目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
帰りたい(224回目)  三日目のセルマ


 明後日に迫った2回戦、dブロックの自分は、余裕で突破できた。

 なんか、強い人たちに追いかけられてたエリーちゃんはかわいそうだったけれど、とにかく隊の全員が突破できたのは嬉しいことだ。


 この報告をアデク隊長にも伝えたかったけれど、急な任務で未だにこの街にはいないらしい。


「ん~、じゃあ今日もやるとしますか!」


 1回戦の後も毎日、自分は訓練を続けていた。

 午前中は毎日同じ体力作り、午後はその時に合わせた課題を。


 前に、リアレさんに教えてもらった方法だ。


「セルマは、コツコツやるのが得意なタイプだからね。

 時間があるなら、同じ日課を日々こなすようにするといいんじゃないかな」


 前回リアレさんがこの街に来たとき、そう言っていた。

 大会までの一ヶ月間も、リーエルさんがいない日はこうやって、軍の訓練場に来ている。




 だから、こうやって今日も1人で走り込みをしてたんだけど────


「ちょっと待ってセルマ~!」

「ねー! 早いよー、置いてかないでー!」


 そう後ろから声をかけられたら、止まるしかない。

 なんかここで自分だけ置いてったら、空気読めないみたいだし。


「2人とも、大丈夫?」

「や、休ませて……もう走り込みは無理なんだよ~」

「ねー、ホント大変」


 後ろから着いてきた2人は、同じ軍人。間延びした声でよく話す赤髪のアリアちゃんと、それに同意する青髪のクララちゃん。

 2人は双子で、しかも自分と同じ強化新入隊員だ。


 軍に入る前の2年間、一緒に学校で資格を取るために勉強した仲だから、エリーちゃんやクレアちゃんよりも付き合いは長い。


「でもすごいわよね、2人とも1回戦突破しちゃうなんて」

「ふふふん、そこは私たちも一応、術師の資格を持ってるわけだし~」

「ねー、なんとかギリギリだったけど」


 ブロックは違ったけれど、2人が残っているのは試合を見て自分も確認していた。

 今日久しぶりにここでバッタリ会ったので、1回戦突破組同士で、一緒に訓練しようって流れになったんだ。


「それにしても、2人とも大会に出るようなタイプだと思わなかったわ」

「うーん、それがね。強化新入隊員として働き始めたけれど、お仕事面倒くさくて~」

「ねー、それでもたまには『やる気あります』ってところ見せないと、隊の仲間とかに立つ瀬がないんだよ」


 つまり、この2人が大会に参加したのは、周りへのやる気アピールってことか。

 確かにこういう大会なら、危険な任務に出るわけでもないし、ある程度頑張ってるところを見せれば、周りも納得してくれそう。


 幸い、うちのアデク隊はそう言う厳しいことをいう人もいなければ、少人数なのでそういう雰囲気もない。

 そもそも小隊長のエリーちゃんが、最初は堂々と「参加しない」って明言してたくらいだし。


 でも、そういうことまで考えなきゃいけない人たちもいるのは、あんまり考えたことなかった。

 大会に参加する理由って言っても、色々なんだなぁー。


「ねぇ、じゃあセルマはどうして、参加しようと思ったの?」

「自分は、リアレさんに少しでも近づくためよ。

 前に帰ってきた時、約束したの。お互いどこにも行かないくらい強くなって、その時に一緒になりましょうって……」


 そう。そのために、まずは第一歩、この大会で自分の力を試してみたい。


 相手はこの国の強豪に猛者に手練れ。

 もちろん隊のみんなや、目の前の双子だって、一筋縄じゃ行かないはずだ。


「次からは2人ともライバルだから、覚悟してね!」

「熱いね。てか、またリアレさん~?

 学生の頃からずーっと言ってるけど、変わらないね~」

「ねー、最初の頃、その人全然帰ってこないから、私セルマの妄想だと思ってた!」

「そんなことないもん! こないだ帰ってきたわよ!」


 こないだ帰ってきて、たっぷりリアレさんと過ごした。

 忙しい中時間を作ってくれたリアレさんには感謝してる。


 あれ、でもあんなに素敵な人いるわけないし────もしかして、リアレさんて自分の中の妄想だったの!?


「って、そんなわけないじゃない。

 休みはいいでしょ、そろそろ行こう。午前中のノルマはちゃんと終わらせたいの」

「えーまだ休みたい~、それよりさ~」

「ねー、聞きたいよね」

「え?」


 2人が突然、こちらに迫ってきた。


「え、なになになに??」

「セルマ、教えてほしい技があるんだけど、いいかな~」

「ねー、私も聞きたかった魔法あるの。教えてよー」

「えぇ、今日……?」


  結局、2人と一緒に休み休み訓練をしたので、午前中は完全にペースを崩されてしまった。



   ※   ※   ※   ※   ※



「へぇー、それでそれで!」

「結局、エラシルさんと周りの人たちを一通り運んだら、いつの間にか苦しむ人が少なくなってたの……」

「やっぱりあの時、この街は大変だったんだ~」

「ねー、私たち物資運ぶ任務に出てていなかったもんね」


 お昼になって、近くのお店でなんか食べようと双子に誘われた。

 ちょうど自分もお腹が空いてたので少しだけ──と思ったのだけれど、思いの外話が盛り上がって時間を取られてしまっている気がする。


 まぁ、2人に会うのは軍に入隊する以前以来だし、懐かしいのは分かるけど────


「ねね、あの事件の原因てなんだと思う?」

「さ、さぁ?」

「実は、前に発見された『図書館の奥に眠る大神殿』に関係があるんじゃないかって~」

「ねー、あの噂。私も聞いたよ」


 あー、そう言えばそんなこともあったな。

 あれは確か、途中まで操作が進んで、それから攻略が出来なくなったので今調査は打ち止めになってるらしい。


 開いた原因は誰でもない自分(というかエリーちゃん)なんだけれど。


「あれは──関係ないんじゃないかしら……?」

「何で分かるの?」

「何となく……」


 自分が開きましたとは、口が裂けても言えない。

 これはエリーちゃんとの秘密なんだ、墓場まで持ってく。


「あとそれとさー、あのこと一番聞きたかったんだけど────」

「あ、あのさ……! そろそろ、戻らない……?」


 予定より、かなりお昼の時間をオーバーしてしまった。

 もうすぐお店のランチタイムも終わってしまう時間だ。


 さっき双子が言ってた聞きたい技だって、まだ完全に教えれたわけじゃない。

 早く戻って訓練をしたかった。


「えぇ? いいよーそんなの。それよりもう少しゆっくり話したいな~」

「ねー、久しぶりに学生だったころみたいで楽しいじゃん」

「それは……そうなんだけど……」


 正直、2人との時間が楽しくないかと言われれば、そんなことはない。

 昔の思い出、近況の報告、新しい人間関係────伝えたいこともたくさんあるし、聞きたいこともたくさんある。

 でも、それって今やらなきゃいけない事なのかな。


 そう思ったけれど、軍に入ってから一度も、彼女たちと会っていないことを思い出した。

 今までずっと、忙しいことを言い訳に、以前からの友達をないがしろにしてしまっていたのかも────


 軍には自分みたいに強くなりたい人や、クレアちゃんみたいな出世したい人ばかりじゃない。


 スピカちゃんみたいな、強くなるべくしてなる人もいれば、エリーちゃんみたいな、毎日が必死な人もいる。

 アリアやクララ、日々を過ごせればそれで充分て人もいる。


 だから、たまに思う。だんだん、学生時代より、周りとの距離が遠くなってきてるような────



「セルマ、大丈夫?」

「え? ご、ごめんね、なんだっけ?」


 気付くと、双子がこちらを覗き込んでいた。

 少しだけ考え事で、心ここにあらずだったみたい。


「聞きたいことだよ。リアレさんが幹部になったこと、セルマどう思ってるのかと思って~」

「ねー、一番気になってた!」

「あ、それね! 自分にリアレさん語らせると、話長くなるわよ~!」



 大会の2回戦の2日前。

 その日初めて、こつこつ続けてきた訓練を止めてしまった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?