「エリーちゃん素敵な眼鏡ね」
「伊達ですけどね」
数日後、私たちはアデク隊長の馬車で聖槍が発掘されたという崖の近くのマガリ村へ向かう。
先日のリゲル君の言葉────
「だから、エリー、お願いだから一人で抱え込むな」
彼の言葉を聞いて、私は少しだけ勇気を出してみることにした。
王様は私がミリアと闘って止めることを望んでいるみたいだけれど、リゲル君の言う通り別に道は一つじゃない。
きっと、彼女が死刑にならず、笑って私たちの元に戻ってこれる打開策がきっとあるはずだ。
それより今は、このたどり着いた真相をまた彼女に会って失ってしまうのを防がなければならない。
「おっ、アタシにもよく見せてくれよおろろろろろっ!」
「うわっ、吐くなら向こうでやってくださいよ」
相変わらず馬車に弱いクレアさん、これじゃ任務中も思いやられる。
「汚い、クレアさんあっち行って……」
「す、スピカ酷いなっ……」
「お前さん達4人になって一掃騒がしくなったな──もうすぐ着くぞ、マガリ村だ」
マガリ村、人口数百人程度の小さな村だ。
実は観光地としても有名なこの村は、秋になると山々に広がる紅葉や美しい大自然のために、多くの観光客が訪れるらしい。
しかし少し前にシーズンも終わって、今は平穏な村に戻っているに違いない。
この間の聖槍発掘の発表から街はバタバタしていたけれど、任務先で少しゆっくりできそうなのはいいことだ。
「ほれ着いた、アハハ風情もなにもねぇな」
「う、うわぁ────」
着いてみたら、全然違った。
そこそこの規模の村だったけれど、それを圧迫するほどの人数の軍人たちが揃っていた。
もう第7グループくらいまではエクレアに向けて出立しているそうだけれど、それでも物凄い人数だ。
こんなガタイのいい男たちがひしめき合った観光地じゃ、紅葉も絶景あったもんじゃない。
「聖槍ラスクいかがですかぁ!?
安いですよぉ!?」
「ホワイトハルトケーキでぇす!!?
あの英雄縁の地限定のケーキですよぉ!?」
しかも村の人たちは、新しいビジネスを見つけたようで、血眼になって関連グッズを売っていた。
流石観光地の商売人たちと言うか、ものすごくグッズは売れてるみたいだ。
「エリーさん、あそこドラゴンの、ストラップ売ってる。
キラキラだ……カッコいいなぁ、欲しいなぁ……」
スピカちゃんは、店の入口に置いてある商品に興味が引かれたようだ。
特にジャラジャラした金属のドラゴンを象ったヤツがお気に入りらしい。
槍にも変形するらしいから、聖槍ブームに乗った商品の一つだろう。
「ダメですよ??
あぁいうのは買ってくるとお母さんが怒るんですから」
「ホント……?」
「私の兄が修学旅行で買ってきてお母さんに怒られてました」
「お、お兄さんいたんだ……」
というか、リゲル君や他のお兄さんたちはそういう経験ないんだろうか?
買っても怒られないのか、そもそも買わないのか、修学旅行に行ったことないのか────
どれにしても、ロイヤルファミリーというのは私たちの常識が通じないのは、こないだの一件でもよく身に染みている。
「じゃ、あとはがんばれよ。オレとセルマとスピカは別のチームだから、次会うときは王都だ」
「えっと、私たちはどうすれば」
「あそこに本隊のテントがあるだろう、あそこで教えてもらえ。コイツ忘れんなよ」
アデク隊長は吐きたてホヤホヤの気持ち悪そうなクレアを指差す。
だからイヤだったのに────
※ ※ ※ ※ ※
「すみませーん、道を聞きたいんですけれど」
「お、教えてくれぇ……」
完全にダウンしたクレアを半分引きずる形で本部のテントまで行き、受付で声をかけた。
急ごしらえとはいえ、さすが軍の資金を使っているだけのことはあって、とてもしっかり拠点の機能を果たしていそうだ。
「はいはーい、って大丈夫かい?」
「あ、ライル君」
「ハローハロー?」
受付に顔をのぞかせたのは、【暴食のライル】でお馴染みのライル・レンスト君だった。
相変わらず底抜けに明るくのほほんとした雰囲気に、女の子のような見た目。
水兵服と言うお堅い服を着ているはずなのに、彼の周りからは一切気合いというものが感じられない。
「なんでライル君がここに?」
「え、そんなことオイラに聞かれても」
自分のことなのに分かってないのか────
いや、ライルくんはこういう子だった。どこかヌケているんだ。
「ねぇー、プロマのおねーさーん、ドマンシーの店員さんが聞きたいんだってさぁ。
何で隠れてるの、出て来てよぉ」
誰か、奥にも人がいるようだ。
ライル君が呼びかけた方を少しのぞいてみると────
「あ」
「ひいいいいっ!!」
ソニア・リクレガシーちゃんがうずくまって震えていた。
どうやら私の姿を見つけて、速効で隠れていたらしい。
このまま顔を合わせなければお互い幸せだったのに、ライル君のせいでエンカウントしてしまった。
出会ってしまった手前声をかけなければいけないし、誰も幸せにならないじゃないか。
「あのぉ、ソニアちゃん?」
「えええ、エリーさんこんにちは!!
実は少し落とし物をしてしまってかがんでたんです決して隠れてたわけでは!!」
「そうですか。で、なんで2人がここに?」
さっきから私はその疑問について答えて欲しいんだ。
なんで街のアイドルソニアちゃんがあんな場所でうずくまっていたかは、聞きたいわけじゃない。
「そのっ──私と彼はいま小隊無所属の隊員でしてっ!」
「オイラ食べすぎて小隊追い出されたんだよ」
「わわ、私は僭越ながらアイドル活動で特定の小隊には所属できておらず!
それでチームには振り分けられずにここで受付をっ……!」
「なるほど」
なんか、喋っているうちに泣き出しそうになっているソニアちゃん。
普段は人当たりのいい、いい子らしいのに、私のことがよっぽどトラウマらしい。
「エリアル、何でそんなビビられてんだ?
もしかして昔〆たとか────」
「〆てないですよ。昔色々、ね?」
「そそそそ、その節は誠に私の懺悔すべき愚かな行為だったと自覚しております!
どうか何卒お慈悲をぉぉっ!」
面倒くさいなこの子。
だから、そんなに謝らなくても私は蒸し返さないのに。
そもそもこの私たちの関係の原因を作ったのはミリアなんだから、怖がるべきは私ではなくてミリアだろう。
まぁ、そのミリアもこの村の近くに潜伏してるかも知れないんだけど。
「あ、そうだ。
私たち12チームなんですけど、どこへ行けばいいか教えてくれないですか?」
「ああぁ、これです!! この地図のここ!!」
手渡された村の地図、その隅に小さく12チームと記されていた。
どうやらそこは宿らしい、もしかして私たちが泊まれるのだろうか?
「そうだよ、宿で泊まれるなんて良かったね。
この村広くないから、村の外にテント張って野宿の人もいるんだよ」
「ホントですか? それはありがたい」
実際、ベッドで寝るのとテントで寝なければいけないのは心地が違う。
風もない、雨の音にも悩まされない、ぐっすり寝れる────
次の日におきるのが辛くなること以外は、全てにおいてお布団の方が上だ。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう!」
よかったクレアもすっかり元気だ、もう私が引きずらなくていいらしい。