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帰りたい(164回目)  ヒーリング!!


 ララさんの威圧を物ともせず近づく猛者がいた。

 3人組の1人、【ハンド・メイド】のダストだ。


「貴方は手配書に載っていましたね、触手使いの方でしょうか?」

「そーです! おねーさん、僕を敵にしたことを後悔させてやるのです!」


 ダストは見ているだけで身の毛もよだつ、触手を操る少年で、その使用の幅は非常に大きい。

 攻撃はもちろん、移動手段、防御、粘液を出して潤滑剤代わりにする、傷を塞ぐ、そして分身の作成などなど────


 私とセルマ相手にも実は余裕綽々だった腹立つ子だ。


「じゃあ行きますよ、僕の触手で捕まえてネトネトにして、牢屋に他の女の子と閉じ込めて友情を築かせてキャッキャウフフさせてやるのです!」

「うわ、キモチワル……」

「な、なんで……??」


 思わず言ってしまったクレアの言葉に、また今回も膝をつく。


 だから何でだよ。


「確かに、友情は素晴らしい物だとララは思います。

 しかしそのように無理矢理作らされた仮初めの友情で、貴方は満足なのですか?」

「ええもちろんウェルカムご馳走さまなのですっ!」

「なるほど、多様性は認められるべきだとは思いますが、今日は貴方とわかり合えそうもありません」

「言ってろなのです!」


 叫びと伴に、触手の波が辺りを埋め尽くす。

 周りの盗賊数人を巻き込んだそれは、気色の悪い海のように、ララさんの方に押し寄せた。


「クソ、周りを巻き込むな小僧!」

「あはははっ! 勝利のために多少の男の犠牲ならいとわないタイプなのです僕は!」

「“ヒーリング・ブースト”っ!」


 先程と同じように目にも止まらぬ速さで移動し、全ての触手をララさんはかわしてゆく。


「こしゃくなぁ──のです!」



 ララさんの戦い方は、とても繊細でとても暴力的だと聞いたことがある。

 彼女お得意の木の魔力は、癒師いやしの回復にも使われるように、人の身体を活性させる作用がある。

 彼女はそれを自身の身体に利用し、身体能力や強度、果ては他の属性の魔力まで高めているらしい。


 先ほどの矢を打ち落としたビームは雷、スピードを上げたのは炎の魔力をジェットにして利用していた。


 他の7人のララさんから補給できる魔力も合わせて彼女は、自分自身という点においてはエクレア軍きっての身体強化魔法の使い手でもあるのだ。


「こなくそぅ!」



 中々捉えられない事に痺れをきらしたダストが叫びを上げる。

 ララさんはそれに構わず、包囲網の敵3人を蹴散らし、円の外から突破した。


「あぁ! 逃げるのですかっ!?」

「まさか、仲間がいるんですから敗走はあり得ませんよ。

 ララはこれが欲しくて」


 手元には、1本の木が生えていた。

 別に何の変哲もない森の樹木だ。


「折って振り回して戦うのですか?

 僕の触手には勝てないのですよ!」

「半分不正解、です」


 ララさんが手に魔力を込めると、ウネウネとその気が生き物のようにうごめき始めた。

 細胞の活性を木に施して、自在に操っているんだ。


「うわ、キモチワルいのです!」

「流石のララも貴方に言われたくないですね、それっ」


 軽くララさんが腕を一降りすると、木は突然大木に代わり、驚異的なスピードで枝分かれしながらダストの方向に伸びてゆく。


「んなっ──逃げられないっ!」

「捕まえました」


 伸びた木の枝や幹に捕らわれ、巨大な触手を伸ばしたダストは身動きを完全に封じられてしまった。

 以前にセルマがやったのとはまた別の方法で、彼の動きを封じたのだ。


「どうやら、触手1本1本の力はあまり強くないようですね。

 粘液を出せても、それならしばらくは出られないでしょう」

「や、やられたのです……」

「だ、ダスト!!」


 戦意を失い動きを止めたダストに駆け寄るリスキー。

 慌てて彼を捉える木を剥がそうとするが、うまくいかない。


「こちらは時間がかかりそうですわ! タイト次頼みましたわ!」

「任せるでガンス!」


 次にララさんの前に出て来たのは、【メタル・マッスル】のタイトだった。

 身体を金属に変化させる固有能力の使い手で、そのパワーは“精霊天衣”したロイドと互角をはれるほどだ。


「パワー系の方ですか」

「オデが出張ってきたでガンスよ! 幹部覚悟!」


 叫びと伴に、タイトの身体に光沢が走ったかと思うと、見た目では想像もつかないに速さでララさんに距離を詰めパンチを繰り出す。

 それを避けきれず、ララさんは何とか腕で防いだ。


「うっ────!?」

「ララさん!」


 ララさんから苦しそうなうめきが聞こえる。

 体勢こそ保っているものの、見ると攻撃を受けた左腕があらぬ方向に曲がっていた。


「ガハハハッ! エクレア軍の幹部も大したことないでガン────どわっ!」


 高らかに声を上げるタイトの隙を突いて、返す刀でララさんの蹴りが炸裂した。

 同じように腕で受けたタイトは、面食らったようにのけぞる。


「ぐっ────アンタ痛みに強いでガンスか!?」

「いや、ララは普通に痛いですよ。

 ヒーラーたるもの、ダメージを和らげる術を持っているだけです」

「回復早すぎでガンしょ────!!」


 驚くことに、先程まで折れ曲がっていたはずのララさんの腕は、既に元の形に戻っていた。

 軽くその腕をプラプラさせている様子から、既にほとんど治ってしまっているのだろう。


 これも癒師いやしによる細胞の活性────なのか?


「えぇもちろん、自分を回復させました。

 ただ、ララはそれと伴に他のララへダメージを分散できるだけです。

 痛みも、傷も、八等分です。

 8人で治せば、骨折の1本くらい大したことないですから」

「ず、ズルいでガンスよ──あれ?」


 ララさんの勢いに押され、距離をとろうと下がったが、バランスを崩し尻餅をつく。

 いつの間にかあの巨体が、赤子のように動けなくなっていたのだ。


「ど、毒でガンスか……!?」

「いいえ? “ヒーリング・レイトスタン”──雷の魔力を使い、身体を痺れさせたのです。

 死ぬことはありませんが、電気を通しやすいその金属の身体なら、しばらくは動けないでしょう」

「っ────! うごがねぇ!」

「タイトっ!」


 タイトもその場で無力化され戦闘不能にされた。

 立て続けに2人を相手にしたララさんだったが、その顔にはまだ汗一つかいていなかった。


「タイトまで……よくもですわ!」


 ものすごい速さで強敵たちを蹴散らしながら、それでも余裕を見せるララさんは正直味方としても少し恐ろしかった。

 前はリアレさんが人望幹部だと卑下するのを否定してしまったが、今ならあの人の気持ちも凄くよく分かる────




「…………」

「クレア、どうかしましたか?」

「幹部の闘いを目に焼き付けてるんだ……」


 その目には、確かにそこに追いつくという真剣な眼差しと迫力があった。

 できることなら、私も闘わずにのんびりララさんの戦闘を眺めていたい。


 しかし、残念ながら今ここは戦場だ────


「クソ、埒が空かねぇ!

 弱いやつから叩くぞ、一斉にかかれ!」


 盗賊のボスが声を上げると、今までララさんに圧倒されていた男たちが一斉にこちらに向かってきた。


 そりゃそうか。


「クレア、敵が来ましたっ」

「っ────いいとこだったのによぉ!」

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