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ハードシップ(第4段階)  暴食娘と天衣娘Ⅳ/頼れる彼の元へ


「正直あまりその──彼は軍人さんに向いてなかったっていうか……」

「つまり役に立たなかったんだよね。事務仕事もすぐお腹が空いちゃってバタンキューだし」

「ちょっと、人が言葉濁したのに……!!」

「ん?」


 確かに彼と会話してて事務仕事とか難しそうなのはなんとなく分かった。

 あれ、でも他の隊からヘッドハンティングされるほどの逸材なのに、なんでそれを生かせなかったんだろう。


「うん、ライルの持っている固有能力がね?

 その能力鬼アビリティヴァンプを完全に使いこなせなくて、中々うまくいかなかったみたいなの……」

「それに【暴食】、何て言われるほど大食いだしね。

 難しい条件をクリアして、彼をお腹いっぱいにして、ようやく彼は周りから期待されるレベルになるのさ。

 でもそれって、戦闘じゃまず難しいだろ?」

「うん……」


 難しい条件というのがどんなものかは知らないけれど、とりあえず戦っている最中でお腹いっぱいになることはない。

 物資も時間も限られている中で、栄養を付けたり娯楽のひとつでもある野戦糧食レーションはとても重要だ。

 だから昨日まで参加していた物資運搬の任務だって、きっちり支給されて食べられる量がきまっていた。


 そんなものをライル君一人に食べさせてやることが出来ないのは当たり前のことだ。


「可愛そうなジレンマってやつだね。

 隊費からあの子の食費出してた時期もあったみたいだけど、それにだって限界があるから、結局は長続きせずに、彼はいろんな隊を転々としてたんだ。

 ララ隊長も、そんなことになるのを見越していたのか、ライルが隊に入るのを反対していたらしいけれど、結局そういうことになっちゃったわけだ」

「そんな……」


 引っ張りだこになった挙げ句、使えないと分かったらポイ───

 まるで彼を道具としか思ってないみたいじゃないか。


「それは違うよ、仲間に実力以上の期待を向けてしまうことは、ある意味闘いでは死の第一歩目だからね、お互いに」

「うん────どこの隊だって、彼を危険にさらしたくはなかったはずよ……」


 背中を預けられない仲間は、戦場に連れていけない──ってことか。

 なんだかその通りすぎてぐうの音もでないし、もちろん私が他の隊の何を知っているわけでもないのだけれど、嫌なことを聞いてしまった後味の悪さだけが残ってしまった。


「で、前の事があって、ソニア達あの子に顔合わせずらかったの。だから直前で隠れちゃって……」

「まぁ、それでもライルがピンチになって、ソニアは飛び出していこうとしたけどね。

 僕が危ないから止めたんだ、相手は正体も実力も分からない上に人質がいてソニアを狙ってるのにイケイケドンドンはさすがに無謀でしょ。ほっといてごめんね?」

「ううん、イスカは正しいと思う……」


 あの場所では、自分達も危険にさらされてしまう以上、2人ともそうするしかなかったのだ。

 少なくともソニアは私たちを助けようとしてくれていたし、イスカは状況を見て一番安全な方法をとった。

 それだけ聞いておいて、なにもしなかっただなんて思えるはずがない。


「でも、2人とも、今からライル君を助けに行くの────協力してくれるんだよね……?」

「もちろん、僕らが助けるのにはかわりないよ、彼のことは嫌いじゃないから。

 足りない子だけど、客観的に見ても死んでいい子じゃない」

「うん、悪い子じゃないの。そもそも誘拐されたのソニアのせいだし……」


 全然性格もバラバラで、隊も違うけれど私たちの意見は一致していた。

 よし、きまった。捕まったライル君は、絶対に取り戻す────!



「で、着いたね、ここだ」

「うわ、ビックリした急に止まらないで……!」


 そして、しばらく歩いたイスカはとあるアパートの前で止まった。

 でも、ここって────


「あれ、ここってあの人の家じゃない? なんでここに……」


 確かここは、エリーさんがくれたメモ書きにあった場所だ。

 イスカとソニアを紹介してくれたとき、もう一人彼女は私に仲間を探している軍人さんを紹介してくれたんだけれど────


「あ、確か協力してもらうって────」

「僕思ったんだよね、『ソニアを渡せ、そうすれば人質は解放する』、そんな約束、相手は守るわけないよね」

「うん、だからイスカにも手伝ってほしいと思ったんだけど……」


 さっき私たちを襲った彼ら、見た目や口調からして、少なくとも約束を守るタイプじゃない。

 ぜっっったいにあり得ないことだけれど、大人しくソニアを渡したとして、そのまま他に情報を漏らされるかもしれない以上、私とライル君を生かしておく道理もないんだから。


「うん、僕もソニアは簡単に渡さないよ。

 でも、今から軍の本部やらなんやらに相談しても対応してくれる人員を集めるまでに時間がかかって朝になっちゃう。

 だからといって、今の夜の時間協力仰げる人って僕らの人脈じゃ、限られてるじゃん」

「う、うーん」


 そうだなぁ、協力してくれそうなリーエルさんやフェリシアさんのお家は知らないし、確かに少なくとも私に頼れる知り合いはいなかった。

 思い付くなら────エリーさんとか?


「ちなみにエリーは半月くらい前から連絡とれないんだよね」

「エリーさんどうしたの!?」

「さぁ? 任務じゃない?」


 まぁ、軍では秘密の任務とかでよくあることなんだけどそれはちょっと心配だった。

 イスカがあまり心配してないみたいだから大丈夫なんだろうけれど────


「あ、ごめんソニアちゃん……」

「ええええ、エリーさんエリーさん……」


 あと、ソニアちゃんはエリーさんの名前を聞いて、震えて会話に参加できそうになかった。

 これじゃしばらく復活は無理か────



「なんかすごく不安なんだけど、協力してくれるのかな……?」

「してくれないよ、すんなりとは。厄介な男なんだよ」

「えぇ……」


 なんだかとても不安になるようなことを聞いてしまった。

 大丈夫かなぁ────


「でも、厄介だけれど、間違いなく頼りになる。

 リーダー、なんとしてでもこの男を取り入れなきゃ、最悪ライルが死ぬ。気合いいれるよ」

「はっ────うっ……分かった! すみませーんっ!!」



 気合いをいれて扉を叩くと、不機嫌そうな顔で部屋の住人が顔を出した。


「なんだぁ──って、イスカ!?」

「や、ロイド、久しぶりだね……」


 家の主はロイド・ギャレット。

 入隊5年にも関わらず次期幹部候補と噂される実力者にして、【百万戦姫】の異名を持つこの国きっての戦士だ────


 確かに彼が協力してくれれば、こんなに頼もしいことはない。


「とりあえず紹介するね、この男はロイド。僕とエリーの同期だよ」

「そ、そうだったんだ! 初めまして……!」

「初めまして。おいイスカ、マズはオレにその子のこと紹介しろよ」

「おぉ、ごめん。僕が新しく入ったリーエル隊の仲間の、レベッカと──向こうにいるのがソニア」


 イスカが「ソニアはちょっと離れてみててよ。いいからいいからぁ~」と扉を開ける前に離してしまった。

 初対面の人なのにいなくなったら心細い──と思ったけど、よく考えたらエリーさん苦手症候群を連発される方がマズかった。


 ありがとうイスカ────


「ソニアのことは何となく知ってるかな?」

「なんとなくはな────」

「あ、僕のお店燃えたから軍に復帰することにしたの言ったっけ?」

「────ぅぅっっ……いや初耳だ」


 一瞬さらっと発表された衝撃的な話題に、ロイドさんな声は一瞬どもったけれど、「へぇ」とだけ言うと、すぐに元の調子に戻った。


 そして、こちらを値踏みするように下から上まで見渡す。

 なんか恥ずかしい────


「で、こんな夜になんでここに? まさかその報告、じゃないよな」

「実はピンチになっちゃったんだ、助けてほしくって」

「ピンチ?」


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