ミリアとの戦いが終わったので、私はなるべく早足でクレアがいた場所まで戻る。
「ただいまぁー」
「エリアルさん、お帰りなさい。心配しましたよ」
「何で戻って来てんだよ!?
エクレアまで逃げ切るとか言ってなかったか!?」
「いや、戻った方が安全な気がして……」
先程クレアと別れた場所に戻ると、まだそこに彼女はいた。そして傍らにはララさんとセンリ。
どうやら傷は回復してもらっているようで、少なくともさっきの痛々しい傷跡は見られなかった。
「クレアさん、あんまり動かすと流石のララでも手元が狂いますよ?」
「ララさんも大丈夫だったんですね」
「えぇ、聖槍もこの通り。敵も何とか全滅させることができました。
対処に手一杯で、誰一人捕まえられませんでしたが」
「マビーも?」
「マビー??? あのマビーもいたんですか?」
どうやら、ララさんと【お騒がせマビー】は接触しなかったらしい。
捕まれば良かったのに、かなり残念だ。
「ふたりとも大丈夫そうで安心しました。これ聖槍ですはい」
「おっわ、よく護りきれたな!!」
「追っ手からは逃げ切ったのですか?」
「えぇ、なんとか」
私の手元になぜ聖槍があるかというと────
崖から落としてしまった聖槍が、本物ではなかったからだ。
詳しく言うと、聖槍のレプリカ──を模倣したきーさん。
森の途中、逃げ切れないと分かった私は、霧に紛れて姿を消し、その隙に聖槍ときーさんを入れ替えた。
あとはきーさんを聖槍のふりをして争奪戦をして、ミリアから逃げ切れば作戦は成功だ。
実際は途中で崖があったので、きーさん扮する聖槍を闘いで離してしまった
本当ならエクレアまでミリアと闘いながら逃げるつもりだったので、早めに切り上げられたのは英断だっただろう。
「お、おいじゃあ────」
「落としてしまったってことですか、聖槍に扮した相棒を……」
「あー、大丈夫です大丈夫です。
あの子飛べるんで、落ちる前に戻ってこれるんで」
まぁ、さすがの私でも相棒の精霊が崖から落ちたとなれば羽の生えたきーさんでも心配にはなるけれど、きーさんが脱出できたのはなんとなく共鳴して感じる。
しばらくはミリアもあの崖の下で聖槍探して立ち往生だろうし、私の相棒はとてもいい働きをしてくれた。
まぁ、共鳴した感情に沿って、なんかすごく腹立たしい気分が一緒に飛び込んできているのは、気のせいだろう────
「てか、さすがにかわいそうじゃないか……?
崖から落としたんだろ?」
「そ、そうですよ……ララは何かあったらと気が気じゃありません」
2人はどうやら本気できーさんのことを本気で心配してくれるようだった。
「大丈夫ですよ、私の相棒は崖から落ちたくらいでやられるようなたまじゃないんで」
「そ、それならなにも言わねぇけどよぉ────」
2人はそれ以上はなにも言ってこなかった。
「まぁ、馬車は壊れてしまいましたが、乗ってきた馬も無事ですし、エリアルさんの精霊も特に被害なし、と。
まだ油断できませんが、ここまでララたちのチームは全員無事に聖槍2本を護りきりましたね」
私たちは、早めに森を抜け忘れ広野へと出る道を行く。
まだ敵の残党やミリアが残っているんだ、なるべく早足で移動をする。
「クレア、治して貰ったとはいえ、無理せず馬に乗ったらどうですか?」
「ぜってーいやだね」
どうやら、馬車には乗れても馬の苦手はまだ克服できていないらしい。
できれば慎重にいきたいので体力も残してほしいんだけれど────
「いえエリアルさん。慎重に、は大事ですがここから先は敵がいないことをララが保証します。安心しても大丈夫そうですよ」
「ほら、ララさんもこう言ってるしいいだろ?」
「なんで言いきれるんですか?」
ここから先の広野は、確かに人が多い場所ではないけれど、それはそもそもワニのいるような危険な場所だからだ。
そもそも荒野と言っても岩や切り立った崖、ところどころに生える木々など身を隠す場所だって多い。
ここから先だって、森と同じくらい危険な場所なんじゃないだろうか?
「いいえ、そうでなくて。ララ自身見てきたから安心と言えるのです」
「盗賊たちを倒してから見に行ってくれたんですか?」
「いいえそうでなく。あ、そろそろ森を抜けますね」
森を抜けたこの先、生い茂る木々から解放され思わず目を細める。
荒野の光は、遠くに見える
「おい、エリアルあれ見てみろよ」
「ん? 帰ってきたんですね」
森の方から滑らかに滑空をして、きーさんが戻ってきた。
崖の上から落としてしまったけれど、傷ひとつなく無事みたいだ。
「あ、きーさんお帰りなさ──いだっ」
「大丈夫ですか?」
戻ってきてそうそう、伸ばした手をひっかかれた。
どうやら本人は私が崖から落としてしまったことにかなりご立腹みたいだ。
どーせ羽があって飛べるのに、わがままなものである。
「ララさんありがとうございます。大丈夫──イタイイタイっ、きーさん頭噛みつかないでっ」
「いわんこっちゃない、そりゃそうだろうよ……」
私が思ってる以上にきーさんの怒りは強かったようで、さっきよりも腹立たしい気持ちがぐんぐん流れてくる。
私の顔見て怒りが再燃したな───?
「ちょ、きーさん、きーさんてば。ダメだ、聞いてくれない……」
そのままきーさんは、小さな指輪に変身して沈黙してしまった。
こうなってしまっては、私だけではどうしようもない。
きーさんを小指にはめて運んでやることにした。
「全く、手のかかる」
「あれ? おい、誰か向こうから来るぞ。
ってうぉい! あれってもしかして!!」
「────うっわ……」
向こうから荒野を2人組が歩いてきた。
この辺は流通のために商人が通ることがあるのでそういう類いの人たちかと思ったら、なんだか見覚えのある人だった。
というか、2人ともララさんだった。
「来ましたね、ララ
固有能力【アウト・リーチ】で増えた6人のララさん、そのうちの2人だ。
実体のある同じ人間が目の前に3人────
普通なら絶対にあり得ないようなことが目の前で起きて、少々驚いてしまった。
「紹介します、総合病院のララと城専属のララです」
「初めまして、総合病院のララです」
「初めまして、城専属のララです」
「ど、どうもこんにちは……」
同じ人間に紹介され、同じ人間が2回あいさつをする。
奇妙だ────
「すっげぇ! ララさん大集合じゃん!」
「「クレアさんこんにちは」」
「すっげぇ!!!」
隣のクレアは、むしろ喜んでいた。
ララさんに懐いている彼女はこの奇妙な事態をむしろ喜んでいるようだ。
でも、なぜ2人がここに?
「それは、先ほどの襲撃があって敵から逃げたとクレアさんから聞いてから、エリアルさんの加勢が必要と考えたからです」途中で戻ってこれたので、ついでに荒野の安全を確かめていました」ララ自身確認した、という意味が分かりましたか?」
3人に同時に話しかけられ混乱してしまいそうだけれど、なんとか理解できた。
つまり2人のララさんは、私のために忙しいところを抜けて助けに来てくれたのだ。
そういえばララさんたちは全員記憶の共有をしているらしいので、一人が危険を察知すれば、全員がその場に集合して人海作戦が出来る。
しかし幹部2人分迷惑をかけた────と思うと、なんだかとても申し訳なく思えてくる。
「いいんですよ、無事だったのですからそれが何よりだとララは思います」さぁ、街はすぐそこです」早く帰って打ち上げでもしましょう」
最後は、私とクレアとセンリ、それからララさん3人と指輪のきーさんという、奇妙な組み合わせのパーティーになってしまった。
ともあれ、私たちは無事任務を成功させたのは事実。
少しだけ満足した気分と、疲労からくる早く帰りたいたいという気持ちを感じながら、私たちは最後の道を歩いた。
エクレアは、もうすぐそこだ。