、ここまでしなければ、スピカ殿を越えることは出来ないと!」

「えぇ……」


 そしてついに、ヘレナさんの細剣がどろどろと溶け始めた。

 でも赤い光だけはその場に残り続けて、さらに力を高めている。


 間違いない、この一撃で勝負を決めるつもりだ!


「あっ、実際の外傷はないはずですのでご心配なく!

 当たっても火傷の痛みで済むかと!」

「ひぃ……」


 急いで弾を打ち込む、でもそこへ到達するまでに弾はヘレナさんに全て弾かれた。

 それに赤い光りも収まらない!!


「これが私の、ぜんっっっりょくでありマス!!」


 来るっ、そう思った瞬間スピカの身体も自然と動いていた。

 あれだけの熱量、密閉されたこの闘技場じゃ逃げ場がない。


 なら同じ威力で相殺するしかない!!



「“右扇乱気流カストル・エディ”せっと……!!」


 ぷろぺらを取り出して、片方を後ろ向きに照射する。


「何を……!?」

「“左扇暴風ポルックス・ストーム”!」


 前に突き出されたぷろぺらに力が貯まる。

 そして最大限の力と、最大限の集中力を前方に集めて発射の力を蓄える。



「成る程、全開の爆風を押し出す前方のプロペラと、それを制御するための後方のプロペラ!

 それ程の威力が来るわけでありマスね!?」

「そう……!」


 もはや、否定する意味もない。

 不浄の牙を抜く力【アド・アストラ】、不馴れな力でも充分に必要な集中力を溜める時間をヘレナさんにはもらった。


 だからこっちも、全部の力を使った一撃を叩き込む!!



「“圧縮開熱プレスヒート────レイズ”っっっ!!」

「“双子座流星ジャミニ・メテオ”ぉぉぉっ!」



 2つの衝撃は、一瞬遅れて会場を大きく揺らした。


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