目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
帰りたい(232回目)  国の五大戦力


 最後尾を抜け、徐々に進む私たち。

 その後すぐに第2のチェックポイントに到達した。


 ようやく忘れ広野を折り返し、今度は川に沿って海のあるミューズまで向かうルートが早いはずだ。


 その後何人か参加者を見かけたが、幸い大きな戦闘にはならずにここまで来れた。

 ある者はもう戦闘不能だったり、戦う意思がなかったり。



 でも一番は、ヒルベルトさんが一瞬で勝負を決めてくれる、というのが大きいか。


「少し休憩しよ──もう無理……!!」

「私も疲れました」


 一番頑張ってるはずのヒルベルトさんはまだピンピンしているけれど、その前にレベッカさんがへばってしまった。

 私もあまり余裕があるとは言えない。


 彼は少し迷った様子だけれど、「じゃあ休むか」と近くに水晶を置く。

 こういう時間にも、ノルマ休憩は稼がないとならない。



「それにしても、ジーンさんとこんなところで会えるなんて驚いたなぁ……」

「ジーン────あぁ、最初の機構員の人ですか」


 会って正直少しビックリというか、3年前に会った私の事を知り合い前提で話しかけてくるのは、少し面食らってしまった。


「まぁ、悪い人ではないんでしょうけれど」

「ちゃんと能力の扱い方とか丁寧に教えてくれたし、とっても真面目な人だよ?」


 私より詳しいレベッカさんが言うのだから、そうなんだろう。


「つーよりあれは、固有能力の類いじゃあ、ないのかね」

「能力? そんなこと言ってなかったよ?」

「本人も気づいてないだけかもしれないだろ。

 生まれてから物心つく前に発動しちゃえば、本人は気付きようがないだろ。オレがそうだったから」


 まぁ、確かに私も生まれてすぐに【コネクト・ハート】が発動していたとしたら、動物と話せると言うことに気付くのが相当遅れていたかもしれない。


「そっか、そう言うのって周りも指摘しなかったら、なかなか難しいもんね……

 能力監査局なのに、そう言うの言ってくれないのかな」


 確かに彼女の周りはその道のプロばかりだ。

 みんなではないにしろ、指導する立場なら能力そのものをもってる人も少なからずいるだろう。


 能力かもしれない、と気付いたなら周りから指摘されそうなものだけれど。


「知らないね。オレが言ったのはあくまで可能性の話。

 実際は本人が単に記憶力がいいだけかも、だしね。

 まぁ、固有能力監査局は変に真面目な奴らが多いし、案外知って本人のために黙ってるのかもしれないぜ?」

「知ってて、ですか……?」

「事件を起こすような悪性がないなら、知らなくても最悪困らないしな。

 病気のヤツに『お前病気だよ』とわざわざ言わないのと一緒」


 病気、か。それはなんだかイヤな言い方だけれど、話ぶりからするとヒルベルトさんも能力持ちらしい。


 ある意味彼なりの自虐────なのかもしれない。



「というか、能力監査局って変な人が多いの?」

「らしいな、まぁ偏見の類いだろうけど。

 変にマジメな局員、変わったヤツらの公社員。ビビりの協会、騎士はカタブツ。最後にバカの軍人で、国の五大戦力、ってね。

 前に街で言われてるの聞いたよ」

「あの、この水晶って通信機能ついてると思うんですよね……」

「うっそ、ヤバッ!!」


 ヒルベルトさんが地面に置いた水晶から、一歩引く。


「大会が始まってからの準備時間で街で見たんですけれど、大会をリポートするプロマの特番が軍放送で組まれてるらしいです。

 でも、私たちさっきから誰にも監視されてないですよね」

「確かに……」


 それに、レースとは言え外部からの協力者禁止、登録以外の武器持ち込み禁止など様々な制約はあったはず。

 レース続行不能の可否も含め、それを判断するのに審判がいないのは、あまりに不自然だ。


「きっと、この水晶が撮影と審判の役割を持ってるんです。

 ここから発した魔力波をどこかで中継して、映像なんかを街に送ってるってところですかね」


 そうすれば、街の外でもある程度は大会を管理できるはずだ。

 「こんなもの、どこで使ったんだか……」と言うヒルベルトさんの指摘は、別の側面からもまとを得ていた。



「詳しいんだな、国の通信に……」

「────? まぁ、お家でよくプロマ見てますし、前にそれで酷い目に遭ったんで、人並み以上の知識は……」


 通信は魔力波で管理しているけれど、それは突き詰めればきーさんの“催淫”とも原理は近しい。

 一応制御できるようにはなったけれど、これからどう言うことがあるか分からないので、あのり威霊の峡間径」から帰ってきて、一通り調べたのだ。



「ありがとう、そろそろ大丈夫」

「んじゃ行くか」


 ほどなくして、私たちは再び進み始める。


 その後もはほとんど人と出くわすこともなく、私たちは川に沿って南下してゆく。



「もうすぐ第3のチェックポイント────と言っても、大分先頭とは離されているだろうな。

 63位か。ここから16位以内に追い付くのは、絶望的かもなぁ……」

「そ、それじゃ困るんですよっ……」


 私が強く言い放つと、少しヒルベルトさんは驚いたようだった。


「何が困る……?」

「この試合で勝てないのは、とても困ります。

 私、したっぱの期間が長かったので……」

「ほん? そんなタイプじゃあ、無さそうだけどね」

「………………どういう意味ですか?」


 メガネをハンカチで拭きながら、ヒルベルトさんはこちらを流し目で見てくる。


 なんだか嫌だな、言う必要のないことまで、言ってしまいそうな気分だ────


「ねぇ、そんなに問い詰めてどうするの!?

 あなたがいたからここまでこれたのは事実だけれど、エリーさんに詰め寄っていい事実にはならないはずだよ!」

「────分かった」


 それだけ言うと、ヒルベルトさんはまたメガネをかけ直して、先を見た。

 レベッカさんのおかげで助かったけれど、私は彼に何かを疑われているんだろうか。


 だとしたら、おそらく彼は────



「ねぇ、エリーさん。彼何か変じゃない?」


 本人に聞こえないように、レベッカさんが耳打ちをしてきた。


「変、ですか?」

「そう。だって急に誘ってきて協力するわりには色々疑ってるみたいだし、何かこっちの考えが読まれてるみたいな気がして、私不安になっちゃって……」


 言いたいことはよく分かる。

 なんと言うか、彼の言動には相手を先読みしたり、こちらを見透かしたような言動が多い。


 きっと強者ゆえの経験から来るものなのだろうけれど、それを不安に思うこともあるだろう。


「まぁ、彼今のところ私たちを助けてくれてますし、ここで喧嘩しても、休憩のノルマが達成できません。

 もう少し様子みませんか……?」

「そう……私も彼を悪い人だとは思わないし、エリーさんがいいなら構わないんだけど……」


 そういいつつ、レベッカさんはまだ不安そうだった。


 アデク隊ではあまり感じない、疑心暗鬼の雰囲気だ。



「見えた、そろそろ第3チェックポイントだね。

 いや、その言い方だと語弊があるか……」


 そのうち、ヒルベルトさんが立ち止まる。

 先に見えるのは、「山」だった。


 なんの変哲もない山が、広野が終わる辺りに反り立っている。



「あー、そういうことですか……」


 きーさんに地図に変身してもらい、ようやく私もその言葉の意味を理解する。


「第3チェックポイントは、あの山の向こう、ですね」

「あぁ、大昔精霊による天変地異で出来た山らしいけれど、変な地形もあったものだよ。

 おかげで川が曲がっている、かあいそうに」


 まぁ、これが最短ルートなのだから仕方ないにしても、ここからは選択が必要になってくるだろう。


「あの山にはトンネルがある。中は迷路のようになっているらしいけれど、オレも詳細は知らないな。

 迂回すると相当なロスだし、どちらのコースも一長一短だ」


 ちらほらと、前の選手たちが山にたどり着くのが遠目に見えるけれど、一組はトンネルへ、もう一組は迂回コースを選んだようだ。



「どうする、お2人さん。どうなるか分からないし、決めていいよ」

「エリーさん決めていいわよ」

「え……」


 突然決定権を投げられてしまい、私は戸惑う。


 でも先ほどの順位をみる限り、私たちにゆっくりしている余裕は、そうないのだろう。


「トンネルを行きましょう、幸い明かりも持ってきました。

 ここでうまく行けば、トップとも並べるはずですっ……」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?