「行方不明になった女性の捜索だ。
バルザム隊の一人──エリアル・テイラーという子が迷いの森で姿を消したらしい」
「それって──」
僕たちの隊が解散してから、ずっと彼女はバルザム隊のしたっぱとして所属している。
中々級をあげれない彼女に、何度か隊を変えたりする手もある、と進言したこともあった。
それでもエリーはバルザム隊に残ることを選んだのだけれど、もしあの子の身に何かあったなら────
「君、彼女と知り合いだったよね?
あの隊は女性が少ないし、もしかしたらと思ったんだけど」
「僕も行く……」
それは反射的に出た言葉だった。
自分が力になれるかも、とかお店をこの後どうするか、とかそんなことは頭になかったと思う。
ただただ、エリーの、数年来の友達の身が心配だった。
「それは、ダメだよ。もう軍にとって部外者の君を、勝手につれていくことはできないから。
僕ら【怪傑の三銃士】も出るんだから心配はしないで」
「じゃ、じゃあなんで僕のところにいいに来たのさ!」
正論なのに、言っても仕方ないのに、僕はおじさんに怒鳴ってしまった。
「落ち着けよ、姪っ子ちゃん。君も僕のことは信頼してくれてるだろう?」
「そうだけど……」
「僕が来た理由は──僕らがなぜ、この事件に出動しなければならないか、分からなかったからさ」
「なぜ……?」
おじさんは、軍に勤める人間だ。
リーダーは【三銃士】のライルさん。
あの人の命令があれば、どこへでも行って何でもやるのがおじさんの仕事なんじゃないだろうか?
「いや、【怪傑の三銃士】はそう滅多には動かない。
街を衛る最終手段として、ごくごくたまに出動するだけさ」
「あー、そうだったね……」
「それに本来、最小限に留めようという仕組みは作れてはいるものの、任務に犠牲は付き物。
ましてや、森で勝手に迷子になったしたっぱを、僕たちも含めたこれだけの規模の隊を組んでの捜索なんて、まずありえないのさ」
「そんな言い方っ──ま、まぁ? うん……?」
一瞬反論しそうになるけれど、おじさんのいうことは確かに事実だった。
人材不足を何年も嘆いているあの軍に、そんな余裕なんてないはずだ。
「しかもこの任務、よくよく調べてみたらどうやら最高司令官が緊急で出した任務みたいなんだ」
「最高司令官が、緊急で────?」
「まだ任務の詳細は隊長格の中でもごく一部にしか、広まってないんだけれどね。
それでも、軍の探偵屋として、任務に携わる者として──1人のおじさんとして、確かめずにはいられなかったんだ」
「確かめるって、何を……?」
ここまで聞けば、僕でも何となく察していた。
おじさんたちが今から行く任務は普通じゃない。
たった1人の女の子を、ただただ広い森から探し出す任務。
2年という長い間したっぱとして働き続ける、彼女のあり得ない待遇。
「彼女は──エリアル・テイラーとは
その言葉は、僕の中でも浮かんだことだった。
何者、何をした、それを総称して、
思えば出会った頃からボーッとしているように見えて、正義感が強い。困っている人がいたら、真っ先に近づいてしまうタイプだ。
でも、性格や人となりは分かっても、あのこの事を僕は何ら知らない。
南の島から来たと聞いたことがあるけれど──じゃあ出身は? 家族は? 軍に入隊した目的は?
いつも一緒にいたはずのミリアのことは何となく分かるはずなのに、エリーだけが分からない。
僕の中でも、未だにあの子は正体不明、だった。
「ごめん、全く心当たりがない、いってる意味がよく分からない」
「そうか」
僕の言葉をただ理解してないと思ったのか、ごまかしととったのか。
とりあえずおじさんはそれ以上何もいわなかった。
「まぁ、そう言う結果だとは思ったよ。
でも僕らは生憎足で稼ぐタイプの解決屋でね。
珍しく時間外業務してしまった」
「そう。そろそろ行って、夜まで仕事だったから僕眠いんだ」
軽くあくびをすると、おじさんも少し笑って大人しく帰り支度を始めた。
別に夜まで仕事をしていたことも、眠いことも嘘ではないのだけれど、少し変な罪悪感に襲われる。
「じゃ、まあせいぜい僕らに任せなよかあいい姪っ子。
【怪傑の三銃士】が絡んで解決できなかった事件なんて、ないんだから────」
「おいおいおいおいぃぃぃっ!」
おじさんが帰りのドアノブに手をかけると、それを見計らったように下から男性が大声を出してかけ上がってくるのが聞こえた。
あまりいいビルではないので、声が響いて徹夜明けの頭にガンガン響く。
「な、なに、だれ────」
ドタドタという足音は扉の前で消えて、そこからハァハァという息づかいに変わった。
「その声はエッソかな?」
「そうだその通りだなにやってやがるお前!」
おじさんが扉を開けると、言う通り【怪傑の三銃士】の1人、エッソさんがそこでゼェゼェ言っていた。
その後ろには──【三銃士】のリーダーのライルさんもいた。
そちらは息をあらげることもなく静かにしていたので、一瞬気づかなかった。
「ジョーーノーーワーー!
何やってるんだ、今から任務だろ!」
「ごめんごめん、姪っ子の顔見に来てたんだよ。
かわいいだろ?」
「あぁかわいいな! お前の血は継がれなかったみたいだな!」
そう真正面から言われると照れる。
「イスカ、だったか!? このおじさん今から任務なんだ、返してもらうぞ!」
「どうぞどうぞ」
一瞬イヤそうな顔をしたジョノワおじさんだったけれど、すぐにため息を着いて大人しくエッソさんについていった。どうやら仕事に行く観念はついたようだ。
「ところで2人とも、なんでここに来たのさ。
僕が来なくて遅いから、って理由だけじゃ、君たちはこんなに慌ててここまで来ないだろ?」
「それは──作戦が変わったからだ」
リーダーのライルさんがそう言うと、無口な彼を代弁してエッソさんが説明をする。
「エリアル・テイラーは見つかったぞ!
しかも任務であるアデクの接触に成功したそうだ!」
「え、ほんとですか!? よ、よかった────」
どうやら、僕が行くまでもなくあのこの無事は確保されたらしい。
すごく心配した、このまま戻ってこないかと思った。よかった、ホントによかった────
「良くは──ないぞ」
「あぁジョノワ、女の子の命より大切なものなんてねぇ、とスカして言いてぇがさすがに今回は別だ!
かわりに、それ以外のバルザム隊の連中がすべて消えたんだ!
アデクの野郎とエリアル・テイラーが捜索しても見つからず、音沙汰ないと。そしてそいつらのキャンプの痕跡だけが見つかったらしい!」
「えっ、何だって……?」
自分の知らないところで起きていた状況の変化に、おじさんが目を丸くする。
やっぱり僕なんかに会ってるべきじゃなかったんじゃ────
「
ちょうど大規模捜索隊は出来てんだ、恐らく任務が変わる!」
「今からバルザム隊捜索だ──急げ」