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帰りたい(256回目)  光る細剣


 ありーな闘技場へ続く暗い道に、こつこつとぶーつの音が響く。



「うぅ、まぶちっ……」


 ぱっと明るいところに出ると、そこには沢山の人がスピカと相手のヘレナさんを見ていた。


 なんだか注目されることに慣れてないから、すごく緊張する────



「初めましてでありマス! スピカ・セネット殿!

 私は王国騎士第3部隊所属、ヘレナ・カードナーでありマス!」

「あ、初めまして……」


 ありーなの真ん中で、対戦相手のヘレナさんが待っていた。

 出された手を握ると、ぶんぶんと強く振られる。


 あ、これアダラ姉とおんなじ癖だ────



「これデスか!? センパイがよくなさる仕草がうつってしまったんデス!」

「へぇ……」


 王国騎士のほとんどの人は普段お城の警備とかをしていて、直接スピカたちの顔を知っている人はあんまりいない。

 部隊長のレスターさんは例外だけれど、多分この人はスピカの立場も、アダラ姉やカペラ兄の事も知らないはずだけど────


「そちらにはキョーミない話でしたね! では早速始めましょう!」


 ぱっと手を離されてよろけそうになったけれど、気にせずヘレナさんは行ってしまった。

 こういう細かい所を気にしないところも、なんだかアダラ姉に似ていた。


 そういえばスピカが修行を始めてから、ヘレナ姉はレスターさんに連れられて、誰かの修行に付き合わされてたみたいだった。


 きっとこの人の修行だったんだ────



「どうかいたしましたか?」

「な、何でもない……」


 本当はスピカが、修行を見てもらうはずだったのに。


 なんだか、この人にアダラ姉を取られたみたいで、すごく嫌だった。




   ※   ※   ※   ※   ※



 スピカとヘレナさんが位置につくと、試合開始の音が響いた。


 相手が細剣れいぴあを構えてじりじりと距離を伺ってくる。


「スピカ殿、申し訳有りませんが試合前、あなたの事を色々と調べさせて貰いました。

 何でも髪を操る能力を持っているのだとか?」

「うん、そう……」

「ならばやはり、近付くのは危険デスね!

 手前、剣士ではありますがこの距離からお相手させていただきマス!」


 言うと、ヘレナさんの剣がぴかぴかと白く光り始めた────


「いくでありマスよ! “ストレート・レイズ”!」

「…………!」


 剣を空に突いた瞬間、その切っ先から光線が発射されて、ありーなの向こうの壁まで飛んでいった。

 スピカは2つの円盤で真上へ飛び、それをかわした。


 そのまま空を飛んで、高いところからヘレナさんの様子を伺う。


「避けましたか! やはりそちらも下調べはしていマスよね! 当然!」

「知ってるよ……エリーさんに聞いたもん……」


 ヘレナさんは能力で、細剣から光を飛ばすことが出来るらしい。

 剣の間合いがなくなる、スピカと違ってとっても戦闘に特化した能力だ。



「と、言っても実際の光ほど速くはないですね。あの人の能力は」


 と、エリーさんは言っていた。


「光とは、違うの……?」

「はい、とても速いのは確かですが、本物の光には遠く及びません。

 戦った感じでは剣からビームが出ると言うより、【剣を延長し射出する能力】と、言ったところじゃないでしょうか?」



 こないだそう言ってたエリーさんの予想は、多分当たってる。

 実際今の攻撃はスピカでも避けることが出来たんだから。


 本物の光ならまず避けられなかったけれど、これなら何とか────


「スピカさん今、上へ逃げる時、砂を撒きましたね?」

「撒いた。ヘレナさんの能力から出る光は、実態があるよね……」

「その通り。決して光線と言うわけではありませんが【レイズ・レイピア】という名前をいただいておりマス。

 少々荒々しい能力ではありマスが、ご勘弁を!」

「あっ、ダメ……!」


 再び刀剣が光だしたのを見て、スピカは銃を大きくして、上空から一発弾丸を放つ。


「くっ!」


 しかしヘレナさんは、何と細剣でスピカの弾を難なく弾いた。

 狙いは完璧だったはずなのに、これじゃ銃で勝負がつけれない!


「速い……!」

「来ると分かっていればなんとか!

 しかしスピカ殿が銃を持っていたのは想定外でしたな!」


 ヘレナさんは、スピカが狙撃手すないぱーだと言うことを知らないみたいだった。


 そしてさっき弾を弾いたことで、いつの間にか刀身からは光が消えている。


「こちらの手の内がバレているお相手とは、初めてデス!

 ならばこういうのはいかがでありマスか!?」



 今度はヘレナさんの刀身じゃなく、剣を持たない方の腕が光始めた。


 一体何をするつもり────?


「いや、関係ない……! くらえ……!」

「他愛っ!! なしっ!」


 また2発、3発と撃った弾をヘレナさんは弾いて行く。


 でも今度は光った部分が戻らなかった。


 そして、弾の隙をついてヘレナさんは、光る方の腕へ細剣を持ち変える。



「チャージ完了でありマス! “ストレート・レイン”!」

「っ────!」


 逆の手に持ち変えた瞬間、スピカに向かって連続突きを放つ。

 すると、地上から沢山の光線が雨のように飛んできた!


「うそっ……!? “右扇乱気流カストル・エディ”!」


 ぷろぺらからの風で、光を散らす。

 なんとかこちらに飛んできた斬撃は、全て反らすことが出来た。


 先に実態がある光だって、確認できてよかった────!


「流石にこの程度の威力では、打ち落とせないでありますな!」

「はぁ……はぁ……」


 威力は高くなくても、当たらないようにするには全てを逸らさなきゃいけない。

 でもそのためには、沢山の魔力を使う必要があった。


「もう一度、行くでありマスよ……!」

「だめっ────!!」


 何度もやられたら、こっちがもたないのは明らかだった。

 スピカは次の発動をされる前に、機関銃ましんがんを2丁取り出す。


「“ツイン・スターダスト”!!」

「なっ……!」


 上から降る弾の雨を、ヘレナさんが避ける。

 数発は弾いてもいたけれど、やはり全てから逃げる事は難しいみたいだった。


 そしてそのうちの一発が、ヘレナさんの脇腹に当たる!


「ぐあっ────!」

「ひっと……!」


 ついに腕の光が消えたヘレナさんは、弾の当たった場所を押さえながらはぁはぁと肩で息をしていた。


「な、成る程……髪を使えば、複数の銃も同時に扱えるのデスね……

 銃を構える必要もないから、撃った反動も宙に浮かせて分散できると……」

「うん、そう……」


 本当なら女の子には扱うのが難しい武器でも、スピカの【コマ・ベレニケス】があれば、操ることが出来る。


 問題は普通に構えるより狙いが定まりにくいことだけれど、敵がすぐそばにいるこの試合では、あんまりそれも弱点にならなかった。


「接近戦向きの能力かと思いきや、そんな方法を────それに、練度も高いでありマス」

「うん、使ったのは弱い魔力弾、だよ……

 すごく痛いと思うけど、我慢して……」


 相手を大怪我させる訳にはいかないから、込める魔力で威力が調節出来る、魔力弾を試合には持ってきた。


 でもそのせいで、決め手に欠ける。

 今の一発で仕留めたかったな────


「成る程! 私、遠距離攻撃には定評があったのですが、上には上がいるものでありマスね……!

 ならばこちらも次なる手を尽くすまで。お覚悟!」


 またヘレナさんの細剣が光り始める。


 止めようとしたけれど、今度は相手の溜めの方が少しだけ速かった!!


「“スクエア・レイズ”!」

「なっ……!?」


 今度も避けよう────


 そう思った瞬間、光が突然かくん、とこちらに曲がった・・・・・・・・


「ぷぎゃっ!!」



 肩に光が当たって、激痛が走る。血が出たり傷になったりはしてないのに、貫かれた場所がただただ痛い!


 そして思わず集中が切れて、スピカはぷろぺらのばらんすを崩してしまった。



 そのまま体勢を保てず、あらぬ方向に飛んだスピカは、地面に激突する。


「うぐうぅっ────!」



 何とか風と髪の毛で衝撃は緩和できたけれど、光が当たった場所、落ちてぶつけた場所がすごく痛んだ。


 持っていた魔力銃と、装填しようとしていた弾が下に転がる。


「いいいぃ…………光が直角に……曲がった……?」

「実際には光ではありませんので、こんな事も。

 魔力消費は大きい奥の手デスが、命中して良かったデス!」


 本当はもう動きたくなかったけれど、このまま倒れていたら降参したことになってしまう。


 スピカは痛みを耐えて、何とか立ち上がった。



「さぁ! ようやく地上に引きずり下ろしたでありマス! 続きをやりましょう!」

「うぅ────!」

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