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帰りたい(202回目)  スピカの修行2/じんかくひてい


 結局、謎の脱線に次ぐ脱線で、ようやく『スピカをこの一ヶ月で強くする方法』の会議が再開した。


「じゃあまず、アイディアのある人はいますか?」

「はい! はいはいはいはいはい!」

「他に意見のある人は……」

「はいはい!」

「────アダラ姉さん……」


 さっきからやりたい放題のアダラ姉に、少しカペラ兄は不安そうな顔をする。


「いいこと思い付きました、たくさん武器を持って、どんな状況にも対応できるようにするんです!

 そしていざとなったら物量で圧倒するんです!」

「あ、それなら出来るかも……」


 スピカの固有能力【コマ・ベレニケス】、それなら武器が沢山でも使えるはず。

 いっぺんに動かすのは難しいけれど、きっと練習でなんとかなるはず。


「じゃあもっと、武器を……! じゃんじゃん買って、じゃんじゃん強くならないと……!」

「そうですよ! それなら強くなれます! 意外と簡単な会議でしたね!」

「いやいやいやいや、いいわけないでしょ!

 スピカもアダラ姉さんも、めんどくさいからってズルしないでって!」

「「えぇ……」」


 せっかくうまくいってたのに、カペラ兄が止めてきた。くーきよめないなー。


「なぁスピカよ、そもそも体重制限忘れてないか?」

「え、たいじゅーせいげん?」


 ぷくーっとアダラ兄に膨れていたら、ハダル兄が横から声をかけてきた。


「たいじゅーせいげんて? スピカそんな太ってないよ?」

「大会を通して使用可能な武器は、10個まで、もしくは体重と同等の重さまでだ。

 だからそれを越えた武器は持てないぞ」

「なんでそんなこと……」

「例えば、『武器をたくさん持てばさいきょーじゃん! ふへへ!』って輩がいるからな」


 あ、それスピカのことだ。ハダル兄のいじわる。


「スピカ今持ってる武器は?」

「ぷろぺらと、魔力直結ばずーかと、銃15丁……かな?」

「プロペラは2つ扱いになるから、18だな。

 10個に絞らないと、参加さえできなくなる」


 スピカの大切なこれくしょんから8つも削らなきゃいけない、それはスピカにとって、結構大変なことだった。

 どれも必要なときに使えるように用意しているから、どれかを選ぶのはとても難しい。


「なんだ、そんなルールだったのですか!?

 スピカ、将来がかかっているのでしょう!?

 参加するならしっかりルールは把握しておくべきですよ!!」

「あ、はい……」

「いや、アダラ姉さんだって以前参加してるだろ?

 忘れてるのはアダラ姉さんも同じだよ!?」

「はっ……!」


 むかし王国騎士として参加したことのあるアダラ姉も、すっかり忘れてたみたいだ。

 自分だって忘れてたのにスピカに文句言えないじゃん、ぶーぶー。


「まぁ、そういうことだから武器を増やすのは今度の機会でいいんじゃないかな?

 それより、僕は今持っているものをより使いこなす事を優先するべきだと思うんだ」


 落ち込んでるスピカをみて、手をあげたのはリゲル兄だった。

 なんだか、スピカに対して物申したいみたいだ。


「使いこなす?」

「うん、何て言うかスピカの攻撃は全体的に、大雑把なんだよ」

「おおざっぱ?」

「遠距離射撃の性格さと早打ちならともかく、中距離や遠距離だと、技が洗練されてないの」


 その言葉に渋い顔をしたのはデネブ兄だった。


「なぁ、黙って聞いていたが分からん。

 スピカの戦闘スタイルとはどんな感じなんだ?

「うん、敵が遠くにいたら撃つ、近くに来たら距離をとって撃つ。時々火力を上げて、やっぱり撃つ。

 敵が近づいてくるのが怖いらしいんだよ」

「んん……」


 そう言われると、なんだかそれだけな気がしてきた。

 なんか「じんかくひてい」されてるみたいで、やだなぁ────


「人格否定じゃなくて、弱点の指摘、だよ。オレもリゲルの言うことは正しいと思う」

「カペラもですか!? 確かに、この間の戦いでもそこをリゲルに狙われていましたね!」


 スピカは気づいてなかったけど、スピカの戦いをみていた兄や姉はみんな気づいてたみたいだ。


「まぁ、狙撃能力さえあれば本当の任務では仲間が近くにいるんだろうしいいんだけどね。

 試験やなんかではそうもいかないよ」

「リゲル兄の時みたいな……?」

「そうそう」

「でも、リゲルそれならどうするんだ?

 体術も今まであまりやらなかったなら、接近戦は期待できないだろう」

「うん、【コマ・ベレニケス髪を操る能力】で殴るのは、本人が乗り気じゃないみたいだからね。

 だからここはいっそ、属性魔法を使ってみたらどうかな、と思うんだ」

「────ほう……」


 属性魔法って言うのは、杖を使わない属性を使った魔法の事。

 エリーさんが使う、氷や風を出すやつなんかがそうだ。


「うん、普段君は銃が杖の代わりになっているから、属性をコントロールしなくても魔力が使えるからいいんだよ。

 でも接近してきた相手の攻撃を避けたり距離とるだけじゃ心もとないだろ?」

「うん……」


 そもそも手や足を使って叩いたり蹴ったりするのを前提としてないのが、少し悲しかったけれど、それにはスピカも頷いた。

 近くで戦うのは百足やろーの時もそうだったけど、やっぱり怖い。


「だ、か、ら、属性魔法を使って距離をとったり攻撃したり。

 銃が使ってるなら基本的なことは出来るはずだし、多少なりとも使えればそれだけで牽制になるからね。

 ところで、スピカの得意な属性って、何だったかな?」

「えっと──『土、風』だったと思う……」


 前にリーエル教官が教えてくれた気がする。

 うろ覚えだけれど、「アナータは土と風! 機会があったら属性魔法も教えるデース!」といってた気がする。

 結局教えてくれなかったけど。


「うろ覚えじゃ困るなぁ」

「じゃあこれを使うといいですよ!」

「なぁに……?」


 アダラ姉は、どこからか持ってきたからふるな筒を取り出してスピカに渡した。

 受けとると、ぴかぴかと光だして少し眩しかった。


「アダラ、なんだそれは?」

「魔道花火です!」

「え……」


 それを聞いてスピカがその筒を離す前に渡された筒から、眩しい閃光が飛び出して部屋いっぱいに広がった。


「ぎゃー!」

「バカアダラ! なにするんだ!!」

「ひぃっ! ごめんなさい!!」



   ※   ※   ※   ※   ※



「バカかアダラ・カルダー!! よりにもよって姫のお前が城で暴れて城が壊れでもしたら、この国はとんだ恥さらしだぞ!!」

「ごご、ごめんなさい……」


 その後騒ぎは、駆けつけてくれたレスターさんが周りを治めてくれたので事なきを得た。

 レスターさんは王国騎士の3番隊隊長さんで、アダラ姉やカペラ兄の隊長さんだから、普段ほかの兄弟に使うような敬語を使わない。


 怒られたアダラ姉は、いつもとちがってシュンとしていた。


「ご、ごめんなさいレスターさん……」

「いや、スピカさんやほかのご兄弟はいいのです。しかし……」


 そう言いながらレスターさんはアダラ姉の頭をがしっと片手でつかんだ。


「こいつをどうしたものか……」

「やめっ! いたっ! 痛いですレスター! じゃなかったレスター隊長!! やめて────いたっ! いったあぁぁぁっ!」

「国王様からもお前とカペラの事は任せると仰せつかっている!

 カペラはともかく、全くお前は子供のときと何にも変わらんようだな!」

「ひぎぃっ!」


 そのままずるずるとアダラ姉を引きずって、レスターさんは行ってしまった。


「これはイチから鍛え直す必要がありそうだな丁度おあつらえ向きの貴様とは別の意味で根性のある新人がいるそいつと暫く地獄の特訓でもして頭を冷やせ!」

「ひいいぃぃぃぃっ────」


 ばたん。

 アダラ姉の最後の叫びと一緒に、扉が閉まった。 


「あーあ、ありゃ半月は帰ってこれないコースだな……」


 静かになった扉に向かって、カペラ兄がしみじみと言った。


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