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帰りたい(165回目)  聖槍争奪戦


 盗賊のボスが声を上げると、今までララさんに圧倒されていた男たちが一斉にこちらに向かってきた。


「クレア、敵が来ましたっ」

「っ────いいとこだったのによぉ!」


 もちろんララさんだけが狙われて、私たちが攻撃されない理由はない。

 むしろ普通に考えて弱い私たちから狙うのが鉄則だ。


「エリアルさん、クレアさん、なるべくそちらに行かないようにしますが、漏れた分は各自で対処を!」

「わ、分かった!」


 えぇ、大丈夫かなぁ────

 正直戦闘自体あまりしたくないので凄く不安だ。


「行くぞエリアル!」

「あーい……」


 ララさんにも頼れない場面で、こちらに5人の男たちが剣を構えて走ってくる。

 私だけじゃ難しいけれど無力化すれば2人でいけるか────?


「クレア、お掃除頼みます」

「任せとけっ!」

「きーさん槍にっ、“灰氷菓フロスティーグレイ”!」


 槍を振り、先端から氷の礫と強風を敵に向かって放つ。

 幸い甲冑をしている敵はいない、当たった敵は顔を覆う者、目を押さえる者────


 少なくともこの瞬間、敵の無力化に成功した。


「いくぜっ! 超必殺流儀っ“天竜大連擊”!」


 一気に距離を詰めたクレアは下から1人を蹴り上げると、空中で捻りを加えてもう1人を横薙ぎに。

 勢いそのまま回転しつつ接近、腹に体重ののったヒールキックをすると、残りの2人を素早く取り出した短剣で切り裂いた。


 任せた私が言うのも何だけれど、凄い────

 屈強な成人男性5人を、一気に伸してしまった。


「しゃあオラ、5タテじゃい!」

「クレアまた強くなりました?」

「バーカ、アタシは毎日が成長期なんだよ!」


 それでも今の動きは、先程のララさんにもきっと負けていなかった。



 初めての頃から焦りが消えたクレアは、見ていて清々しいほど強くなっている。


『技名ダサいけど』

「あ? 何だって???」

「いいえ、何でも」

「それよりもあれ何とかしてくれ!」


 見ると、先程と同じように敵がこちら一直線矢を構えていた。

 接近戦でダメなのなら、と狙い方を変えてきたらしい。


 私たちに向けて、無数の矢が飛んでくる。


「今度は任せてくださいっ。

 “広範囲ワイド灰氷菓フロスティーグレイ”!」


 弓なりに届く矢を、氷の礫と強風で打ち落とす。

 煽られた矢は全て私たちのところに届くことなく、地面に落ちて役割を負えた。


「サンキューエリアル!

 次も近付くやつはアタシに任せろ────」



 その時、馬のセンリがこちらに吼えた。

 今まで何もなく大人しくしていたのに何かと思ったら────え、槍が盗まれてる?


「えぇっ」

「どうしたエリアル、次の敵陣が────えぇっ!?」



 センリの目線を追うと、馬車に乗っけていたはずの聖槍の一本が、独りでにフワフワと浮いていた────

 そのまま唖然とする私たちの目の前を、槍は虚空を縫うように空へ浮かび上がってゆく。


「あっ、もう1本の方は!?」

「それはこちらにあります────ええっと、“ウィステリアミスト”!」


 慌てて霧をはると、そこにはうっすらと人の形の空間の空間が浮かび上がった。

 あのシルエットは────


「しまった、ミリアの透明化っ」


 私が叫ぶと同時に、透明化の意味を失ったミリアが姿を現した。

 ボロボロの黒いマント、目元を覆うほど深々と被ったフード────


 相棒のインビジブル・バット、ばっつんと“精霊天衣”した姿だ。



「また、会いましたね……」

「────っ……」


 彼女が私たちの元を離れてから、2度目の再会。

 今度もまた、私たちは相対することになってしまった。


 確実に、ミリアと私の視線がぶつかる。


 前回はここで私の記憶がこぼれ落ち、遅れを取ってしまった。

 しかし今、私は王様からいただいた眼鏡をしている。


 記憶は────消えてない!



「────……」

「あ、逃げないでくださいっ!」


 私から眼を逸らしたミリアは、そのまま槍を持って飛び去ろうとする。

 ララさんもこちらには対処できないようだし、このまま持ち去られたら奪還は難しい。


 それに、あの姿は移動するのにエコーロケーションのように声を出さなければ周りの状態を把握できなかったはず────

 私がこの混乱の中で聞き逃したという可能性もあるけれど、接近するときの気配も私には感じ取ることができなかった。


 しかもそあの姿が空を飛ぶなんて、まるで“インビジブル・バット”の性質をそのまま再現したようなマントだ。


 完全にアイツにしてやられた────



「くそっ! アイツが透明になってたって事かよ!」

「クレアっ」


 そう言うと、私より早くクレアが動いた。

 馬車の荷台を踏み台にし、大ジャンプを決める。


「とどけえええええっ────おっしゃ!」

「────────っ!!!」


 大きく飛翔をしたクレアは、聖槍を掴みそのまま引き剝がそうとする。

 しかしミリアもそれを離すことはなく、空を飛ぶ2人は空中でもみ合いになる。



「離せ、このっ────!」

「────っ……!!!」


 お互いに槍を放すまいともがく2人は、そのままフワフワと宙を舞い、敵の包囲網から外に出る。


 あ、見えなくなってしまった。



 行っちゃったよ────



「あっ、ララさんっ、聖槍とミリアが攫われましたっ」

「しまった、すぐに追いかけ──うっ!」

「そう簡単にはいかせないですのん!」


 ララさんの行く手を阻む強烈な蹴りを繰り出したのは、3人組最後の1人リスキーだった。

 ギリギリ腕で防ぎきったところに、第2第3の猛攻がララさんに刺さり彼女はそのまま後方に飛ばされる。


「っ────“ヒーリング・ブースト”!」


 衝撃で吹き飛ばされる中、体勢を立て直し踏ん張ったララさんは、加速した足で前方に跳んだ。


「“ヒーリング・バースト”っ」

「────っ──ですわっ!!」


 強烈な拳と蹴りの応酬が繰り返され、ここからでも余波が伝わるほどの衝撃が2人の間を行ったり来たりする。


 リアレさんとも互角に戦った敵だ、流石のララさんも一筋縄ではいかないらしい。


「エリアルさん、エリアルさん! うしろに!」

「えっ──おわ、危な」


 ララさんの方に気をとられていると、鎧の男が大斧を振り下ろしていた。

 あと少しララさんの忠告が無ければ危なかった────


「そよ見するとは余裕だなガキが」

「そちらこそ──余裕そうじゃないですか」


 気付くと、屈強な男たちが3人、私を囲んで構えていた。

 盗賊は闘ってものを奪う事を生業とした人たちだ、3人とも突破するのは難しそうなチェインメイルをガッチリつけている。



「エリアルさん、今そちらに────」

「よそ見は禁物ですわ!」

「っ────!」



 リスキーに阻まれ、ララさんは悔しそうに歯噛みする。

 どうやらこちらを助ける余裕はないらしい。


「さぁ、観念してその“レガシー”を渡しな。

 大人しくすればいたいことはしねぇよ-」

「するでしょう、痛いこと」


 私は、昨日のナルスの姿を見ている。


 最後まで聖槍を守りぬいた彼は、全身を激しく傷付けられ、あと少し発見がおくれていたら命が危なかった。

 あんな惨いことをする人間に、簡単な約束さえ守れるとは思えない。



「交渉決裂かぁ、残念だなぁオイ────?」

「えぇ、私も残念です」


 静かに槍に変身したきーさんを握りしめる。



「いきます────“珊瑚連斬コーラルビート”っ!」

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