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帰りたい(245回目)  イグニッション!


 熱い、熱い、日差しが眩しい、焼けるみたい。


 クラクラする意識を無理矢理戻して、泥と汗を拭ってから前を睨む。

 だめ、諦められない、まだ、まだ────


「せ、セルマっ!?」

「っ────!」


 振り向くと、双子の魔術師アリアちゃんとクララちゃんがいた。

 驚いたような愕然としたような、そんな顔で。



「2人とも、追い付いてきたのね……啖呵きって先に来ちゃったのに、恥ずかしいな、アハハ……あっ────」

「セルマ!」


 一瞬意識が飛んだところを支えられて、何とか倒れずにすむ。


 でも、やっぱり日差しはギラギラ刺さって、頭はガンガンする。

 マズいな、このまま気絶してしまいそう────


「座って、少し休んだ方がいいよ」

「大丈夫よ……早く、行かないと……」

「いいから!」


 ほとんど無理矢理その場に横にされて、2人は自分に回復の魔術をかけてくれた。


 ダメ、ほんの少しこうしただけで、止まっただけで、心が折れそうになってしまう────


「泣いてるの……?」

「違う! 泣いて……無い! わ……」


 言葉尻が自然としぼんでいくのは、自分でも分かった。

 手首で目元を押さえたら、少しだけ眩しさが消えたけれど、やっぱり溢れる雫は止まらない。



「セルマ、そこの洞窟から出てきたよね?」

「うん。出口が全部塞がってたわ……

 いっぱい探したけど、やっぱり山を迂回するしかなさそう……」


 昨日参加者10人に囲まれたのをなんとか全員倒した後、近道だからとこの山の洞窟へ入ったのが間違いだった。


 中は入り組んでいて暗いので、簡単に外へ抜ける道も分からない。

 なんとか見つけても出口は全て崩れていて、ようやくさっき元の入り口から出てきたところだ。


 気付けば迷っている間に日は昇り、順位も63位。

 ここから勝ち上がるのは、絶望的だってことは、よく分かる。


「少し休も……」

「うん……」


 啖呵切って2人から離れた手前、気まずい時間が流れる。

 しょうがなかったとはいえ、2人にも昨日は少しイヤな言い方をしてしまったかも。



「セルマ、どうしてそこまで頑張るの?」

「どうしてかしら……頑張る理由ね……」


 当たり前だけれど、考えたことなかった。

 でも確かに有名になりたい、出世したいってのはもちろんあるけど、それだけじゃない。


「うーん、そうねぇ……」


 多分一番の理由は、色々な人と約束したからだ。

 リアレさんの隣に立つこと、小隊のみんなと全力で戦うこと。


「頑張るのは、大切な人たちとの約束なの────自分はきっと、チームの中で一番何も大会に賭けてないわ。負けても次がある、とも思う」


 そう、負けてもいい大会。ホントなら2人みたいに、ゆっくり後ろの方でやり過ごして、仲間に譲るっていう方法もあったはず。


「けど、それが前に進まない理由にはならない。みんなに、自分に、不誠実なことはしたくないから……」


 負けず嫌いの怪物が、心の中で前へ前へと唸っている。

 自分に背を向けるなと、睨まれている。


 だから、自分は出せる全力を出したい。



「2人ともありがとう、もう少し諦めないで先行ってみるわ」

「待って! 私たちセルマに協力しに来たの!」


 クララちゃんが、そう慌てててを握ってきた。


「セルマが本気なの、別れてから分かったの。

 私たちとは賭けてるものが違うんだって」

「同じよ?」

「ううん、全然違う。だから私たちもセルマに、不誠実にはなりたくないんだって、一緒に大会頑張りたくて」


 その瞬間、2人の目の奥にも確かに負けず嫌いの怪物を見た気がした。


「だからこっちでも、休みながらだけど相談してきたんだよ」

「ねー、それにセルマ、今まで全然休んでなかったでしょ」


 そう言われて気付いた。自分は休みノルマを全然完遂してないのに、水晶のカウントは既に溜まりきっていた。

 2人と約束したのに、何かいきなり申し訳ないことをしてしまった────


「ごごご、ごめん2人とも!」

「いいんだよ、それより私たちもゴメンね。

 この大会、今からでも全力で頑張るよ~」

「ねー、セルマがそこまで本気なら、チームの私たちも役に立たなきゃだし?」


 そして双子の2人は、顔を見合わせる。


「クララ、あれやろ」

「OK、アリア!」



   ※   ※   ※   ※   ※



 協力してくれると言った2人は、それからものすごいスピードで準備を始めた。

 持っていた荷物の中身を、全部地面にぶちまける。


「ええ!! 何してるのよ!?」

「どうせここで捨てるからだーいじょーぶ~」

「ねー、セルマもなるべく荷物は軽くしてね」


 そう言われたら仕方ないので、いらない荷物は捨てることにした。

 いや、2人みたいにお菓子でパンパンになってたわけじゃないから、あまり捨てられるものはないんだけども!


「はいこれ、ちゃんと着けてね」

「ナニコレ……?」


 そして渡されたのは、3つのハーネスを鉄の棒で繋いだ奇妙な器具。

 使い方がよく分からなくてオロオロしていると、クララちゃんが「こう着けるの」って教えてくれた。


「真ん中のハーネスを着ければいいの?」

「うん、私たちは左右だよ。よろしくね~」


 見たことのない機具が物珍しくてガチャガチャいじっていたら、左のアリアちゃんに手を叩かれた。


「ゴメン……」

「少し我慢しててよねぇ~、邪魔だろうけど」


 口調は優しいけど、目は笑ってない。少し怖い感じで怒られた────

 で、ショボンとしてたらクララちゃんがハーネスを着けながら教えてくれる。


「うちのパパはねー、運送会社の社長で、商品を届けるために国の色んな所を飛び回るの。

 この方法は大昔の運送屋さんが使ってた方法でねー、速いけどで難易度高すぎて廃れたゃったんだって」


 お互いをハーネスで固定して、3人は一心同体になった。

 その状態で、2人は持っていた杖に股がる。


「セルマも飛行はできるよね~?」

「うん、飛べばいいの?」


 同じように杖に股がって、少し体を浮かせる。

 横の2人も同時に浮き上がったので、なんだか変な感じだ。


「じゃあセルマ進んでって、全速前進!」

「お、おー!」


 力いっぱい進むと、2人も固定しているので、同じ速さでついてくる。

 なんだか馬車と荷車みたいだ。


「大丈夫なの、これ……?」

「うん大丈夫、こっから見ててよ~」

「ねー、ビックリするよ」


 2人はもう1本杖を取りだし、私の杖の後方に掲げた。


「え? え?」

「3……2……1……点火イグニッション!」



 瞬間、後ろから「ボフンッ!」てありえないような音がして、今までのスピードが突然何倍ものスピードに跳ね上がる。


 は、速いっ────!!


「うぎぎっ!」


 顔に風圧がかかって、思わず仰け反った。


 こんなスピード、出たことがない!


「風圧消す魔法忘れないでね! あともっと速くなる! もっと力を込めて~!」

「ねー、こんなものじゃないよ!」


 力を込めると、さらに推進力が上がった。


 なるほど、2人が私の推進力を底上げしながらついてくることで、このスピードで3人同時に前に進めるんだ!


 でもこれって相当、左右の人の操作が難しいんじゃ────


「あっ、木にぶつかるわ!」

「クララお願い!」

「おっけ!」


 右のクララちゃんが上昇すると、3人まとめて身体が左回転に傾いて木を避けた。

 スゴい、2人とも息ピッタリ!


「これが難しい理由だよ~」

「ねー、でも私たちなら大丈夫! セルマは前に進むことだけ考えて────あ!」


 その瞬間、下から大きな岩が飛んできた。

 きっと他の参加者たちの妨害だ!


「“ハイ・バリア”!」


 反射的に張ったバリアで、岩は防ぐ。

 このスピードでも、バリアを張るだけなら何とか出来そうだった。


「ありがとうセルマ~! 助かった!」

「これくらいなら任せて! 妨害対策は自分が受け持つわ!」


 あんなにかかると思っていた山の迂回も速攻で終わり、第3のチェックポイントが見えてきた。



「このまま行くよセルマ! まだまだ大逆転の目はある!」

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