スピカは、持ってるぽーちから、一番重くて強力な武器を取り出して、リゲル兄に向けた。
普段なら滅多に使わないこれは、スピカの最後の切り札。
「“魔力直結ばずーか”、だよ────弾じゃなくて魔力そのものを飛ばす──簡易
ばずーかに魔力を込めると、ぎゅんぎゅん力が吸い取られていくのが分かる。
自分だけなら想像も出来ないようなぱわーが、ただ一点に集中して集束していった。
狙うリゲル兄を、すこーぷ越しに見つめる。
「そうかスピカ、君はそこまで────」
ぼうっと上を見上げていたリゲル兄は、スピカを直視して少し目を細めた。
そして、少しの間小さく微笑んで────
「そうかそうかそうかそうかっ!」
笑った。
「強く強く強く強く!!
強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く!!
なったね!」
不敵に笑った。
「なら君の銃を使うのは止める!
単純な魔力で勝負だ!! この一撃で君の最高値を測らせてもらう!」
兄はセルマさんの杖をまた取り出すと、軽く振って、最初と同じ構えをした。
その杖先に、スピカと同じくらい──違う、もっと膨大な魔力が集まるのが揺れる空気で感じとれた。
きっとさっき出した強烈な一撃を、さらに進化させて飛ばしてくるんだ。
すこーぷ越しにお互いの眼が合った瞬間、スピカたちは全身全霊の一撃を放った。
「“
「“なんかめっちゃ凄いの出ろ”!!」
放出した魔力と魔力がぶつかり合い、空気を揺らす。
喉の奥から出る変な声も、押し返されるような圧力も、全てを出し切って押さえ込む。
力と力のぶつかり合いにスピカが向いていないのは分かってる、でも全身ぼろぼろでも貫き通したい信念なんだ。
「んんんっ……!」
「いいねぇ! 流石──っだ!」
ばちっ──という火花の音とともに、2人の押し合いが終わった。
力は互角、お互いに怪我もない。
でも、さっきので力を使い切ってしまったスピカは、ぷろぺらを保てなくなって、そのままふらふらと落ちてしまった。
だめ、もう上には上がれそうにない────
「うぎゅっ……!」
「す、スピカ大丈夫なのか!?」
「いたたっ……だ、大丈夫ぱぱ、まだやれる、よ……」
床に落ちたスピカは、何とか立ち上がる。
ここでだうんするわけにはいかないんだ、まだやれるまだやれると自分に言い聞かせて身体の痛みを押し殺す。
「リゲル!! やりすぎじゃないか!?」
「これくらいやらなきゃ大詰めにふさわしくない!
さぁ最後だよスピカッ!」
走って向かってきたリゲル兄、何とか一瞬確認したその手には、スピカのぷろぺらも、銃も、セルマさんの鎖も、杖も、何も持ってはいなかった。
「素手でっ……!?」
「最期の最後は最初と同じだ!
追い詰められた僕は、素手だって言ったろ!?
凌ぎきって合格掴んでみせてくれ!」
この闘い、距離を取り過ぎていて忘れていたけれど、本当なら接近戦がめいんの試験だった。忘れてた。
杖を捨てて、鎖を捨てて、すてごろのリゲル兄の動きは捕らえられないほど速かった。
髪で迫る右腕を振り払っても、逆の腕が喉を狙う。
そこを腕で庇おうとした瞬間、腕を捕まれそのまま投げ飛ばされた。
「いたっ────!」
背中から受け身もとれずに落下したところを、踵が追撃してくる。
でもそれを銃で防ごうとしたら、銃に足を絡ませたリゲル兄が隣に滑り込んできた。
驚いて、転がって、横に────逃げようとすると、腕を捻って組防がれてしまう。
それでも何とか髪を使って振り払おうとしたら、いつの間にかリゲル兄は髪の射程距離から逃げ切っていた。
そしてその距離から、今度は落ちた電灯の破片を投げてきた。
右腕、右膝、左腕に、それぞれ正確にだめーじが入ってくる。
それでも痛みに耐えながら、残りの破片を打ち落としたら、破片と一緒にリゲル兄が迫ってきた。
投げた破片を視覚にして、その距離を一気に詰めてきたんだ!
「もう一度上に────っ……!」
少し浮き上がった瞬間、右に逸れたリゲル兄が落ちた電灯を足場にじゃんぷ、こちらに迫ってくる。
逆方向に逃げようとしてぷろぺらを回転させたら、迫るリゲル兄はスピカのぷろぺらを正確に狙って蹴りを入れてきた。
「ぬわっ……!」
片方のぷろぺらだけじゃ操れない、ばらんすを崩して地面に落ちる。
まだそれほど高くは飛び上がっていなかったけれど、これじゃ上に逃げるのは厳しそうだ。
「諦める!?」
「まだ────まだっ……!!」
リゲル兄に接近されるのは怖いけれど、今からならまだ立て直せる。時間が稼げる。
だってスピカはまだ動けるし、時間だって確実に過ぎてるはずだ。
ここまでやって来た自分の努力を、裏切っちゃいけない、こんな所で終わりたくない。
まだまだいける、手元に残ったライフルの大きさを変えようとした。
「えっ────」
瞬間、違和感に気付く。
銃の大きさが変わらない────??
なんで、どうして────!?
「終わりだね、スピカ。惜しい、凌ぎきれなかったか」
「うそっ……! うそっ、何で……!?」
その瞬間気付いた。
スピカの魔力は、とっくに切れていた。
もう発砲もできないし、それどころか銃の大きさを変えることさえままならない。
「う、そ……だ、め……だよ……まだ……スピカ……何も分からないままで……」
あと少し、あと少しなのに────そこで、限界だった。
スピカは全身の力が抜けるのを感じながら、その場に倒れた。