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ターニング(一幕目)  帰ってきた青白い髪の娘


 人生というのは、何が分かるか分からない。


 そして自分の予想しないことが突然起きて、ピンチにたたされたとき、人はそれを乗り越えようとする。

 ただ、そのピンチはすぐに解決するとは限らないんだ。


 たとえばある日突然固有能力に覚醒した私がそうだったように、何日、何ヵ月──もしかしたら何年もの長い年月をかけて向き合う必要があるかもしれない。



 でも、もしかしたら別の誰かが──ともすれば相手も意図しない形で、そのピンチを救ってくれることもあると思う。



 どんな形であれ、心の中の鬱積を晴らしてくれるきっかけや出来事────


 そんな転換点ターニングポイントを「カタルシス」、と呼ぶのだという。




   ※   ※   ※   ※   ※




「お久しぶり、エリアルさん!」

「あ、レベッカさん」


 エクレアに帰ってきて約一週間。

 私、レベッカ・アリスガーデンは3ヶ月前一緒にd級試験を受けたエリアルさんのもとへ会いに来た。


 おうちの場所は聞いていたので、休日を狙って訪ねたところだ。


「いらっしゃい、上がってください」

「いえ、すぐに帰るからここでいいわ」

「そうですか」


 エリアルさんは、なんか休日にあまり動きたくないタイプに見える。

 だから勝手に押し掛けてゆっくりしていくのは、失礼に当たるだろう。


「ところで、お帰りなさいエクレアに。

 戻ってたのは聞いてましたけど、会いに来てくれたんですか?」

「うん、挨拶が遅くなってしまってごめんね。

 しばらく戻ってきてバタバタしてしまって」

「いいんですよ、ところで能力の制御はできるように?」

「えぇ、髪はそのままになってしまったけれど、自分の固有能力のことはよく分かった……

 私の能力、扱いは本当にしなきゃいかないみたい」


 元々グリーンだった私の髪は、今青白い色へと変わっていた。



 能力覚醒の後遺症──なんだそうだ。


 私の能力、巨大なムカデを真っ二つに切り裂いた恐ろしい力────

 そしてこの国では、自身や周りに危険を及ぼすかも知れない能力が覚醒していると判断されたら、“能力管理局”が運営する、固有能力をコントロールするための専門的な施設に入ることとなる。


 この3ヶ月間、私はそこに収容されていたので街から離れていた。


「大変でしたか?」

「えぇ、軍人だから特に危険な能力の調整には厳しかったわ。

 私目をつけられてたみたい」

「それだけすごい力だったってことですよね。

 私は動物と話せるだけですから少し羨ましいです」

「そんなことないわよ」


 動物と話せる──馬やムカデの声も聞けたエリアルさんの能力は、試験中に起きたあの事件でもすごく活躍していた。

 エリアルさんの力がなければ、私たちの命はなかった──と断言してもいいと思う。



「なんだかそういわれると照れますね」

「うん、だから前のことも含めて、ね。

 エリアルさんには、色々とその──イジワルしちゃったから会いに来られるの嫌だったかもだけど……」

「…………え? えー……あっ──あーごめんなさい。すっかり忘れてました」


 もしかして忘れてたんだろうか──それとも気を使ってとぼけてた?

 この人に限ってイジワルはないと思うけれど────


 とにかく、思い出したくないことを思い出させてしまったかも。



「というか、あれ理由があったんですよね。スピカちゃんの事で」

「え? あーーー」

「本人から聞きました」

「えっ! えぇ……そう。でも、理由があってもあんな対応はよくなかったと反省してるの」

「いいんですよ、前にも謝罪をいただいてますし、私みたいに忘れてください。

 ところで、レベッカさん、その……スピカちゃんは────」

「あぁ、それね」


 今私と同じ隊だったスピカちゃんは、エリアルさんとの隊に転属している。

 向こうでも、スピカちゃんは上手くやっていたみたいだ。


 だから、私が隊を戻してあの子を連れ戻すかも知れない、と考えたんだと想う。

 私が戻ってこれたことを素直に喜んでくれている様子ではあったけれど、少しだけ気がかりだったみたいだ。


「私たちの隊はね、このまま解散することにしたの。

 スピカちゃんはうまくやってるみたいだし、ベティも怪我が治って他の居場所を見つけたみたい。

 2人とも、隊を戻すつもりはないって言ってた」

「そう、ですか。スピカちゃんがそう決めたなら、私からは何も言うことはないです」


 そういいつつ、エリアルさんからは表情に出さないものの、とても嬉しい雰囲気を感じた。

 きっと、今は彼女にとってもスピカちゃんは大切な仲間なのだろうし、あの子も結局そっちを選んだわけだ。


 ちょっと嫉妬しちゃうなぁ────



「じゃあ、レベッカさんは引き続きリーエル隊に?」

「えぇ、一応ね。

 でもどこか新しい小隊に入りたいんだけど、中々条件に合わなくて。

 それにそもそも、隊の中でもあまり隊員は募集してないんだよ」

「はぁ、なるほど。リーエル隊って人が多いですもんね」

「んー、それもそうなんだけど────」


 そもそも、私のような新人を受け入れてくれるところが少ない。

 まぁ、無所属で活動するという人たちもいっぱいいるけれど、それだと大きな任務には出れない。


 d級試験直後にそれはちょっと不安だなぁ──というのが、私の今の悩みだった。



「無所属の人2人集めて小隊作る、ってのも考えたけどなかなかねぇ」


 無所属の隊員を私以外で2人を集めれば、一応リーエル隊に所属している私を元に、新しい小隊が作れる。

 リーエルさんなら(人間性に色々問題はある人だけれど)隊の勝手も分かるので安心だ。


 でも、入隊してちょっとの私には人脈もないし、やっぱり求人を募集するのも勇気がいるし、で中々踏ん切りがつかない。


「なら私が紹介しましょうか?」

「え?」

「小隊が作れる人数、隊に無所属の人を集めればいいんですよね?

 レベッカさんと合うかは分かりませんけど、年齢的に近くて頼れる人なら何人か紹介できますよ」

「ホントに!?」


 それはまさに渡りに船だっただった。

 エリーさんはまともそうだし、頼もしい仲間を紹介してくれるに違いない。


「えーっと、紙とペン、紙とペン────」


 部屋の奥から、小さなメモを持ってきて、紹介してくれる人それぞれの名前やいるかも知れない場所を書き込んでくれる。


「はい、どうぞ。みなさんクセが強いので気をつけてくださいね」

「え? ちょっとまってなにその不安要素……」

「会いに行くかどうかは自分で決めてください」


 そのメモに書かれた3人。

 へぇ、どうやら女の人2人に、男性1人────



「え? えぇ────なんか、どの人も聞いたことある有名な人ばっかなんだけど……

 こんな人たちが隊員募集してたの知らなかった……」

「まぁ、それぞれ事情があるんですよ」

「というか、こんなメンツ紹介できるエリアルさんて、何者なの────」

「知り合いにそういう人が多いだけですって」


 でも普通、こんな有名な人たちを紹介できる仲なのがビックリだ。

 もしかして、エリアルさんてエクレア軍の裏の支配者とかなんじゃ────


「どうしました?」

「いえ──ちょっとびっくりしちゃって。

 でもすごい人たちだね、お言葉に甘えて声かけさせてもらおうかなぁ」

「書いた順番で会いに行ってくれると、スムーズに交渉できるかも知れないです」

「順番に────?」


 まぁ、何はともあれエリアルさんのおかげで、活動のアテができたのは嬉しかった。



 まずはエリアルさんの言う通り、最初の人から勧誘してみることにした。

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