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帰りたい(233回目)  Enemy


 2回戦が始まって、数時間が経過しようとしていた。

 その間、自分は全く力を発揮できていない気がする。


「ねぇ、早く行きましょうよ……」

「待ってよ~、早いって~」

「ねー、セルマもう少しペース考えてよ」


 2回戦のレース、本当は同じチームの子と組みたかったのだけれど、あいにく人の波に押し流されてしまった。

 仕方がないので、もう一人のチームメイトを探していた双子の姉妹、アリア、クララとチームを組んだ。


 でも2人はあまり積極的に前に出たい方ではなかったので、自分達はスタート地点の後ろにつくことに、流れでなってしまった。


「それにしても驚いたよね。あんな木の扉作っちゃう子がいるなんて~」

「ねー、巻き込まれなくてよかったー」


 そりゃあ巻き込まれなくてよかったけれど、その代わりこのチームは今ようやくスタート地点から動き出したところだ。


 それに2人とも焦る様子がなくゆっくり歩いているし、今自分達の後ろにいるのは、スタートの妨害をした人かそれで諦めてしまった人たちばかりだと思う。


 水晶の順位を見ると、103位だった────



「うっそ……」


 目眩で倒れそうになった。

 これじゃあ、16位以内なんて絶望的だ。


 もう、エリーちゃんもクレアちゃんもスピカちゃんも先に行ってしまっただろう。

 自分だけ、こんなところで燻ってる──と思うと、辛い。


「ねぇ、もっと、ペースあげましょうよ。後の集団なら、まだ頑張れば抜かせるはずよ……」

「えー、めんどくさいよ~!」

「えっ……?」


 その言葉に、カチンと来た自分がいた。

 めんどうくさい、だって────?


「2人とも、今日まで頑張ってきたんじゃないの……?」

「うーん、どうかなぁ。訓練のため休みもらえるって話だったから参加しようと思っただけで、真面目にやってなかったかも……」


 少し申し訳なさそうに、クララは頬を掻いた。


「まぁ、私たち一回戦乗りきったし、先輩たちに頑張ってるってところは見せられたよ。

 このまま負けちゃっても、誰も文句言わないって」

「うん。そうそう、セルマの言うリアレさんだって、頑張った事を認めてくれるって。

 軍の幹部だって言ってたけど、聞いてる限りじゃ優しい人みたいじゃん」

「そんな────」



 リアレさんなら────何て言うだろう。


 想像してみたら、簡単に答えは出た。

 リアレさんはきっと、2回戦突破できなかった自分も、認めてくれるはず認めてくれる・・・・・・


 1回戦を頑張った事を労ってくらるだろうし、じゃあ次2回戦どうすればいいかを、じっくり教えてくれるはずだ。


 例え、今ここで自分が諦めたとしても────


「だからセルマー、もう少しゆっくり────」

「ご、ごめん2人とも……でも、それは出来ないわ……」

「え?」


 ビックリしたように立ち止まるクララ、首をかしげるアリア。


 リアレさんが認めてくれても、自分を認められない自分がいた。


「こんなところで諦めたら、前を行く3人に顔向け出来ない!」


 そう心の中で叫ぶ自分がいる。

 ずっとリアレさん以外に認められたい人がいなかった自分だけれど、今までじゃ考えられない自分の中で3人は大切な仲間で、ライバルになっていた。


「ねぇ、2人とも────もっと先に行かない?」

「え、う~ん? どうするクララ?」

「えー、どうしよっか……」


 これが、最後の警告のつもりだった。

 2人には協力してほしかった、夢を応援してほしかった。


 でも、ここで手を振り払わなきゃきっと自分は、後悔するから────




「ごめんね、やっぱり自分先に行かせて……」

「え、一人で行っちゃうの!?」

「うん、休みノルマはちゃんと自分の分もとるし、2人に負担はかけないから。

 お互い、いい大会にしましょう」


 それだけ言うと、持ってきた杖に股がり、空を飛び始める。


「え、ちょっと待ってセルマ────」


 2人が止める声を振り払うように、自分は風を切るスピードをあげた。



「そっか、みんながみんな、この大会に必死な訳じゃないわよね……」


 頑張って自主練したり、仲間と高め合ったり、誰かに認められたいのと同じように、きっと自分の平穏を守りたい人もいる。


 前に自分を助けてくれたイスカさんだって、そう言えばそんな人だった。

 マッサージのお店を開くと言う自分の夢を叶えたくて、自分の平穏を守りたくて、軍で必死に努力をしていた。


 あの時自分を助けてくれた人が確かにそうかたっていたのだから、今自分はアリアやクララの考え方を否定できない。


「そうよね……きっと誰も間違ってないわよね……」


 それに自分だって、リアレさんがいなかったらと思うと、不思議と自分もそんな生活を送っていたんじゃないかと思える。



 学生の頃は2人がそんな話をしてたって、気にも止めなかったけれど────


 そっか。今まで必死に頑張って来たつもりだったけれど、そうやってアツくなるのって、普通とはズレてることなんだ。


 なんか、馬鹿らしいような────



「ううん、今は大会の事だけ考えないと。

 少なくとも同じ隊の皆に遅れはとりたくないわ!」




   ※   ※   ※   ※   ※



「飛ぶなんて卑怯じゃねぇか! 落ちろ!」

「くっ────!」


 しばらく先を行ってから、空を飛ぶ手段がある自分は格好のマトだったことに気づく。


 参加者たちの頭上を抜ける度に、彼らは撃墜のための攻撃を放ってきた。



「“ハイ・バリア”!」


 下からの熱線をなんとか防ぐと、飛び上がってきた男性公社員の蹴りを回転でかわした。

 すると今度は違う方向から光線が飛んでくる。


「あっ! 危ないじゃない!」


 出来ることならもっと高いところを行きたい。

 でもこの2回戦のルールで一定以上の高さを飛ぶと水晶が割れてしまうと、最初に聞かされていた。


 きっと、上空へ逃げるのを防ぐためだろう。



「第2チェックポイントっ!」


 水晶をかざして、一瞬でまた浮上する。

 だんだんと下を歩く人は少なくなってきた、もしかしたら先のグループに追い付きつつあるのかもしれない。



「あっ……!」


 しかしスピードを上げようと前に乗り出した瞬間死角から迫ってきたビームを防ぎきれず、バランスを崩してしまう。

 そして油断した自分に、いくつもの攻撃が迫る。



「ぐっ────いっったぁいっ!」


 スピードに乗った杖から落ちて、砂利だか土の上だかを激しく転がる。

 全身を強く打って、頭がクラクラする。



「おいおい、『いったぁい』だってよ『いったぁい』!

 空飛んでボォクたち見下ろしてたクセに、やられて高い声で叫ぶなんて、笑っちゃうよおぅ!」

「む────デジレ、それは流石に性格悪いぞ……」


 顔を上げると、10人程の男性がこちらに歩いて近づいてきていた。

 エクレア軍人、能力監査局員、精霊保管協会員────様々な職種が混ざりあっている。


「飛んでる自分が邪魔だから、ここで徒党を組んで排除しようってこと……?」

「まぁ、その通りだな。

 悪いがここで諦めてくらると、こちらも弱いものイジメみたいなことしなくてすむんだけどな……?」


 確かにここで自分から水晶を砕いてしまえば、痛い思いはしなくてすむんだろう。

 10人の男性相手にボコボコにされるなんて、絶対に嫌だ────



「イヤよ、諦められないわ……」

「ふん、ならここで諦めな。飛ぶ女軍人」


 自分と対峙する全員が、武器を構える。


 これは、覚悟をしなきゃ────



「絶対に……ぜっっったいに、勝ち残って見せるんだからあぁぁっ!」

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