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帰りたい(204回目)  スピカの修行4/不浄の牙を抜く力


 世界に2本しかない眼鏡はもらえなかったけど、リゲル兄のくれたごーぐるもまぁまぁ使いやすかった。まぁまぁ。

 それにすないぱーとしての役目は今回の大会では、あまり必要なかったから、だんだんと選ぶ武器も決まってきた。


 あとは使いやすい武器を選んで、10個にするだけ。


「よっ、いい感じみたいじゃあないか?」

「あ、カペラ兄……」


 ごーぐるについてリゲル兄が色々教えてくれた日からまた一週間くらい経って、街の別荘のお庭で訓練してるところにカペラ兄が来てくれた。

 最近はなんだか王国騎士の仕事が忙しいみたいでスピカの練習に付き合ってくれてなかったから、久しぶりに顔を見た気がする。


「あ、カペラ兄さん。アダラ姉はどうしたの?」

「どうもこうも、会議あれ以来見かけてないなぁ。

 レスター隊長に連れ去られてから、行方不明の音信不通さ。

 一体どこでひどい目に遭ってるんだか……」

「ぞっと、するね……」


 なんか「暫く地獄の特訓でもして頭を冷やせ!」とか言われて新人の訓練につれてかれたんだっけ。

 そういえばエリーさんも音信不通だって聞いたけど、あの人もどこ行っちゃったんだろ────


「ところでどうリゲル、直前の休みも考えるとして残り半月──もないんだっけか。実際どうなの、スピカの進み具合は」

「うん、まぁまぁ、かな」


 ここまでやってその評価かぁ。なんかやになるなぁ────


「リゲル、お前人に教えるのは上手いかもしれないけれど、もっとメンタル面にも気を使ってやれよ。やれば出来るんだから……」

「メンタル? どう言うこと?」

「スピカの長所も誉めてやれってこと」

「はぁ……」


 なんかぴん・・ときてないリゲル兄。

 知ってたよ、リゲル兄はそういう人だって。知ってた────


「うーん、でも誉めるところか。この一週間でまぁまぁ武器の使い方は上手くなったんじゃない?」

「そこも、まぁまぁ……?」

「この『まぁまぁ』は、上出来の『まぁまぁ』だよ。

 流石に武器を揃えてるだけあって、使いこなす方は申し分なさそうだよ」

「そ、そうなんだ……」


 リゲル兄からの修行が始まってから、初めてぷらす・・・なことを言われた気がする。

 このお兄ちゃん、教えるのは厳しいけど、だめなとこを指摘してはい直しましょう、ここがだめですはい練習しましょうの繰り返し。

 しょうじき、ずっとそんな感じで疲れちゃってた。


「ふぅん、そう。スピカちゃんは僕の指導がそんなに不満なんだ。へぇ」

「おいリゲル? 妹が怯えてるよ??

 でも意外だなぁ。君の師匠たち──リーエルさんはともかく、アデクさんはそういう誉めるのとか苦手そうなのに」

「ううん、アデク隊長も、教えるのは、おんなじだけど……」


 アデク隊長やリーエル教官と訓練するときは、みんなが周りにいた。

 だから、なにかができたりよかったりすると、みんなが誉めてくれることが多かった。

 スピカは基本的にぷらす思考じゃないけど、周りのみんなのおかげでなんとか訓練をやれてる気がする。


「ふーん。そ。どーせ僕は下手くそですよ下手くそですよ下手くそですよぉ」

「だからリゲルさぁ……」

「それよりカペラ兄さん、そろそろあれ・・を、スピカに教えてもいい頃だと僕は思うんだ」

「え? あ、そうか。思ったよりすすんでたんだね」


 にい2人が、何だか意味深な会話をする。


あれ・・、って??」

「まぁ、ついてきな」



   ※   ※   ※   ※   ※



 連れていかれたのは、街の郊外。

 エクレアの北東に位置するそこは、何にもない荒野が広がる、忘れ荒野だった。


「こんなところに、何があるの……?」

「あるのはオレたちだよ」


 そう言うと、カペラ兄は身体をぶらぶらとぶらつかせる。


「え、なに……? 挙動不審者おにいちゃん……?」

「カペラ兄さんなりの準備体操だよ。

 スピカ、兄さんをよく見ておきな」

「んん……?」


 カペラ兄が準備体操を終わらせると、その辺の岩に向かって魔法を放った。

 風の魔法が斬撃になって空気を裂く。


「やっ!!」

「おぉ……」


 放った魔法は岩を真っ二つに割った。流石の威力。


「これを、見せたかったの……?」

「はぁ、はぁ…………いや、今のはわざとやった悪い例だ、本番はこっから」


 悪い例?カペラ兄はさらに深呼吸をすると、さっきよりも力強く構えた。


「“王宮式封殺拳ロイヤルフィスト”っ!」


 カペラ兄が拳をつき出すと、さっきとは比べ物にならない、巨大な旋風のような暴風が、周りを巻き上げる。

 体が飛ばされそうになってびっくりしたら、リゲル兄が支えてくれた。


 それでようやく風が収まって、周りが見えるようになったらそこは────


「な、なにあれ……!!」


 ごーぐるで確認したら、手前の地面が抉れていて、さらにその先。

 かなり向こうに見える崖の半ばくらいまで、とっても大きな刃物で切り裂いたような大きな跡を作っていた。


「す、すごい……」

「つ、か、れ、た、少しやすませておくれ……」

「ごゆっくり」


 全力の力を使いきったカペラ兄は、よたよた少し向こうの岩のところに歩いていって、そのまま動かなくなってしまった。すんごい疲れたみたい。


「カペラ兄さん、スピカにいいとこ見せたいからって無茶したな?

 で、スピカ自身、さっきの見てどう思った?」

「すごかった」

「でもあれ使ってる魔力は、最初のやつとあんま変わらないんだよ」

「そ、そうなの……??」


 魔力ってのはえねるぎーだから、力が強ければ強いほど作れるぱわーも大きい──って前にリーエルさんが言ってたのに────


「でも、それならスピカが土の魔力を沢山出しても、地面を少しへこませるだけだったのって、ちょっとおかしいと思わない?」

「確かに……」

「うん、属性魔法の威力が上がらない原因のひとつに、自分の出したい魔力だけを放出できていないってのがあるんだ。

 スピカの場合、土魔法の中にもうひとつの得意属性の風魔法が混ざっちゃって、上手く効果が発揮されてなかったんだろう。

 その逆もしかり、それがこないだからスピカが中々伸び悩んでる原因だよ」

「あ、そうなんだ……」


 まだ魔力のこんとろーるがうまく行ってなかったんだ、って思う。

 でもそれなら、綺麗に出せる方法をスピカは知りたい。


「それで、あれって、どう違うの?」

「2回目のやつでカペラ兄さんは、『聖なる力』とか『不浄の牙を抜く力』と呼ばれる、特別な魔力を使ったんだ。


 あまり知る人は少ないけれど、正式名称は【アド・アストラ】って言うらしい。へんなの。


「結局、汚いものを弱くする力だよ、ってこと……?」

「うん、まぁ不浄ってのはものの例えで、例えば自分の中の余分な魔力なんかも純粋に引っ張り出してくれるから、単純な威力の底上げが可能なんだ」


 だから、カペラ兄はさっき、すごい力で風を出せたんだ────


「上級になると他の使い方もできるけれど、まずはカペラ兄さんみたいな使い方から始めてみようか」

「スピカにも、出来る……?」

「多分ね。だって、これは王家に伝わる秘密の方法だからね。

 『こんの力はいざと言うときに』と言って、滅多に使わないのはハダル兄さんだね。

 逆に、父さんやアダラ姉さん、カペラ兄さんはこの道のスペシャリストさ」


 今ままで兄や姉たちの訓練する姿や戦うところはあまり見たことなかったけど、これってみんな、得意な力なんだ。

 そういえば双子の2人と戦ったクレアさんとセルマさんは、揃って2人を「強力な属性魔法の使い手だった」って言ってた。


「ちなみに僕は身体によく使う。他はてんでからっきしでね」

「スピカも、出来るかな……」

「ちょっとコツがいるんだよね。あと、そして、何より────」


 リゲル兄が、少し黙って咳払いをした。


「そして何より、この【アド・アストラ】はレグルス兄さんが一番得意としていた力だ。

 使いこなせれば、父さんに認めてもらうには、充分な要素のはずだよ」


 リゲル兄が、レグルス兄さんの名前を呼ぶのを、スピカは初めて見たかもしれない。

 うちの家族はみんな、何でかは分からないけど8年前にスピカを守って死んでしまったというレグルス兄のことを、口に出さないって言う「あんもくのりょうかい」みたいなものがあった。


 レグルス兄、スピカの目標、今の軍に入った理由。

 お前はこの国を護る立派な姫君になるのだぞ──レグルス兄の最期の言葉、そして────


「スピカ……?」

「何でもない、スピカ頑張る、よ……」


 残り2週間。この日からスピカは、大会に向けて本格的に魔法の練習に励んだ。

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