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帰りたい(243回目)  渦巻く群青


 両腕に水魔法を風魔法で圧縮し、一気に噴射する。


 瞬間のスピードだけなら、さっきのソルドさんにも負けないはずだ。


「来い、エリアル・テイラー! 貴女とここで闘えたこと、私は本当に幸運だ!」

「そうですかっ……“菖蒲噴流イリス・ジェット”!」


 川の流れも合わせ、自身にも負荷が来るほど強烈な威力にまで達する。


 そして水中最高速度の蹴りが、ソルドさんを捉えた。



「っ、ぐおおおっ!! 押さえっっ、きれんっ!」


 相手は私の攻撃を両腕で受け止め、風魔法を推進力に川底で踏ん張った。

 しかし、少しずつ、私の力がソルドさんを押し始める。


 今だ────



「出、力っ、全、開いぃっっっ!」

「くそっ! だぁっ!!」


 押し負けたソルドさんは、そのまま水底を転がる。

 澄んだ川の水に泥が舞い上がった。


「ぐっ、やった……?」


 魔力をほとんど使い果たし、私は膝をついた。

 例え一度外で息が出来ても、それが決定的な体力の回復には繋がらない。


 体がフラつき、少し川の流れに押されて呼吸も苦しくなる。


 もうかなり、限界に近い────



「ふーっ、ふーっ────いや、まだ此方を倒すのには足りないよ。もう少しだったな、貴女は頑張った」

「っ…………」


 全力は、出したつもりだった。

 しかし土が舞い上がり濁った水の向こうからユラリ、とソルドさんが顔を出す。


 まだ、私は及ばないのか────


「あれだけやって、まだ倒せないんですか。イヤになります……」


 足りない、至らない、倒せない────相手は同期のなかでも屈指の実力者、しかもここは相手のプラットフォームとも呼べる、水中なのだ。


 目の前の壁が、絶望的に大きすぎる。



「いいや、惜しかったよ。いい加減、こちらも限界が近い。決めさせてもらう」

「うへぇ、もう無理です。えいっ」


 私は派手に水底の砂ぼこりを舞わせると、なるべく急いで逃げる。

 少し進むと最初の場所に戻ってきた、きーさんの変身している船だ。


 おそらく2人が、私を待っているはずだけれど────


「待て! その程度の目眩ましで逃がすわけないだろ!!」


 背後から、ソルドさんの追ってくる気配、しかも私より相当に速い。

 やはり逃げきることはできなかったか。


「やっぱり追ってきましたね────がっ……!」

「ふーっ、ふーっ……ようやく捕まえたぞ……」


 ようやく船まで来たところで、首元を捕らえられた。


 相手も、相当体力の限界が差し迫っているのだろう。

 先程までの穏やかな口調は崩れ、その腕がギリギリと私を締め上げた。


「がっ……ぐぅ……」


 口から貴重な空気が漏れでるのを感じる。

 強く押し付けられた首が圧迫されて、それだけで意識がトビそうだ。


「ようやく捕らえた、もう終わりにしようか……

 先程から、左の懐を庇っているな。しかし稼働において制限されている様子はない。ならば、そちらはブラフで、右の懐か?」

「っ……」


 予想は当たっている。確かに懐には、この2回戦の命とも言える、水晶を私は入れている。



 でも────


「ぐぅ、触らせませんよ、これはっ。きーさん槍にっ……!」

「何っ!?」


 私は背後で変身したきーさんを掴み、素早く切りつける。


 背後の船、私の声と共に武器に変わったそれに怯み、相手は反応の遅れた。

 そして回避される寸前、その刃がソルドさんの腹を少しだけ引き裂く。


「まさかなっ! まさか、ここで仲間を見捨てるか!? 失望したぞ!」

「いいえ、そんなことしませんっ」


 確かにソルドさんの言う通り、なんの考えもなしにここできーさんを槍に変身させていたら、船に乗っている2人は溺れるしかない。



 けれど、ドボンと────


「なっ! 嘘だろう……!」


 ソルドさんのすぐ頭上に落ちてきた人影を、相手は抱えにいく。

 それは船上で戦っていたはずの、ソルドさんの弟だった。


「弟が負けたか、ヒルベルト・セッツロめ。それに────」


 私の仲間だけ・・が、落ちてこないことに相手は気づいたらしかった。

 しかも狙ったように自身の頭上に落ちてきた弟を抱え、水面をチラリと見てから、すぐにソルドさんはこちらに向き直った。


 しかし、私に見せたその一瞬の隙だけで、私が体勢を整えるには充分だった。


「息も出来ました、きーさんも手元に来ました。

 私はここで負けるわけにはいかない────本気でいきますっ」



 私がソルドさんと戦っている間、きーさんを通して・・・・・・・・ずっと船の上から2人が呼び掛ける声が、聞こえていた。


 乗り込んできた男は、ヒルベルトさんとレベッカさんが苦戦しつつも倒したこと。


 実はレベッカさんが、ヒルベルトさんを警戒して自身の固有能力を隠していたこと。


 彼女の能力が、【周りの重力を操れる】ものだと言うこと────



「うおおおおおおっっ!!」

「来るか……」


 水底に足を踏ん張り、魔力を両腕に充填する。一撃、一刀に全てをかける。


 きーさんの槍から放出した水魔法で、川の水を巻き上げる。

 両腕両足から発射した風魔法で、自身を押さえつけ槍に勢いをつける。


「“渦巻く群青スウィング・ウルトラマリン”!!」



 大きな川の水が一瞬止まり、槍を機転に逆方向に流れる。

 両腕の腱が、ビキビキと悲鳴をあげる。


 しかし2人の作ってくれたこの一撃、無駄にはできない!


 槍を中心に渦巻く、川の水を全てを使った巨大な一撃を、私は相手に振りかぶった。



「なるほど、渦潮を作りぶつけてくるか……」


 それを見たソルドさんは弟を抱えたまま、構えるでもなく、逃げるでもなく────



「これで勘弁してくれ」


 懐から水晶を取りだし、自身で割った・・・・・・


「へ?」

「参った、此方の敗けだ!!」


 ソルドさんは叫んだが、急に勢いは止まらず、攻撃を止めるも巻き込んだ川の水は私ごと身体をさらっていった。


「くっ、凄まじいな」

「ゴボボボボ……」


 自分で作った渦潮の流れに、私は流されて行く────




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