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帰りたい(210回目)  クレアの修2/テオ・ボイエット


「俺様はこのエリアル研究所エクレアラボ副所長、テオ・ボイエット。

 固有能力は【スイート・ジーニアス】、6歳独身彼氏なし、今後ともよろしくお願いしますな、オ客様ガキんちょ?」


 いや、ガキんちょはお前だろ。


 テオは面倒くさそうに頭をポリポリ掻きながら、さっきとは打ってかわって、早口で答えた。

 ずっと声だけ変わってないから、なんだか不思議な感じだ。


「【スイート・ジーニアス】?」

「あぁ、そーいう俺様の固有能力だ。

 甘味を食べれば一定時間頭脳が跳ね上がって『6歳児』が人知を凌駕する『天才児』になるわけよ。

 ちなみに、食べたもののエネルギーじゃなく、満足度で時間が変わるっつー謎原理だから、そこんとこよろしくな?」

「は、はぁ……」


 急に変わったテオの態度と口調にポカンとしてしまったけれど、突然変化の原理は分かった。

 つまりアタシのあげた飴玉を舐めたのが、テオの固有能力発動のきっかけだったわけだ。


「ったく、甘味をとらなければ邪魔でしかないが、甘味をとったら好戦的になってたまらん」

「あん? んだとジジイ!! その辺のもん全部兵器に改造してやりろうか!?」

「やめろ!! お前先週ワシが開発した床頭台しょうとうだいにガトリング内蔵させて、中央病院に売り付けたな!?

 院長のララから滅茶苦茶文句が来たぞ!」


 あのララさんから文句が来るなんて相当だ。

 ガトリング内蔵の床頭台、果たしてそんなものが存在してなんの役に立つんだろうか────


「うっせーなクソジジイ!

 今の世の中、武器考えて作り方適当に小出しにすりゃそれだけで金になるつーのが分からねぇのか!?」

「今の世の中、武器作らんでも回るんだからそれに越したことはないじゃろ!

 町民どもが毎日アホのようにみてるプロマみたいな日用品が、今は主流なんじゃ!」


 アホのように、は流石にいいすぎな気がするけれど、確かにプロマはここ数年で開発されて、瞬く間にこの街で発展した。

 「家庭に一台、映像のある未来を────!」なんてベタな謳い文句で宣伝をしてるのを見るに、相当この町では売れてるんだろう。


 アタシの家にはないけど。


「つーことで穏健派チキンことこのジジイとイカした武器を作りてぇ俺様で意見が分かれて、今俺様は兵器の開発に御執心てわけなんだわ」

「お、おう……そうなのか……」


 なんだ、さっきのジジイとの流れが全部説明のためだったのか。まどろっこしいな。


「てか、プロマってそこのじーさんが作ったのか? すげぇなあんた」

「いやー、ちがうちがう。このジジイは作ってねーよ。

 あのな? この研究所にはエリアルっつー南の島に本部があって、プロマはそこにいるジジイの後輩たちがな?」

「エリアル? エリアルって────」

「おら! お前たち!!」


 隅でヒソヒソやっていると、最初から最後まで話を聞いてたじーさんが突然キレてきた。


「研究のじゃまだ出てけ!!」

「げ、やべ! 研究の邪魔だってキレた時は本気で怒ってるぞあのジジイ! オメー様ちょっと付いてこい!」

「うにゃ!?」


 6歳児の全力に引っ張られて、アタシはその場から立ち去った。



   ※   ※   ※   ※   ※



「おおおい、どこ行くんだよ!? 〈ツヨクナリタイセンシサマ、ダイボシュー〉ってのはどうなったんだ!?」

「あー、あれはオメー様みたいな実験サンプルを非効率よく集めるための体のいい謳い文句ってやつだ。気にすんな」

「なるほどなぁ──って、オイ!」


 衝撃的発言に、アタシは慌ててテオの腕を振りほどく。

 あんなに強く引っ張っていたのに、6歳児だから案外簡単に振りほどけたので、少しビックリした。


「あー、ん? なんだよ??」

「なんだよはアタシだよ!!? 実験サンプルってアタシになにする気だ!!」

「ん、あー、言い方悪かったか?

 具体的に言うと『言葉に嘘はないから気にするな』だな。

 バカに分かりやすく言えなくて悪い悪い」


 いや、どう考えても今のは言い方が悪い。

 しかも、その説明では肝心の実験サンプルってやつの回答にはかけらもなっていない。


「実験て、なにする気だよ!」

「もちろん、兵器の試用実験だぜ。ワクワクすんなぁ……」


 そう言うテオに連れてこられたのは、研究所の裏にある小さな空き地だった。

 周りを家やビルなんかの建物に囲まれていて、昼間なのにかなり光が制限されている。


「じゃあまず何から始めっかなぁ」


 そういいながらテオは、空き地の片隅にひっそりと置かれた物置をゴソゴソと漁り出した。


「うっし、じゃあオメー様。まずアンタにはこれから──これ、からぁ……」

「お、おいどうしたんだよ……」

「あまいもん……」


 尻すぼみになったテオの声は、そのままさっきであったばかりの幼女声に戻っていた。


「あーまーいーもーん!! おねーちゃんあまいもんちょーだい!!」

「げ、戻ってる!!?」


 どうやら飴玉ひとつではこの程度の時間が限界だったらしい。

 ということはまた、何かしら甘いものを口に放り込まなければ、テオはこのままちびっ子テオのままなのか。


「め、めんどくせぇ……」


 このまま置いて帰るのも癪だしなぁ────


 アタシはまたポケットから飴を取り出して袋を開封した。

 ちくしょう、たまたまセルマにもらったのがあっただけで普段から飴なんて持ち歩いてるわけがない。

 これが最後だ、買いにいかないとないぞ。


「ほら、口開けろ。仕方ねぇな、いれてやんよ、あーんてして」

「あーん」

「よしよーし……ん? おいテオ、お前なに持ってる?」

「こーれー?」


 テオが手に持っていたのは、先程倉庫からゴソゴソやって出した黒い武器だった。

 よく見ればそれは軍でよく使用される爆弾で、しかも既にピンが────


「さぁ?」

「バカヤローーーっ!」


 慌てて奪い取って上空に投げた瞬間、派手な爆発音が街に響いた。



   ※   ※   ※   ※   ※



「ヒッヒヒッ、強力だったろ俺様のイカした武器は」

「あぁ、おかげで生きた心地がしねぇよ爆弾魔」


 炸裂寸前の爆弾は、なんとかアタシの腕力のおかげで被害は出ずにすみ、尊い命は守られた。

 地面に大の字で倒れて肩で息をする、まだ心臓がバクバク言う音が止まらない。


 しかしせっかく守ったその尊い命は、効いてきた飴のおかげで、アタシをニヤニヤしながらからかっている。

 ちびっ子テオから、性悪テオに大変身てか?


「つーかあの爆弾、ただの爆弾じゃねぇか。

 だったら軍で支給されるから必要ねぇよ」

「あん? 大分作動時間が長かっただろ?

 オメー様気付かなかったのか?」


 確かに心なしか起爆までの時間が長かった気がする。


「正確には、2秒長い、だぜ。普通の爆弾と混ぜてぶつけりゃ、フェイントになるだろ?」

「いやぁ、アタシそう言う武器使わねぇし。

 心理戦も得意じゃねぇし────」

「あん? 時間短けぇ方がよかったか?」


 それはやめろ、今ごろ2人で仲良く木っ端微塵の無理心中だ。

 アタシゃまだ死にたくない。


「ま、つーわけでこんなアブねーこと一般の善良な市民にはやらせられねぇから、あんな回りくどい方法でオメー様みたいなバカ集めるしかなかったわけよ」

「忘れんなよ? アタシも一般市民だからな? 忘れんなよ??」

「あん? 軍人様だろ?」


 軍人だって一般市民だろ。少なくともアタシはそのつもりだ。


「まぁ、所詮どっかのゴロツキが釣れるかと思って期待はしてなかったけどな?

 前のオ客様モルモットより面白いオ客様モルモット2号が引っ掛かって、俺様は満足さ」

「テオ、お前オ客様って言えばなんでも許されると思うなよ」


 どうやらこのガキは、アタシをとことん弄ぶつもりらしい。

 あと、前任のオ客様モルモットとやらの行く末について、どうなったか教えろ。

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