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帰りたい(226回目)  いざ2回戦


 2回戦当日になった。

 私たちには1回戦終了後に紙が配られ、そこには今日の集合場所が書かれていた。


「ここで2回戦やるのか?」

「そうなる、よね……」



 集合場所はアリーナではなく、エクレアの街の、正面入口門の前だった。

 すでに多くの参加者や観戦客が集まっているので、集合場所を間違えたと言うわけでもないらしい。



 そして、なにも不思議そうな顔をしているのは、私たちだけではなかった。


 勝ち残った200人────どの人も精鋭ばかりだろう。

 目をギラつかせている者、仲間と対策を話し合っている者、一人で瞑想している者────そして、同じように不思議そうな顔をしている者もいる。


「なぁ、エリアル。なんか聞いてねぇか?」

「聞いてませんね────あ、でも説明してくれそうな人が出てきましたよ」


 門の手前に特設された演説台、そこにガタイのいい厳つい軍人が、部下らしき2人を引き連れて出てきた。

 明らかに新人ではないその風貌に、自然と選手隊の注目が集まり、辺りは静かになる。



「時間だ、集まった集まらなかったに関わらず、今から2回戦の説明を始めさせてもらう。

 私は今回ルール説明を務める、ザブラス・レドモンドだ」


 中年の、しかしそれ故に貫禄と威厳のこもった野太い声だ。

 決して大きくないのに周りにいる全ての参加者に、余すことなく聞こえたはずだ。


 もちろん、それは誰かさんのような能力の類いでもない彼の地の声だろう。ひぃ、おっかない。


「あの人、誰だ?」

「ザブラス・レドモンドさんですよ、知らないんですか?」

「知らねぇ」


 クレアが小声で聞いてきた。

 この人、最高司令官目指してるって豪語するのに、結構有名なことも知らないよなぁ。


「幹部ですよ、軍の十幹部の一人。

 この門を護っている門番さんたちを取り仕切ってます」


 この街から出るとき入るとき、よく見かける人だから、顔を知っている人が最も多い幹部の一人ではないだろうか。


 あとは確かほぼ3年前、ヴェルド教官が殺害された時、イスカを事情聴取したと言っていた人。

 そしてアンドル最高司令官が亡くなった時の会議にも参加していた。


 要所要所で、しかも不吉なところで名前が出てくる。

 だから、悪い人ではないはずだけれど、私としてはどうしても苦手意識を持ってしまうんだけれど────



「あ、思い出した……前にアタシが勝手に門を抜け出したとき、めちゃくちゃ怒ってた人だ……」

「あー、そりゃそうでしょうよ……」


 あの日は確か、ザブラスさんは非番だったのだっけ。

 そのおかげでミリアも門を襲撃できたのか。


 もし彼がいたのなら、突破どころか近づくことすら許さなかっただろう。

 年齢は他の幹部たちに比べるとかなり高いけれど、個人での戦闘の実力も、その中は決して下に収まらないと言う噂も聞いたことがある。



「では2回戦のルールの説明だ。2回戦は、チーム対抗のレースとする」



   ※   ※   ※   ※   ※



 2回戦は、3人1組のチーム対抗のレース。

 エクレアの郊外等に置かれた6個あるチェックポイントを走り抜け、早くゴールした16人・・が、3回戦へ突破する。


「あ、早くごーるしたちーむ、じゃないんだ……」

「てか、200人からいきなり16人かよ!?」

「いよいよ、シビアになってきましたね……」


 このレース、チーム戦と言っても、そう簡単なものではないらしい。

 スピカちゃんの言う通り、「早くゴールしたチーム」ではなく、「早くゴールした人」が勝ち進むため、チームの中でゴールした人とゴールしていない人が出てくることも、当然あり得る。


 しかし例外として、チームの中で2人がゴール出来た場合、残りの1人は、2人目の直後にゴールした扱いになるのだと言う。


「強い人と組めば、3回戦に行ける確率が上がるけれど、逆に強い人が突破するから、次がキツくなる────

 逆に弱い人と組むと、自分は絶対にゴールしなくちゃならない────ってこと?」

「そうなりますね、単純に考えれば。でも……」


 そしてもうひとつ、参加者それぞれには水晶が配られ、チームの中で必ず合計24時間は、その水晶を地面に置いて休憩を挟まなければいけないらしい。

 それをせずにゴールした場合は失格、壊されてしまった場合も失格だ。



 チーム内での裏切りや画策も可能だけれど、必ず連携は図らなければいけない────

 なんともイヤらしいルールの気がする。


「ルートは────街の北へ出て、忘れ広野をそのままUターン。

 少しにしに流れるグロリア・リバーに沿って南へ行って、河口のミューズの街でまたUターン。

 最後に戻ってきて、この門をくぐってゴール、ですか……」

「長くない!? 馬車で普通に走っても1日じゃまわりきれないわよ!?」


 確かに途方もない距離だ。でも、休憩を挟まなければいけないのなら、こんなものだろうか。

 2日とちょっと──ただの2回戦、と言いきるには、あまりに長い時間が始まるわけだ。


「なお、同じ隊や部隊の人間は1チーム2人までとする。以上だ。

 さぁ若人衆、チームを決めて、試合を始めよう。2時間後試合開始だ」


 ザブラスさんが言い終わると、参加者たちは一斉にチームを決めるため、動き出した。

 これは私も、うかうかしていられないな────



「てか、なんで1チーム2人までなんだろうな?」

「3人揃ってしまうと、連携しやすいからでしょう。

 ふだん一緒に闘わない人と、どう上手く連携するか──あるいは蹴落とすかが、問われるわけですか……」


 なら、実力が高いわけではない私は、少なくとも信用できる人と組みたい。

 幸いなことに、私の隊の子たちは裏切ったり利用したり、と言う事はあまりしない人たちだ。


「クレア一緒にチーム作ります?」

「え? あー、それなんだけどよ……」


 一番近くにいたクレアに声をかけると、彼女は少し申し訳なさそうに頭をかいた。


「今回は実力が試される大会だから、アタシがどこまで通用するかやってみたいんだ……」

「何か策があるんですか?」

「うん、ちょっと今回は組めねぇ。ごめん……」

「あーいいんですよ。お互い頑張りましょう」


 クレアは、なおも申し訳なさそうに人混みのなかに消えていった。

 あの子と組めないとなると、私たちの隊は散り散りになっちゃうな───


「えーっと、じゃあ────あれ?」


 周りを見ると、スピカちゃんやセルマも、いつの間にかいなくなっていた。

 まぁ200人もひしめき合っているんだから、少しでも目を離したら、どこへ行ったかなんて、すぐ分からなくなってしまうのは当然なのだけれど────


「もしかして、あの2人私をさし置いて、チームを作ったんじゃ……」

『あの2人なら、別々の人に着いてったよ』


 疑心暗鬼になりかけた私を、今日はずっと足元にいたキーさんが制した。

 それを聞いて、残念なような、少し安心したような私がいる。


 でも、何はともあれ問題はチームを組む人のアテが、完全になくなってしまったことだ。

 周りを見渡しても、チームを組む交渉が熱心に繰り広げられていて、どこも私が滑り込む余地など無さそうだ。


 2回戦は、もう始まっているのか────


「なお、3人のチームの出来なかった者は、余った人数でチームを組んでもらうから、そのつもりで探すように」

「やば、早く探さないと……」



 目には見えないリミットが、刻一刻と近づいている────


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