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ハードシップ(第12段階)  全員参加で轟かす


 10日後、エクレア中央病院の中庭。

 高い病院の上の方を見上げながら、私はベンチに腰掛けボーッとしていた。


「イスカ────予想以上に無理させてたみたいだね……」

「そうだな」


 隣では、同じようにボーッとするロイド。

 冬の寒さで息が白くしながら、何か考え込んでいる。


「もう、あんな無理、してもらわないようにしないと────」



 結局あの後、動かなくなったイスカも抱えて、私達は5人でこの病院に駆け込んだ。


 イスカとライル君は即入院、特にイスカの方は体力の消耗が激しかったらしい。

 派手な外傷こそないけれど、ちょっと危ない状態だったとか。


「腕を千切らなきゃいけない戦い方続けて、無事なわけないよね……

 最初あんな痛がってたのに、我慢してたんだ……」

「今さら言っても仕方ねぇだろ」

「うん……」


 ちなみに背中が焼けたロイドも一泊の入院だった。

 本人は嫌がってたけど、全然大丈夫じゃなかったらしい。


「で、どうなったんだよ。その後の対応、任せたろ?」

「あー、うん……」



 私達も病院に受診した後、捕縛した3人の引き渡しや、軍の事情聴取やらでとても大変だった。

 イスカもアイドルの仕事の対応に追われていたので、実質私一人でやったようなものだった。


「偉い人に怒られたよ、そういう時はまず本部に連絡しろって」

「だろうな、“ねばねば”したあれはどうなった?」

「なんか、『精霊契約保安協会』って人たちが来て預かってくれたよ。

 前にも同じような生き物を捕まえて、今管理してるんだって」


 なんで精霊のあれやこれやが主な仕事の人たちがそんな危ない生き物を捕獲したのかは分からなかったけれど、それは私の知るところではない。


 とりあえず、箱を受け取ったおじさんが、箱を見て胃を抑えていたのがちょっとかわいそうだった。


「あんなのがウジャウジャいんのか? どうなってんだこの国は」

「さ、さぁ? ウジャウジャはいないと思うけど。

 それからはな~んにも、今のとこ連絡は来てないよ」

「そうか、また呼び出しあったら行かねぇとな」



 そう言って、また私達の間に沈黙が流れる。


 初めて会った時ボコボコにされたのもあるけれど、どうもこのテの男性とはうまく会話が続かない。

 必要以上に語らないタイプというか。


 あ、そうだ。ロイドに聞かなきゃいけないことがあったんだっけ。



「ねぇ、ロイドってイスカのこと好きなの?」

「────っぶ! ゲホゲホッ!」


 何気なく質問したら、予想以上に動揺した反応を見せる。

 そして、しばらく咳き込んだ後恨めしそうにこちらを睨んできた。


「っ────エリーに聞いたのか?」

「エリーさんに? ううん、エリーさんとはそこまで仲良くないし、あの人そういう人の秘密言うタイプじゃないよ。

 まぁ、そう思ったのは何となく。ホントに何となくだけど」


 でも、どうやら図星だったみたい。やった。


「前にエリーにも言われたよ、見てりゃ分かるって。

 そんなにオレ分かりやすいかなぁ?」

「さ、さぁ? あ、でもすごい信頼してる感じがする」

「信頼ねぇ──いや、そりゃ好きだのどーのつーか、オレの見てきた実績だ。

 キライでいけすかねぇ野郎でも、オレの思う通り動くならなんも言わねぇだけだ」

「ふーん、そっかぁー」


 これ、本人も気付いてなさそうだけど、イスカのことすごく大好きだ。色々素直じゃないなぁ。


「なんだよ、ニヨニヨしやがって気持ち悪い」

「なーんでも。あ、でもイスカには感謝しないとね。

 おかげでロイドが入ってくれたんだから」

「あん……?」


 私の言葉に、ロイドは少し不機嫌そうに喉をならした。


「別にそんなんじゃねぇよ、お前がオレを雇うつったからついていくだけだ」

「あ、そうだったんだ……」



 そうこうしているうちに、離れていた2人が帰ってきた。


「たーだいまー!」

「や、やっと戻れた……」


 トイレに行っていたライル君と、それについて行ったソニア。

 なぜか、ソニアはゲッソリしてるけど────


「何があったの……?」

「ライルったらすぐフラフラどっか行っちゃうし、言うこと聞かないし大変だったの!」

「へへへ、ごめんねぇ」

「ホントよ!」


 いやな顔をしながら、ソニアはグッと頭からズレ落ちそうになったフード代わりのスカーフを直した。

 仮にも街では有名人の彼女、普段は騒ぎにならないように顔を隠して活動している。


「まぁ、ホント無事でよかったけど……」


 そう言いながら、私とロイドのとなりにちょこんと腰かける。


 そう言えばこの間の事件、最初はソニアが襲われるはずだったのを、賊たちが間違えてライル君を誘拐したのが始まりだった。

 目印にされてしまった私も感じていることだけれど、自分の代わりに犠牲になって、結局入院まですることになったライル君には、ソニアも思うところがあるらしい。


「なに、レベッカどうしたの??」

「なになに! オイラなんかまた変なこと言った!?」

「べーつーにー!!」


 さっきもなんだかんだ言いながら、一緒に付いていくと言ったのはソニアの方だったし、なんだか頼りない弟を見るいいお姉さんみたいだった。



「うるせぇなお前ら、ほらちょうど来たぞ」

「なぁにみんな、全員集合って感じで騒がしいね。

 もしかして僕を迎えに来てくれたの?」

「あ、イスカ!」


 病院の中庭、向こうから歩いてきたイスカに私たちは手を降る。


 今日は、ついにイスカが退院をする日だった。

 だからこうしてみんなで集まって迎えに来たのだけれど、当のイスカは何だか優れない顔だった。


「だ、大丈夫?」

「うん、病院の真ん中でこんな騒いでる人たちと、ツレだと思われたくなくて……」

「あ……」


 周りを見ると、お見舞いの人、リハビリの人、看護師さん。

 みんなが白い目でこっちをみていた。


「さーわーぎ、過ぎたわね……」

「取り合えず場所移そうか……」



   ※   ※   ※   ※   ※



 退院したイスカの快気祝いも含めて、私たちは病院にほどなく近いビュッフェに来ていた。

 ここならたくさん食べるライル君も安心してお腹を満たせるはず。



「い、イスカごめんね! ホントにごめん! でもここまで無理してるなんて思わなくて!!」

「あはは~、入院中も何度も聞いたしその事はいいよ~。

 僕もこんなに無理してるなんて気付かなかったし、集中しすぎって怖いよね~」


 そうは言いつつ、多分イスカは自分が無理していることに気付いていた。


「レベッカ、それは言っても仕方ないことだっつったろ」

「うん……」


 そういえばさっき、ロイドとそんな会話をしたばかりだった。

 ずっとウジウジするのは止めよう。

 後悔するなら、これから絶対に同じことを起こさない努力をするんだ。


「あ、でもそう言いつつ、ロイドも僕の退院、迎えに来てくれたんだよね」

「あん? 悪かったな、薄情で」

「ううん、うれし。ありがと」

「べぇつに、暇だし来ただけだよ。たまにはいいだろ」


 あとやっぱり、ロイドはイスカに素直になれないみたい。



「てか、ライル。第一なんでテメェがここにいるんだよ、部外者だろ」

「オイラだってイスカの退院は行きたかったよ~

 僕のせいで怪我しちゃったんだもん~」

「お前はまだ入院してろよ、どんだけ喰うんだよ、この店今日は赤字だぞ、可哀想に……」


 つんけんどんな態度をとるロイド。

 でも分かる、さっきから誰も敢えて触れないけれど、ライル君のお皿には食べ物が山盛りにされていた。


 ビュッフェだからって限度があるよ────多分この店、私たちは当分出禁だ。



「おいリーダー。すっかり懐かれてるけど、そいつどうすんだ?」

「ん~~……」


 ライル君がベッタリで離れてくれない。分かってはいる、分かってはいるんだ。

 さっきから私の腕にしがみつくこの子、振り払わなければいけないのは分かってるんだけれど。


「おねえさーん。助けてくれてうれしぃー」

「すっかり懐かれてる、わね……」


 ライル君に、すっかり懐かれてしまった。

 件の事件で何を思ったか知らないけれど、離れてくれないのはとても困っている。


 でもこのまま無理矢理振りほどいて、はいさよならも出来ないし────


「ねぇ、みんな。相談があるんだけどさ……」

「なぁに?」

「この子、うちの隊に入れてあげられない?」


 もちろん、維持が大変なことも分かっている。

 たくさん食べるライル君を養うために、どうにかしないとならない。


 でも、その負担があるからといって困ってる彼を放っておけない。


「置いてきてよ」

「置いてきた方が──いいと思うわ」

「置いてこい」


 ダメだった、とりつく島がない。

 3人に拒否された────



「じゃあ仮にこの子入れるとしてレベッカ、食費の計算した?」

「してないけど……」

「んー、こんな感じかしら?」


 ソニアがもってたメモにサラサラと帳面をつけ始める。

 どうやら、前に2人が所属していたバルザム隊での食費なんかを照らし合わせてて大まかに計算してくれているみたいだ。


 そして、計算してみたけれど、結構あれだった。養えない。


「お金さえなんとかなれば……貴方を置いてあげられるんだけど……」

「完全にオイラ、ペット扱いだよね!」


 だとしたらずいぶん飼育にお金のかかるペットだこと。

 しかしおあいにく様、相手は人間。


 ゴメンね飼えないのだけでは、どこへも行ってくれないだろう。


「んー……」



 そもそもそんなに簡単にお金が稼げたら、誰も苦労しないって────


「お金、お金……」

「なんか段々レベッカ、お金稼ぐためにお金稼ぐことを考えてるね」

「うっ……」


 確かにそうだ。そもそも私たちはお金を稼ぐために軍に所属している。

 その中でお金を稼ぐことを考え出したら、本末転倒かも。


「そういえば、ライルの能力鬼アビリティヴァンプはどうなったの?

 レベッカはこないだ完全体に会ったんでしょ?」

「んー、それが……」


 この間あの能力鬼アビリティヴァンプがどうして出てきてくれたのか、それが未だに分からなかった。

 ライル君本人に聞いても「うーん、覚えてないや」と言うだけだし、正直アテにならない。


 なにか条件があったのかもしれないけれど、あんな極限状態の中のことをまた再現するなんて出来ないし、真相は闇の中だ。


「ううん、いいんだ。みんなに迷惑かけるなら、オイラはこのまま……」

「わー、待って! 待って!」


 こんな状態でお別れして餓死でもされたら、それこそ寝覚めが悪い。

 一応こないだのことでこの隊の被害者兼恩人な訳だし、出来るだけ力になりたかった。


「ロイドぉ、リーダー困ってるみたいだよ。なんか手はない?」

「あーん────ある。いや、ない」

「あるの!?」


 ずっと黙って聞いていたロイドが、言いにくそうに口ごもる。

 隠し事が下手な人だ、絶対なんかある。


「ロイド、教えてよ!」

「えっと──ソニアからもお願い……」

「やだよ、ないつってんだろ」


 頑なだった、もう一回くらい私がボコボコにされたら教えてくれないかな。


「リーダーが聞いてるんだよ、答えなよ。

 なにか考え、あるんでしょ?」

「……………………」


 しばらく黙った後、ロイドは面倒くさそうに舌打ちした。

 やっぱり、大好きなソニアには甘い。


「『パトロン』を使えばいい」

「パトロン? なぁにそれ?」

「あ、あー、『パトロン』……その手があったわね、でも────」


 物憂げな顔で反応したのは、ソニアだった。

 パトロンと言うものについてなにか知っているらしい。


「ソニア、教えて?」

「軍の資金援助制度のひとつよ。軍では、費用や物資が足りない時、個人や隊で一般市民や貴族様から援助を受けることが許されているの」

「えーっと、つまり……」


 えーっと、えーっと、だからその、言い方は悪いけど────


「察しが悪いな、ようは適当な金持ちの娯楽に自分らを売り込んで、金をふんだくるんだよ」

「言い方っ!」


 うわぁ、表現はとても悪いのに、今ので良く分かってしまった。

 つまり私たちの活動にお金を出してもいいというお金持ちに援助してもらって、ライル君の食事を賄うんだ。


「オイラ全然分かんないや、そのパトロンて人たちがオイラの食べ物くれるの?」

「うーん、そうなんだけど……」


 話はそう簡単じゃないはずだ。

 お金が動くのなら、必ずそこには代償が発生するはず。


「貴族様たちにお金の出資を認めさせるって大変なことなんじゃ……」

「大変よ、すごく大変なはず。

 そもそも難易度高すぎて考えてさえいなかった────」


 ソニアが苦い顔をした理由が分かった、「パトロン」なんて私たちに付いてくれる貴族なんか、いるわけないんだ。


「あ、いやでも、ライルも入れて5人。

 僕たちには揃ってるんだよね」

「え?」

「要素だよ、娯楽のための要素。少なくともこんなに見てて面白い隊はないよ」

「え? あっ……」


 確かに、私はともかく、ここにいるメンバーはかなりそうそうたるメンバーだ。



 繁華街の元凄腕マッサージ師、イスカ・トアニ。


 軍放送のアイドル、プロマでお馴染みのソニア・リクレガシー。


 【暴食】異名を持つ能力鬼アビリティヴァンプの使い手、ライル・レンスト。


 そして、若くして幹部候補とも唱われる【百万戦姫】のロイド・ギャレット。


 強い上に、全員が「固有能力」を持つ────



「かく言うレベッカも結構面白いよ、リーダーだしね」

「え、私が……?」


 それをイスカに言われるのは少し釈然としないんだけれど────


「レベッカ、君は自覚してないかもしれないけれど、こんなに濃いメンバーを集められるのは才能だよ」

「えっ、このメンバー選んだのエリーさんだよ!?」

「あいつだってオレを選んだ辺り全員入隊させるとは思ってなかっただろ。

 しかもおまけで誰かさんまでついて来るらしいしな?」


 途中から話に付いてくるのが面倒になったのかボーッとしてるライル君、自分が言われたとは夢にも思ってないらしい。


「────え、イスカ。なんでこのアイドルさんはお前の後ろに隠れてる?」

「ロイド、乙女の秘密。これはそっとしておいてあげて」

「ごめんねソニア! ホントにごめんね!!」


 まだこの子の前でエリーさんの名前が禁句なの忘れてた────


「と、とりあえずイケる──のかな?」

「少なくとも、他の連中よりは交渉が成功する確率が高い。だがまだ足りねぇ」


 ロイドは指折り数えてから最後の一本、残った小指を立てながら言う。



「あとは絶対的な『実績』がいる。

 金持ちがこの隊見てて、おもしれぇと思える『実績』だ」

「ふぅん? そう言うことか────」


 イスカは、何かを理解したように少し呆れたよえな、面白そうな顔をする。


「相変わらずの戦闘狂だねぇロイド」

「え? え、ロイドさんつまり──どういうことよ?」


 ソニアには見えていないようだけれど、私はなんとなく分かった。

 この隊にパトロンがつくためには、私たちが有名になって、なおかつ宣伝も出来る環境が必要だ。


 そのための、一番手っ取り早い方法は────



「いくぜ、オレたち5人、全員参加で『ルーキーバトル・オブ・エクレア』。

 今度の大会で、オレたちの名前をこの国に轟かせるぞ」




Continue to the next story──◼️◼️◼️◼️◼️レベッカ・アフターグロウ


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