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帰りたい(234回目)  エリアル式洞窟攻略法


 洞窟の中はとても暗く、所々松明が灯っていても、歩きにくさは夜中の比ではない。

 足元は特に暗いので、私たちは用意した明かりをつけて前に進む。


「まるで迷路だね……」

「うん、すごくやりづらい」


 洞窟の中は入り組んでいて、普通に歩いていては、とても迷わず出口までは行く事はできないだろう。


「あ、私そういえばいいこと知ってる!」

「へぇ、迷宮を脱出するいい方法かな?

 それは是非教えてもらおうじゃあ、ないか」

「左手をこうやって、壁に付けて進むんだよ。

 こうやって壁に沿って進めば、遠回りになるかもしれないけれど、いつかは脱出できるんだって」


 その方法なら、私も聞いたことがある。

 時間はかかるけれど、迷路では確実に脱出できるという話だ。


 実際に試したことはないけれど。



「ほら、こーやって──あ……」


 角を曲がったレベッカさんが、立ち止まる。

 私たちも追いかけると、そこには縄ばしごが上から垂れ下がっていた。


 どうやら、この迷路は上にも続いているらしい。


「あー──この方法って、もしかして上下の移動があったら使えない……?」

「使えないね。出入り口と違って、上下移動は他から壁が孤立していることもあるから。

 でも、オレもその案は基本的には賛成だよ。エクレアの城の地下迷宮も、結局はそれで攻略できたらしいし」


 ただ、今回の場合に限ってはその方法じゃ解決はできないらしい。



「ところで──さっきからエリーさんは何やってるの……?」

「なにか、いいこと思い付いたんじゃあ、ないか?」


 ヒルベルトさんが、メガネを上げてこちらを興味深そうにみている。


 私は先ほどから、両手を耳に当てて、目をつぶりながら2人の後を着いていっていたのだ。


「2人とも、紙とペン持ってませんか?」

「ほいよ」


 渡された紙に、私は素早く書き込みをする。



 私は以前、2回洞窟に入ったことがある。


 1度は迷いの森できーさんの地図を持って、2度目はタコ岬の向こう海岸で。

 どちらもきーさんや敵の力を使ってやっと脱出だったけれど、これからはそういう探索も増えるだろう。


 だから私は、今度は打開策を考えていた。


「それは……?」


 2人が紙にペンを走らせるその様子を、覗き込んで見ている。

 そしてしばらく待って出来たそれを、私は2人に見せた。


「地図、です。この洞窟の」

「えっ──そんなの一体どうやって……!」


 初めてやる方法だったけれど、なんとかうまくいったらしい。


「『声の反響』を使ってみました。2人の声が響く範囲にある迷路は、こんな感じだと思います」

「すごいな、これも能力で出来るのか」

「はい、最近出来るようになったところですが、少しはお役に立てるかと」


 まぁ、この地図が分かったところで出口が分かるわけではないので、長期戦になる事は変わりない。


 それでも、一定の範囲内にある行き止まりなら当たらなくて済む、というのはメリットだろう。



「ちなみに、この辺には誰も────あっ」

「誰かきたのか? 参加者か?」

「えぇ、間違いなく参加者かと。

 というか、申し訳ないんですけど、合流していいですか。

 戦闘にはならないと思いますから……」


 私の固有能力なら、洞窟内で普通は声が聞こえなくなってしまうような距離でも、音がわずかにとおっていれば聞き取って相手の位置まで把握できる。

 2人は不思議そうな顔をしていたけれど、戦闘にならないなら、とその参加者との合流を許してくれた。


 縄ばしごを登って少し歩くと────いたいた、声の主がフラフラ歩いている。


「スピカちゃーん、大丈夫ですかー……?」

「っ……! エリーさあぁぁんっ……!」


 そこには、小隊の我らが狙撃手スナイパー、スピカちゃんがいた。

 心細かったのか急に抱きついてきて、私は押し倒された。


 こんなところで一人で歩いているなんて思ってもみなかったけれど、どうやらお困りの様子だったので放っておくことも出来ない。


「スピカ!? な、何でこんなとこに!?」

「えっ……レベッカちゃんもいる……! あ、ヒルベルトもいる……」

「相変わらず君は、オレ達の事呼び捨てだねぇ」


 どうやら、ヒルベルトさんもスピカちゃんとは知り合いだったらしい。

 兄のリゲル君と同じ隊だった彼なので、そう言う機会もあったんだろう。


 何はともあれ、ここでなにも共通点のない私たち3人の共通の知り合いに会うというのは、ちょっと驚きだった。


「ちーむの2人とはぐれちゃって……よかったら出口まで、一緒に行かせて……だめ?」

「私は、いいですよ」

「私ももちろん! ヒルベルトさんは……?」


 彼もその場で頷いた。それを聞いて、スピカちゃんはほっと、肩を撫で下ろした。


 案外図太いスピカちゃんだ、きっと結構長く諦めずにこの洞窟で迷ってたに違いない。



「と言っても、私たちも出口が分かる訳じゃないんですよ。

 きーさん、あと3人とも、少し協力をお願いしていいですか?」



   ※   ※   ※   ※   ※



「ここでいいのかな……あーーーっ!」


 ヒルベルトさんの声が洞窟内に響き、辺りの構造を私は把握する。


〈聞こえましたきーさん。そこの左手が奥に繋がっています。こちらは全て行き止まりだったので、そっちで合流しましょう〉

〈OK、気を付けてね〉



 きーさんと私が協力することで、洞窟の反響を利用したマップ作りは思ったよりも捗った。


 “感覚共有”できーさんの場所からも音を拾えるので、先に続く分かれ道があれば2手に別れられる。


 もっとも他の参加者と遭遇するかもしれない以上、きーさんと私が別れてしまうと無防備になってしまうので、私たちの護衛は他のメンバーに任せる。

 きーさんはメンバーの中でも実力のあるヒルベルトさんが、私はレベッカさんとスピカちゃんが守ってくれているので、心置きなく探索に集中できた。



「お帰り。はいこれ」


 合流したヒルベルトさんは、一緒にいたきーさんを渡してきた。

 少し離れるのは不安だったけれど、彼にならきーさんをしばらく預けるのは心配なさそうだ。


「それにしても、合図の代わりに肉球で額をテチテチされると、何だかえもいわれぬ幸福感があるね」

「うちの相棒を喜んでいただけたようで、何よりです」


 どうやらヒルベルトさんも猫派だったようだ。



 私はまた紙とペンを受け取り、洞窟内の構造を記して行く。


「大体この先の様子は把握できました。この先も2方向に別れてるみたいですね。

 あと、右の方に参加者が2人います」

「どうする? やり過ごしてもいいけれど、そちらがゴールに近かったら手間だしな」

「戦うの……?」


 スピカちゃんとレベッカさんは少し不安そうだった。

 かく言う私もこの狭い空間で避けられる戦闘は、あまりしたくない。


 ここから先、道のりも長いのだし余計な戦いは避けたいのだけれど────


「と言うか、多分あれなんですよ。あの声の1人、多分ナルスです」

「あー、アイツか……」


 彼の事を知ってるようだったヒルベルトさんは、露骨にいやな顔をする。


「だれ? 2人とも知ってる人?」

「【アテン・ハット】──声を聴いた人を振り向かせる能力だよ。

 聖槍が見つかったときの会議で大声だしてたヤツがいたろ、アイツだよ」


 そう言われて、スピカちゃんは何となく相手を思い出したようだった。


「実力は知らないですけど、私なんだか彼に目をつけられてるみたいで……

 正直会いたくないです」

「それは可愛そうに。オレも任務で何度か一緒になったことあるけれど、正直会いたい相手ではないかなぁ。

 実力はともかく、性格的に」


 ただ、相手は声を聴いて振り向いた人の場所を把握することも出来たはずだ。

 今はまだ能力を使ってないみたいだけれど、ここにいたらそのうち場所を把握されることもあるかもしれない。


「一度、左に行こうか……?」

「私はそれがいいと思います。2人は?」

「2人がそれでいいなら、私は特には────うわっ、何っ!?」


 突然、洞窟の奥から地響きが聞こえる。


 こんなタイミングで、地震か──── 


「ねぇ、今ので洞窟の構造の把握、出来なかったのか?」

「声ではないので流石に────あ、でも待ってください」


 先ほどの地響きと共に、洞窟の奥、遥か向こうから声が聞こえる気がする、微かな声。


 先を行って右、ナルスのいる場所抜けて下に、そしてその先にいる人たちの声。


「あ────出口がありましたっ」

「本当……? やっと出れるの……!?」


 彼らのいる場所は、その先に全く声が響いていない。

 おそらくその先が出口であることを示している。


 でもその参加者の叫び声、怒声、これって────


「しまった、まずいですっ。その人たち、洞窟の出口を崩そうとしてますっ」

「なにっ? もし出口がひとつなら────完全に先を塞がれるじゃあ、ないか!!」

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