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ターニング(八幕目)  歌うビビりっ娘Ⅱ/再燃、過去のトラウマ!


 とりあえず落ち着くのを待って、話せる体勢を作る。

 ダメだ、今ので完全にソニアちゃんに警戒されてしまった────


「うぅん……出張マッサージは……?」

「ないよ、嘘だもん」

「え、やっぱり? 残念だわ。

 で、話って何よ、話って」

「えーっと、こんな状況でいいにくいんだけど、ソニアちゃん小隊のメンバー募集してるって聞いて。

 入ってもらえないかなぁ、と」

「ホントにいいにくいことね! 状況考えなさいよ!」


 こんな状況でなければ、ここまでいいにくいことでもなかった。

 まぁ勝手に侵入してきた時点でやましいことがあるのは事実なんだけれど。


「え、あー、うん……でもそうか。うーん、確かに仲間は欲しいわ。利用するみたいで申し訳ないけど……」

「それでもいいよ、ね? リーダー?」

「もちろん」


 ソニアちゃんがいまさら仲間を募集してたのは、隊の在籍期間という奴だ。

 最近ソニアちゃんは、プロマの出演など数々の軍への貢献が認められ、特別措置としてc級への昇格が認められたのだとか。


 でも、いざ上がったはいいものの、c級の条件としては1年半、どこかの隊に在籍していた、という事実がなければならないらしい。

 たしかd級は半年が条件で、ソニアちゃんは9ヶ月間バルザム隊というところにいたから今まで良かったけれど、もう9ヶ月間どこかへの在籍が必要なのだとか。


「幽霊隊員でも全然オッケーだよ、今はとりあえず規定の人数になるようにしたいし」

「じゃあ入れてもらおうかしら……勧誘を受けてくれる人、ファンの人たちばかりで正直やりづらかったの。

 どこかには行ってしまったら公平じゃないもの」

「そういうものなんだ」

「うん、でも貴女たちのところならイスカさんもいるし、ソニアとしてもやりやすいかも」

「よかった!」


 どうやら、仲間集めは無事に規定の人数が集まった。

 癖のある人たちが多くてどうなることかと思ったけど、うまくいってよかった。


「やったじゃんレベッカ」

「うん。じゃ、エリアルさん・・・・・・に報告行かないと」

「え────?」


 その瞬間、ソニアちゃんの回りの空気が凍るのを感じた。

 え、私何かまずいこと言った?


「エリアルさんて、あのエリーさん?」

「そうだよ? ソニアちゃんを紹介してくれたんだけど……」

「えええ、エリーさんてててあのあののの、エリーさん……!!?????!!?」

「そ、そうだって……」

「へへへへぇ……エリーさんがエリさんがエリーさんがエエエっさんがぁぁあぁぁだむだかぽほ、むからわなほゃなはわやひわな────」

「ソニア、ちゃん?」


 突然、壊れたおもちゃのようにソニアちゃんが訳の分からない声をあげ始めた。

 異常事態、隣の相棒を見ると、彼女は呑気に腕を組んでソニアちゃんを見てた。


「そっかぁ、ここまでだったかぁ。相当だねぇ」

「イスカ、これは……?」

「あー、説明すると長くなるからさ。ここ逃げてからじゃダメかな?」


 外から、騒ぎを聞き付けた人が駆け寄ってくる音がする。

 ここにいたらもしかしたら、犯人にされるかも────まぁ実際犯人なんだけど。


「イスカ、なら窓から逃げよう!!」

「ここ3階だよ? 多分僕死ぬよ?」

「いいから早く!!」


 私たちは一度、プロマ放送局から脱出した。



   ※   ※   ※   ※   ※



 騒ぎになってしまったので逃げ出して、近くの公園に紛れ込んで事なきを得る。

 向こうでどうやら大騒ぎになってるみたいだけど、もしかして私たちお尋ね者になってないだろうか? 


「なってんじゃない? まぁ、ソニアの事だから適当に話納めてくれるでしょ、あの子も大事にはしたくないだろうし」

「そう──だといいんだけど……」

「だからソニアを脅して仲間にしたらこんなことにならなかったのに」

「えぇ──いずれにしてもあんな乱暴な方法はダメだよ……」


 ソニアちゃんをいきなり組伏せたのって、まともに話し合ったらこうなるからだったんだ────

 そういうことははやく言ってほしい。


 でもどうせ放送局に侵入した時点で詰みなので、問題はあのときファンのなかに混じる勇気がなかった私にもあるだろう。

 ほんのちょーーっとだけだとおもうけど。


「エリアルさん、なんでソニアちゃんをお勧めしたのよ……」

「そりゃ、エリーはソニアのファンだからね」

「え、意外! あれ、でもさっきソニアちゃんエリアルさんの名前聞いてあぁなったんじゃ?」

「うーん、そこがあの子達の関係の難しいところでね……」


 イスカは少し悩んでから、こっちに向き直って真面目な顔でいった。


「今からね、この街のアイドル、ソニア・リクレガシーの秘密を話します」

「ひ、秘密??」

「うん、できるだけ絶対、だれにもいわないでね、守ってくれるかな?」


 守ってくれるかな、その言葉には言外に絶対守れという圧力のようなものを感じた。

 その言葉を聞いて、躊躇しない私ではない。


「それ、私が知るとどうなるの……?」

「んーとね、あの子が嫌いになる」



   ※   ※   ※   ※   ※



 内容は、昔の話だった。

 エリーさんがバルザム隊で、ソニアちゃんも同じ隊で。

 そしてエリーちゃんは苛められていて────


 エリーちゃんのお友だちが間にはいったけれど、それからというもの、街の人と色々あって、ソニアちゃんはエリーさんとそのお友だちを大の苦手にしていると。

 イスカも、あそこまではひどいと思っていなかったらしいけれど、ある程度は予想できたので最初から力付くで押さえつけようとしたらしい。


 なにもかもめちゃくちゃだ────


「何ではやく言ってくれなかったの……」

「個人情報だし、これ聞いてどう思った?」

「うん……?」


 聞いて、少しだけソニアちゃんが嫌いになった。

 誰かにいやがらせやイジワルを継続してやっていた──その事実は、例え過去であろうと誰であろうと、いい印象を受けるわけがない。


「まぁ、この街のアイドルの隊長になるかもしれないんだから、知っておいた方がいいと思って。

 エリーだって、好きで嫌われてる訳じゃないんだから」


 でも、同じことは私たちだってした。

 それも本人は許してくれたけれど、ヒドイ態度をとったことがなくなる訳じゃない。

 もしかして少し違っていれば、私もソニアちゃんのように、なにかに怯え続ける生活を辿っていたかもしれないんだ。


「へぇそんなことが? でも、考えすぎだと思うよ、本人はソニアちゃんの件も今は全く気にしてないみたいだし。

 まぁそれがあの子の悪いところなんだけどね」

「悪いところ?」

「エリーあの子、自分の事で怒らないんだよ。

 それに、自分が周りに及ぼす影響を理解できないっていうのかな?

 周りが心配してたり許せないと思ってても、それを察することができないんだ」

「そんな……」


 とても謙虚なエリーさんだ、その表現は何となく分かるけれど。

 こないだの件もエリーさんが許してくれたからいいと思ってしまっていたけれど、もしかして、私は彼女の優しさに甘えることになっていたんじゃないだろうか。


「ねぇ、イスカさん。私もイスカさんの友達に嫌がらせしてたってことなんだけど……

 だったら、許せないよね?」


 私も、エリアルさんに謝ることばかり考えていて、エリーさんや、その友達が嫌な思いをしたことに気づけていなかった。

 いや、目を背けていた、のかも。


「あー、そう言う意味で言ったんじゃないんだ。

 僕は別にエリーさえ許してるんならとやかく言うつもりはないよ。

 それに、あんなのっぴきならない事情があったんだもんね」

「っ────なんでイスカさん、それを……?」

「あ、ほんとにそうなんだ。君の事だからと思ったけど」

「かまかけたの!?」


 まぁ実際、そんなことを平気でするような子の仲間にはならないけどねぇとイスカが一言。

 こんな短い間の付き合い、ともすれば出合ってまだ数時間しか経っていないのに、彼女は私の何を見透かしたんだろう?


「まぁ、とにかくこのままじゃどうにもなんないね。

 どうする? あの子仲間にするの諦める?」

「うーーーん……」


 こんな終わり方でソニアちゃんとお別れは嫌だった。

 それは彼女が有名人だから、とかじゃなく。


 エリアルさんの件もあったみたいだけれど、急に押し掛けてきた私たちを受け入れてくれたり、みんなの前で理想のアイドルを続けていたり。

 エリーさん自身も今はソニアちゃんのファンになっているらしいし、彼女はきっと優しい人間なんだと思う。


「諦めたくないな────」

「そっか……じゃあ行こうか、今日の夜にでも」


 軽くお尻を払いながら、イスカがベンチから立った。


「え、どこに?」

「僕たちはファンじゃなくて、もうあのこの仲間だからね。

 行くよ、禁断のアイドルお宅突撃訪問」


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