私たちを囲む円の一部が左右に割れ、奥から個性的な3人が姿を現した。
金髪赤ドレスの妙齢の女性と、ガタイのいいしゃくれた男、そして私達よりも年下ではないか、というくらいの少年だ。
げ、この人たち────
「貴女がララ・レシピアですのね!?」
「えぇ、初めましてノースコルの方々と
ララはララ・レシピア、エクレア軍幹部をしております」
優雅に挨拶をするララさん、囲む敵の中からいくつかのざわめき声が沸いた。
ある者は山賊という言葉に、そしてある者はエクレア軍幹部という名前に驚いている。
「何を驚く事があるのでしょう、“レガシー”が奪われればサウスシスにとっては大きな不利益となる。
ララたち軍人はもちろん、一般の人間でさえそれをすすんですることはないでしょう。
あるとすれば、お金で雇われた無法者の盗賊、とかでしょうか」
軽蔑した眼を向けられた盗賊たちは、たじろいだ。
普段絶対に見せないララさんの威圧は、屈強で粗暴な彼らにも、充分な効果を見せたのだ。
しかし────
「戸惑うな! 敵は我々を隅へと追いやったサウスシス!
敵が幹部だろうが盗賊とバレようが、やることは変わらん!」
リーダーらしき男が鼓舞すると、先程までぶれつつあった敵の軸が、元に戻りかけたように騒ぎが収まった。
余程カリスマがある男なのか、恐怖で圧倒しているのか────
「貴方達を雇って正解でした」
「オレたちも村で仲間を失っている。
これで失敗じゃあ採算がとれねぇだけだ」
「フフフ、ならばこちらもやるべき事をすませますのん……」
不敵な笑みを浮かべ、妙齢の金髪赤ドレスの女性が一歩前に出ると、後ろの2人が合わせてポーズをとる。
この作戦の時渡された写真に写っていたポーズだ。
来るぞ来るぞ来るぞ────────
「自己紹介しますわよ!」
ほら来たよ。
「ワタクシはノースコル構成員、【ラヴァース・メイデン】のリスキー!!」
「同じくノースコル構成員、【ハンド・メイド】のダスト!!」
「同じくノースコル構成員、【メタル・マッスル】にしてリスキー様のイヌ、タイ────」
「うるせぇ! 結局何が言いてぇんだ!」
最後のイヌの自己紹介を遮って、クレアが叫んだ。
最後の男の名前は、その場の誰もが聞き取れなかった。
「お、オデの自己紹介をまた────」
「「た、タイト!!」」
前回とは違う意味で、膝をつくタイト。
今回は身体のダメージではなく、心のダメージが深刻そうだ。
「タイト、しっかりするのですわ!!」
「あんたイキナリ何なんなのです!! あんまりじゃないのですか!!」
「うるせぇ! 名乗るなら捕まってからにしろハゲ!」
「ワタクシはハゲてませんの!! ふっさふさですからぁ! ふっっさふさですからぁ!!?」
後ろの盗賊たちが、何やってんだとか、だから言わんこっちゃない、みたいな哀れみの眼を3人に送っていた。
どうやらこの同盟の中で、3人は可哀想な子扱いらしい。
「戦場で茶番──ララには理解できません……」
「ララさん、あぁ見えて彼ら強敵です。
特にあのリスキーという女性は、リアレさんと互角に戦っていました」
「そうなんですね、あの【麒麟】とですか」
同じ幹部で互角だった──その事実を伝えるべきか悩んだこれど、思いの外ララさんの反応はあっさりしていた。
「リスキー様リスキー様。
あの眼の死んだ子、前に会ったことがあるのです。
いいオンナノコドウシを見せてくれた──ブフォッ!」
「あっ、そうだそこの貴女!!
そういえばミューズで会いましたわね!」
妙にウネウネネトネトしたトラウマを思い出させる顔の少年に言われ、リスキーは私を指差す。
「あーはい、お久しぶりです」
「あぁこれはご丁寧にどうも──じゃなくて!!
ワタクシの! 大切な銃を! 返せですのん!!」
「銃?」
銃と言われて思い当たるのは、このリスキーが子ども(に化けた触手)を人質にとったとき、使っていたというあの銃だ。
そういえば、敵が落としていった物を、全てが終わった後にセルマが回収していたと聞いた。
本人は鑑定してもらって危険がなければ手元に置くかもと言っていたけれど──そっからどうなったんだろう。
「あの銃はリスキー様の大切なたーいせつな得物なのです」
「そうでガンス! 返すでガンスこのドロボー!」
「今のあなたたちが言いますか────
えーっと、ごめんなさい……その場にいなかったので何のことか全く分からないです」
「ふぅん、嘘をついてるようにも見えませんわね……」
普通に嘘ついた。
バレないもんだよなぁ────
「ならば貴女たちに用はありません、この包囲網から抜けられると思わないことですのん」
「おいおいやべぇよ……」
クレアは11チームの物だった聖槍を、険しい顔で抱きかかえた。
私もつられて、いまだ紙袋に包まれている聖槍を握りしめる。
「お2人とも、馬車馬から馬車を外してください。何も出来ず襲われるのは可哀想でしょう。
あと、聖槍を任せてもいいでしょうか」
「ララさん……」
今度もまた、ララさんが前に出る。
どうやらこの人数を相手に、闘いを始めるつもりらしい。
こちらは、聖槍2本に、馬車馬のセンリも護りながらの闘いになる。
結構不利な状況だろう────
「エクレア軍幹部との闘いは2度目ですのん。
前回のように無様に部下の助けを待つ役割には、ならないでくださいまし?」
「【麒麟】は人質を取られていたとララは聞きます。
人の命を優先にすることは、無様ではありませんよ」
「知ってますわ──挑発に乗るか試しただけですの」
両手に木の魔力を貯めるララさんを見て、盗賊のボスは軽く手を上げた。
すると敵の半数が、こちらに構えの体勢をとる。
「いきますわよ」
リスキーのその一言で、もう半数が同じように構えをとった。
多分、ノースコルの構成員と山賊が、入り混じっているんだ────
「構えろ!! 撃てっ!」
その声と伴に、敵の何人かがこちらに矢を放ってきた。
弧を描いたそれは朝焼けの光を反射してこちらに刃先を突き立ててくる。
「“灰ひょ────」
「“ヒーリング・スパークリング”!!」
矢を打ち落とそうと構えた私より先に動いたのはやはりララさんだった。
指先から出たいくつもの光線が、全て正確に矢を打ち落としてゆく。
「くっ──第2陣、構えろ!」
「させません──“ヒーリング・ブースト”っ!」
矢を構えた敵陣に、一瞬で移動したララさんが弓兵の中の1人を足払い、そのまま味方1人を巻き込んだ一本背負いで安々と2人地面にキスさせる。
いつの間にか自陣に転がり込んできたララさんを見て、敵の陣営は動揺により僅かに崩れる。
「怯むなっ! 囲んでたたきつぶせっ!」
男たちが剣を振りララさんに斬りかかるが、その全てを紙一重でしゃなりしゃなりとかわしてゆく。
焦れったいとばかりに剣を捨て掴みかかった1人は片腕を捻られ痛みに悶絶した。
「ぐおおおっ!」
「ララはナースです。あまりこちらから傷付けさせないでください」
完全に勢いを失った敵の連合は、ジリジリとララさんを中心に円の空間を作ってゆく。
たった一人でも、彼らを圧倒されている証拠だった────
「す、すげぇ──あの人ホントに
「セルマみたいに回復役でも戦う人は多いですけど、流石にあれは────」
ついでに私たちも圧倒されていた。
「ふすすん! なーにチンタラやってるのですか!」
その時、ララさんの威圧を物ともせず近づく猛者がいた。
3人組の1人、【ハンド・メイド】のダストだ。
「貴方は手配書に載っていましたね、触手使いの方でしょうか?」
「そーです! おねーさん、僕を敵にしたことを後悔させてやるのです!」