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帰りたい(201回目)  スピカの修行1/王家の兄弟


 決起集会から数日経ったその日、スピカの家の食卓は、珍しく集合したにいねえたちに、緊迫した空気が流れていた。


「えー、では今から第2回ベスト家兄弟会議を始めます。

 司会はこのオレ、四男のカペラが勤めさせていただくことになりました……」

「ついにこの時が来ましたね……!」


 カペラ兄の司会の声に反応して、アダラ姉が珍しく緊張した声をあげる。

 薄暗い部屋の中、他の兄姉たちも揃って真剣な表情だった。


「え、えっと、なに……??」



 つい一時間くらい前、街にある別荘のお部屋でスピカはごろごろしていた。

 そしたら────


「ちょっとスピカ、今日は家に帰るよ!」

「えっ、えぇ……?」


 突然スピカの部屋に入ってきたリゲル兄に担がれて、そのままお城の中にあるこの部屋まで、連れてこられてしまった。お姫様誘拐だ。

 普段はお食事をするところなのに、兄や姉はお皿の代わりに紙を並べて、ないふやふぉーくの代わりにぺんを持っていた。


 昼間なのにかーてんを締め切って、なぜか部屋を蝋燭で照らしているから、紙にも何が書いてあるのかよく読めない。


「ていうか兄、姉、会議ってなに? スピカも、必要なの……??」

「もちろんさ、と言うか君がいなきゃ始まらないよ」

「そうです! 今回の会議の内容は『どうやったら末っ子が父親に大会で実力を認められるような戦いが出来るか』です!」


 え、ほんとに?スピカのために────


「スピカのために、みんな暇なの?」

「暇じゃないけどね、兄さんたちも姉さんも、あの引っ込み思案なスピカが信念を貫き通すため、父さんに反発したって聞いて、応援することにしたんだよ」


 兄や姉たちは、それを聞いてうんうんと頷いている。


「でもそもそも、第2回の家族会議って……

 第1回はスピカ参加してない、よ……?」

「第1回はあれだよ、『どうやったら末っ子が父親と仲直りして実家に帰ってこれるか』」

「あー……」


 スピカがいない間に、そんなことしてたんだこの人たち。

 やっぱり暇なんじゃないの?


「その時は私は参加できなかったけどね、申し訳ない」

「なーにが『申し訳ない』ですかハダル兄さん!?

 貴方会議の時アイドルのソニアにデレデレしてたんですよね!? 放送みましたよ!」

「あ、あれはインタビュー受けてただけだろ……

 仕事だ仕事、仕事の一貫だって」


 三番目の兄、ハダル兄。

 確かにハダル兄はぷろまの撮影があって、いんたびゅーに答えていた。スピカも番組は見た。


 でも、この中であいどるのソニアちゃんを口説いてあしらわれていたから、すごく恥ずかしかった。

 とことん打ち込めるものを見つけると、ハダル兄は周りが見えなくなる。


「な、なんだよスピカその目は……?」

「なんでもない……」

「もー、前回は大激論だったんですよ!?

 デネブ兄さんでさえしろに上がってきて付き合ってくれたのに!!」

「まぁ、スピカのためだからね。そりゃそうだろ」


 当然、と言いながらデネブ兄は肩を竦めた。


「デネブ兄、ありがと……」

「いいんだよ、スピカ。なにか不安なことや大変なことがあったら、こないだのときみたいにいつでもお兄ちゃんに頼りなさい。

 あ、もしかして椅子固くないか? お兄ちゃんの膝の上座るか?」

「うぇ……遠慮しとく……」

「デネブ兄さん、思春期の妹へさすがにそれは気持ち悪いって……」


 一番上の兄、デネブ兄。

 次期国王なのに、30歳にもなって未だに結婚できないのは「山の警備と妹を愛でるのに忙しいから」とか堂々という。

 他の兄姉からは【しすこん】て言われていて、ぱぱままは【自宅警備員】て呼ばれてる。


 一応お仕事もしてるらしいけど、スピカは見たことがない。


「とりあえず、会議を始めちゃっていいかな、みなさん。

 このままじゃ日が暮れちゃう」

「そーですよ! せっかくここわたくしが準備したのに!」


 双子のアダラ姉とカペラ兄の声で、他のみんなも静まり返る。

 いや、アダラ姉が一番うるさかった気がするんだけど────


「とりあえず、スピカが父さんに認めてもらうには『ルーキーバトル・オブ・エクレア』に参加して、いい結果を残さないとならない。

 そして、そのためにはここから強くならなければ、達成は難しい。

 手元の資料に書いたけど、ここまで共通認識でいい?」


 そう言われてみたけど、手元の資料は暗くて全然見えなかった。

 かーてん締め切って蝋燭の明かりじゃ、流石に読むのは難しい。


「ねー、全然見えない、よ……」

「そうだな、そもそもなぜこの部屋はこんなに暗い?」

「ふっふーん、それは! ですね!」

「それは……ですね…………」


 片方自信満々に、もう片方は自信なく答えたのはアダラ姉とカペラ兄だった。


「それは! 暗い方が! 重要な会議っぽい雰囲気が出るからです!」

「アダラ姉さんが全く言うこと聞かなかったからです」

「よーし、全員でまずは部屋のカーテンを開けるところから始めようか!」


 ハダル兄の掛け声で、アダラ姉以外全員が部屋のかーてんを開ける。

 外の光が差し込んできて、手元の資料がとても読みやすくなった。


「やあぁぁぁ! 何てことを!!」

「そもそもコイツに場所の設定を任せたカペラが悪い。

反省しなさい」

「ごめんなさい」

「カペラもそこで普通に謝られると、私の立場ないんですけどぉ!?」


 兄姉たちとわーわーと騒ぐのはすごく久しぶりだった。

 少し楽しいかも───と思っていたけれど、リゲル兄だけは資料を黙ってみているだけだった。


「リゲル兄、どうしたの……?」

「いやー、良くできた資料だなぁ、って」

「…………」


 その声を聞いて、兄や姉たちは黙って席に戻った。

 どうやら騒ぎすぎて忘れてた会議っていう本当の目的を、全員が思い出したみたいだ。


 正直、スピカもすっかり忘れてた。


「えー、じゃあ改めまして。今回の本題は『スピカをこの一ヶ月で強くする方法』です」


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