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帰りたい(167回目)  単独で抗戦


 静かに槍に変身したきーさんを握りしめる。



「いきます────“珊瑚連斬コーラルビート”っ」

「ふんっ!」


 私の“魔力纏”の槍は、同じ槍使いの男にいとも簡単に弾かれてしまった。

 斧を持った男と、剣を持った男がすかさずこちらに攻撃をしかけてくる。


「オラっ!!」

「わっ、きーさん大盾にっ」


 私が覆い被されるほどの盾にきーさんが変身し、2つの攻撃を防ぐ。

 ジンジンと盾を揺らす衝撃に耐えながら、何とか体勢を持ち直した。


「“魔力纏”が使えるくらいでいい気になってねぇか?

 基本中の基本だぜおい」

「でしょうね、危ない危ない────」



 リアレさんとさんざっぱら修行した“魔力纏”だけれど、それが使える人は大して珍しいわけじゃない。

 敵の盗賊達も今武器をぶつけ合った限り、3人共が“魔力纏”で武器を強化していた。


 私はきーさんと契約しているので、精霊との“魔力共有”で、さらに効果を高められるけれど、それでも熟練した3人とは五分五分くらいだと思う。

 そして私の武器の熟練度が上がるわけではないので、多分真正面からぶつかればまずあの3人には勝てない。


 何かしら搦め手を考えなければ勝てないだろう。


「もう終わりか? なら────」

「っ──“碧鹿エメラルドハインド”っ」


 水の魔力を込めた「放水砲」だ。

 熟練の水魔法使いなら、これだけで敵を山一つ分吹き飛ばせるとか。


 それに当たった槍の男は大きくのけぞり、後の2人も数歩後ろへ下がった。


「しゃらくせぇ!」

「ぬぐっ────」


 結構最大威力で打ったつもりだったけれど、私の力じゃまだまだ相手を吹き飛ばすほどの力は出なかった。

 でも、狙いはそこじゃないですよ────


「ふへへっ、水浴びでオレらを綺麗にしようってか?」

「だよなぁ、そこまで言われちゃおじさん達もショックだぜ」


 ゲスな笑みを浮かべ、近付いてくるおじさんたち。

 私は盾のきーさんを解除して臨戦態勢をとる。


「おいおい、つれねぇよなぁ」

「まぁオレらに捕まってどうなるかぐらい分かって──ん?

 ここなんか寒くねぇか?」


 気付いたときには、もう遅い。



「“凍傷領域フロストバイト・リージョン”」、

「────っ!?」


 冷気を周りの空間に放出させ、徐々に敵の浴びた水分が凍ってゆく。

 風と氷の魔法を利用した辺り一帯の氷結技、中々に力仕事だけれど、水を浴びた彼らなら無力化できるはずだ。


「に、逃げろ!!」

「逃がしませんっ」


 背中を向ける大斧の男には、接近して直接凍らせる。


「ふーっ、ふーっ……」

「ごめんなさい」


 身体をガチガチ言わせ、3人の男がその場に倒れた。



 敵に水を浴びせ、それを凍らせる。

 以前に蜘蛛女に使ったのと同じ方法だ。


 以前よりパワーアップしてる──けれど、まだまだフルで使うのはかなり大変だ。

 実際、まだ高く日の昇っていない明け方で、冬場の今の時期だから成功したけれど、昼間や夏場だと私が倒れるのが先だっただろう。


 それに、だんだんと今の残り魔力が少なくなってきていることも感覚的に分かる。

 前に魔力が切れてしまったときには3日間寝込んでしまったし、クレアは連れ去られララさんが手の放せないこの状況では私が無闇に戦闘不能になるのは避けたい。


 まずは、私のやるべき事からだ。




「ララさん、私が今からクレアを追って────がはっ」


 瞬間、突然みぞおちに食い込んだ衝撃に、身体が軽く持ち上がる。

 地面に転がりながら何とか顔を上げると、先程倒したはずの男の1人が、既に立ち上がっていた。


「んだぁ、剣で切ったのに手応えねぇな?」

「“バフ──プロテクト”────っ、あはぁ……はぁ……おえっ……」


 地面に膝をつきすっぱい液体を吐瀉する。

 すんでの所で氷のバリアをお腹に展開していなれば、いますでに真っ二つだった────


「さっき、凍らしたはず────」

「オレにはこれがあるんだなぁ、残念だったなぁ」


 男から、メラメラと燃える黒い炎が沸き上がった。

 通りで──こんな物があれば、私の氷など一瞬で溶けてしまう。


「全身が燃え上がる魔法……」

「ハズレだ、【全身が燃え上がる】固有能力。

 熱にも強い──ぜっ!」

「っ……」


 炎を纏った剣が、私の近くを掠める。

 避けた──と思ったら、髪の先が燃えていた。


「うわっちち、女の子の髪を燃やすとか正気ですか────」

「今さら何言ってんだ!」


 2擊、3擊と剣が振られる。

 盾でガード、槍で牽制──やはり、体力差体格差経験則、全てが下回る私ではいなしきるのにも限界がある。


「おらっ、おらっ!」

「“ウィステリアミスト”っ!」


 ギリギリな魔力を削って、辺りを霧で覆う。

 風の無い、空気の冷たい今の時間帯なら、敵の視界を防ぐには充分なはずだ。


「くそっ、目眩ましかよっ! 

 っ────あっ、いつのまにっ!」

「真正面からなんて闘いませんよ」


 霧の中、相手が視界を奪われた状態なら逃げるのは簡単だ。

 気配を消すのは得意なので、濃い霧と私の相性はとてもいい。


「ちょこまかちょこまかと!! 死ね!!」



 逃げる私を全身炎に包まれた男が、追いかけてきた。

 慌てて加速したけれど、しかし思ったより相手の足は速く、すぐに追いつかれそうになる。



“こら、我の元に逃げてどうする!”


「うわっ、ごめんなさいごめんなさい……」



 必死で逃げた先には、馬のセンリがいた。

 みると、周りに何人かの敵が倒れ込んでいる。


 おいおい、私より活躍してるじゃん────

 しかし、目の前の相手は全身燃える男、確かに彼に頼ってもどうしようもない。



「ええっとっ、今は盾で────」

「しねぇ!」

「うっわ────」

「“ヒーリング・ジェット”!」


 私を遅う剣の男を遮ったのは、ララさんだった。


「ララさんっ」

「ガハッ────」


 直撃を喰らった男は、そのまま飛ばされて動かなくなる。


「ありがとうございます。

 でも、いいんですかララさん、リスキーは────」

「ほら、あれ」


 みると、リスキーが地面に倒れていた。

 結局リアレさんはリスキーとの決着が大分のびたと言っていたし、この短時間で決着をつけたララさんには舌を巻くしかない。



「エリアルさん、良く持ちこたえました、偉いです」

「いいえそんな……」

「それに聖槍、ララの代わりに護ってくれてありがとうございます。貸してください」

「あぁ、はい」



 私が護ってきた聖槍を渡すと、ララさんは包装を破って中を確認し始めた。

 ミリアに奪われたものとそっくりの槍が、中から姿を見せる。


「ちょちょ、そんなことしていいんですか?」

「この際仕方ありません、この武器を使います」


 ララさんが軽く振ると、聖槍“レガシー”は鋭い音を立てて空を切った。


「い、いいんですか、文化財ですよ?

 もし壊れたら────」

「それは無いでしょう、伝説通りなら巨大な敵を切り裂いてそれでもなお刃こぼれのしない名槍、ですから。

 最悪壊れたら、これがレプリカと言うことでしょうね?」

「いや、うん──止めませんけど」


 こういう思い切りの良さは、流石軍幹部だ。

 護る一方でこの槍を使う、と言う発想が私にはなかった。


「でも、これってホワイトハルトにしか使えない槍ですよね?」

「ただの槍としてなら、ララは何の遜色もなく使えます。

 それよりエリアルさん、敵は残り半分です。

 包囲が薄くなった今のうちに、ここを抜け出してもう1本、クレアさんの援護をお願いしていいですか?」


 もう1本──ミリアの持っていったあの聖槍だ。

 クレアがついて行っているはずだけれど、それも気がかりでならない。


「分かりました、やれるだけやってみます」

「よろしい、クレアさんのことも心配です。

 ララはこちらの対処で時間がかかりそうです。ほらっ」


 そういって、ララさんはまたかかってきた男2人をなぎ倒した。

 まだ、彼女の力は弱っていない。


「それと、エリアルさん。ララができる援護です、これを」

「ん?」


 ララさんが手を差し出してきた。

 触れるとぎゅんぎゅんと何かすごいパワーが流れ込んでくる。


「こ、これは────」

「ララの魔力のお裾分けです。今キツいのでしょう?」

「ありがとうございます……」


 正直かなり心許なかった残りの体力が、一気に上限値まで溢れる。

 流石、国一番の回復のプロだ。

 見ると小さく付いた切り傷なんかも、塞がりかかっていた。


「足は必要ですから、この馬は連れていってください」

「はい、ありがたいです」


 急いで装具を外して、センリに乗り込む。

 センリも、聖槍とクレアを追いかけることにはどうやら同意してくれるらしい。



「まずはここの突破ですが、ララがサポートを────」

「それなら私一人で問題ないと思います」

「────っ、分かりました、ご武運をっ!」

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