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帰りたい(217回目)  お前らもかよ……


 デルス隊の人たちが去ってから、私たちはまた会場に向かう。

 しかし、どこかのだれかさんがしつこくて仕方なかった。


「ねぇねぇ、エリーちゃん! さっきの男の人誰??」

「え、普通に任務で知り合った人、ですけど……」

「どこで知り合ったの? ホントにただの知り合い?? 相手はそんな感じに見えなかったけどなぁ……!」


 うわぁ、頭が恋愛モードだ。

 このテの話しになると、来ると思ったけどやっぱり来たセルマさんだ。


 まぁ、確かにただの知り合いってわけではないけれど、それは恋愛的な意味ではなくて、むしろ悪い意味でというやつだ。


「あー、もう話聞いてくださいよ。スピカちゃんお願いします」

「よしきた……」

「むぐっ!?」


 恋ばなになると止まらないセルマの口を、スピカちゃんが髪の毛で塞ぐ。

 暫くはんーんー言っていたけれど、私は構わずに話を進めた。


「彼はそんなんじゃないです。

 私の【コネクト・ハート】が、彼の固有能力をうまく打ち消すらしくて、それを知った彼から強引に敵対視されてるんです。

 慕情も恋慕も恋着も、全く関係ない話ですから勘違いしないでくださいね。

 いいですね? いい、です、ね?」

「むはっ! なーんだ、そうなのね……」


 何とかスピカちゃんの桃髪硬めピンクヘアーホールドから抜け出したセルマが、つまらなそうな声をあげる。

 かつてロイドと休日に歩いていただけで暗くなる寸前まで後ろを付けてきた子だ。


 これくらい言わなければ聞く耳持たない。


「もう、寒いから早く行きますよ────あっ……」



 その時、【不屈のアーロ】と呼ばれている・・・・・人が、私たちを追い越していった。


 一ヶ月前、私が見たときと変わらない、歩き方、体の動かし方、歩幅、におい、空気。

 背筋が凍るような、体にのし掛かるような気配も健在で────


「おい、エリーどうしたんだよ」

「なんでも、ない、です……」



   ※   ※   ※   ※   ※



 ルーキーバトル・オブ・エクレアは、国で兵力を持つことを公式に許された「軍」「精霊契約保安協会」「王国騎士」など5つの組織から、入隊5年以下の新人たちがしのぎを削り戦う競技大会だ。


 ほぼ一ヶ月かけて行われるこの大会は、もはやただの競技大会ではなく、全国が注目する有名なものとなっている。


 優勝者には賞金の他に最終日、国王から直々に表彰されるという、副賞が付く。

 国王から表彰されるということは、すなわち国全土に名前が通るのも同じ。


 どこの組織でも、上層部も一目も二目も置かなければいけないスーパールーキーになる。

 クレアのように出世したい、名誉が欲しい人にとっては一番手っ取り早い方法だ。


 他にも、セルマのように自分の力を試したい人、スピカちゃんのように何かを駆けている人。

 それぞれがそれぞれの目的で、大会に向かう。


 そして、私も────



「いやぁ、にしてもおっきいわね。こんなところで大会なんて、少し緊張するかも」


 アリーナに着くと、セルマが開口一番にその大きさにため息を付いた。

 まだ入り口だけれど、確かに大きい。私も圧倒されそうだ。


「そうかなぁ……まぁ、うん、おっきいけど……」


 隣で姫様が少し不思議そうな顔をしていらっしゃる。

 私たち庶民の考えが理解できないご様子だ。


「え、スピカ変なこと、言った……?」

「いいえ、別に?」



 スピカちゃんはよく分からないようだけれど、このエクレア・アリーナは3万人以上のキャパシティがある、巨大施設だ。


 もし災害や敵襲なんかの緊急時の避難場所目的としても建てられていて、その場合プラスで地下や控え室なんかも解放してより多くの人を受け入れられる。

 ちなみにミューズにあった国王の別荘のように、強力なバリアを張ることも可能らしく、防御面にも優れている。


 大会が開かれるときには国内から多くのお偉いさんを受け入れるため、あらゆる層の人の使用を視野にいれて造られている。



「もらってきましたよー」

「お、くれくれ!」

「名前が書いてあるんで、それぞれに、ですね」


 アリーナでは、既に大会参加者に紙が配られていた。

 どうやら、1回戦のルールは4つのブロックに別れたバトルロイヤルらしい。


 紙には大会の注意事項と、1回戦のルール、自分が戦うブロックが書いてある。


 アリーナの真ん中に設置された私の身長くらいの円状の舞台、そこで選手たちが闘って、先に地面に身体の一部や衣服がついた者から脱落。

 精霊の参加はオーケー。1つのブロック約150人で、最後まで残った50人が2回戦に進出できる。


 1,2回戦までは毎年予選なので、六割五分以上もの選手がここで沈むわけだ。



「えっと、Bブロックですか」

「アタシはAだな、初っ端からか!」


 クレアが気合い充分と言うように腕をブンブンと振る。


「あ、スピカはCブロック、だった……」

「自分はD──って、見事にバラけたわね」


 多分、1回戦はバトルロイヤルと言う性質上、同じ隊なんかで徒党を組みにくいように、その辺をバラされたんだろう。



〈Aブロック参加者の皆さんはそれぞれのブロックの控え室へ移動してください〉



「じゃあ、行ってくる」

「あ、まって────」


 放送を聞くと、クレアは早足で控え室へ移動してしまった。

 ここからはライバルとは言え、激励ぐらいさせてほしかったのだけれど。


「じゃあ、自分たちは観客席行きましょう。

 参加者用の場所もあるみたいよ」

「行く。早く座りたぁい……」


 ここまでの移動で早くも疲れてしまったらしい2人は、そのまま観客席のある2階へ上がろうとしていた。

 ちょっと申し訳ないけれど、しょうがないか────


「あ、あのっ……」

「ん? エリーちゃんどうしたの?」

「わーたしも、控え室行っていいですかね。

 Bブロックの場所はもう解放されてるみたいですし、対戦相手の顔とか、先に確認しときたいなぁ、って……」


 正直、私がそこまで本気で挑むのは意外だとも思われているだろうし、似合わないとも思われるだろう。

 でも、さっきすれ違った【不屈のアーロ】──私が感じた違和感が本物で、彼と1回戦で当たる可能性があるなら、練れる対策はなるべく練っておきたい。


「え、全然いいわよ。でも────」

「意外かも……」

「ごめんなさい、終わったら観客席行きますからっ。2人とも頑張ってっ」



    ※   ※   ※   ※



 Bブロック控え室。まだ開会式もAブロックも始まっていないので私が一番乗りかと思ったが、そこにはかなりの数の選手がすでに集まっていた。

 そして、流石は国を挙げての一大イベント。ざっと眼を通す限りでも、知った顔が何人かいる。


 【不屈のアーロ】は──いないか。



「ふぅんエリー、お前もBか。じゃあオレの『敵』だな」

「え、敵はひどくない? まぁ、少なくとも『味方』ではないけどねぇ」

「えっ────?」


 突然後ろから声をかけられて、私は慌てて振り向く。

 しまった、最悪だ、2人ともいる────


「お前と戦うのは初めてだな。あ、勘違いするな?

 やる気ねぇのは知ってるけど────オレが目を付けねぇ理由にはならねぇからよ」

「アハハ、なんだそれ。まぁでも、僕もエリーが相手なら頑張ろうかな?」


 ルーキーバトル・オブ・エクレア、1回戦Bブロック。


 集合場所に現れたのは、大会の中でも有数の実力者にして優勝候補。

 そして私の元チームメイトである、ロイドとリゲル君だった────



『お前らもかよ……』


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