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帰りたい(145回目)  VSリゲル兄Ⅲ(空中決戦編)

 技の名前とも呼べないような一言と伴に、強烈な魔法に似た何か──圧縮された魔力のびーむが床を裂いていった。


「わっ、危なっ……!!」

「わっ、危なっ」


 出した本人も、同じように驚いていた。


 何とかよけれたから良かったけれど、何が起こるか分からない武器を適当に使わないで欲しい。


「杖──いじるのは初めてだけれど、使いこなせれれば、なかなかどうして便利な武器だね。

 僕も是非機会があれば術師の資格は取りたいな」



 そういってリゲル兄に杖は合わなかったみたい、すぐに下げた。


 でも、今驚いたのはリゲル兄の使う杖から、攻撃が出たことだった。

 普通の人が杖を触っても少し火花みたいなのがぱちぱち散って終わることがほとんどだ。


 杖は魔法や魔術を使いやすくする武器だけれど、使うのにもそれだけ技術が伴わなければならないはずなんだ。

 だから、術師っていう資格があるわけだし。



「やっぱり鎖の方がいいかなぁ、今の僕はこっちの方が扱いやすいみたいだっ!」


 器用なリゲル兄は、もう鎖を使いこなしていた。

 二本の鉄の鞭が、スピカを掠めては戻ってゆく。


 距離をとろうとしてもすぐに詰められて、また一撃と加えられる。

 これじゃいつかはリゲル兄の餌食になってしまいそうだ。


 時間制限まで凌ぎきるって言う最初の目標は、果たせそうになかった。

 こうなったら────


「どうした? このまま試験終了でいいのかな!?」

「いいわけない……飛行用意……!」


 ぽーちから、2つのぷろぺらを取り出して髪で固定、そして魔力を注入。

 回転が始まった羽が、静かに風を起こし始める。


「まさか、驚いた……スピカもしかしてそれって────」

「えいっ……!」


 速まった回転を揚力に変えて、スピカは髪とぷろぺらを使って飛び上がる。

 天井近くまで上がると、下にいる人たちの顔が見える。


 そんな中で一番目にとまったのは、ぱぱの顔だ。

 なんか、凄い驚いた顔で、震えながらこっちを見上げている。


「すすす、スピカ!? なな、何してる!! 危ないじゃないか!!!」


 ぱぱが慌てて、空飛ぶスピカを止めようとする。

 きっと、空を飛んで危ないとか、落ちたら危険だとか、そう言うことを心配してるんだと思う。


 昔から、ぱぱはスピカの安全を気にして、少しでも危ない遊びなんかはやらせてくれなかった。

 兄や姉がやってる稽古だって、スピカは遠くで眺めてばっかだったし、学校もお家に先生を呼んでの授業だったから、友だちもあまりいなかった。


「すぐに降りなさい!!」

「無理……!」


 きっと、ここで降りたら、リゲル兄に掴まるってだけじゃない、お城を抜け出して軍に入った意味がなくなっちゃう。

 スピカは兄や姉みたいに、自由に生きるんだ。


 レグルス兄のスピカへの最後の言葉が自由な姫になれだったように────

 危ない事にわざわざ飛び込みたくはないけれど、自分のやりたいことは思いっきりやりたいんだ。


「しかしそんな高い場所危ないだろう……」

「王様、あれもスピカちゃんの培ってきたものです。止めないでっ」


 珍しく声を張り上げて、止めてくれたのはエリーさんだった。

 それに一瞬ぱぱは戸惑ったようだったけれど、すぐに続ける。


「いや、エリー君──しかし、あの高さから落ちれば、ひとたまりもなかろう。

 到底容認するわけには────」

「ここには実力者が揃ってるんです。

 スピカちゃんのお兄さんお姉さん、アデク隊長にそれから王様も。

 もし何かあっても、全員が全員スピカちゃんを救える実力者ばかりではないんですかっ?」


 その言葉に、兄や姉は頷いて肯定してくれた。

 隣のアデク隊長も、肯定こそしないけれど、明らかな否定もしなかった。

 なら、そう言うことだと思う。


 それでも何か続けようとしたぱぱだったけれど、少し考えた後にエリーさんの気迫のようなものに押されて、しぶしぶと行った感じで目を閉じた。


「危険と判断したら、すぐに止めてもらう……」

「ありがとうぱぱ……!」


 頑固なぱぱを、説得してくれた。

 これならスピカは上にも逃げられるし、今まで身につけた技術も精一杯生かせそうだった。


 お礼を伝えたくてそっと視線を移すと、エリーさんは何か言う代わりに、そっと片目だけ閉じて目配せをしてくれた。

 面倒くさいことしたんですから、その分元とってくださいよね──エリーさんらしい少し気怠げな口調で、そう言うのが聞こえてくるような気がした。


「決まった? 飛ぶんだね? じゃあ再開、いいかな?」

「あ、おっけーだよリゲル兄……」


 仕切り直し──止まっていた砂時計の砂がまた落ちるように、再びスピカとリゲル兄の間に緊張感が流れる。

 でも今度は、息のつまるような攻防戦がすぐに始まらなくて、代わりにリゲル兄が顎に手を当てて考え始めた。


「うん、しかし困ったなぁ。その高さは少々厄介だ。

 おーい、スピカ、そこ降りてきてよ」

「え、やだよ……」


 リゲル兄がここまで来れないなら、時間制限まで逃げ切ればいいんだ。

 あとちょっとだしそれなら簡単簡単。

 スピカは晴れて軍に戻れるんだ────────多分?


「そういう試験じゃないんだけどなぁ。

 真正面から闘わなきゃ意味ないじゃないか?」

「それはいや………………」

「まぁいいや、ならこうだ!!」


 リゲル兄は、鎖を上に伸ばした。

 スピカを狙うのかと思ったけれど、方向は大きく逸れて天井に吊された電灯に絡まる。


 そのまま鎖を引き戻したリゲル兄は、スピカの目の高さまで上がってきた。


「この高さで君を相手にするのは少々キツいかも知れないけど、お手柔らかにね?」

「え、これで闘うの……?

 リゲル兄、それじゃ片手使えないし、うまく動けそうないし……」

「ちょうどいいハンデだろ?」

「むっ……」


 確かに勝てないのは分かってるけれど、面と向かって言われるととても腹が立つ。

 スピカだって、リーエルさんにこのぷろぺらをもらってから、怖いなりにも頑張って練習してきたんだ。

 いくらリゲル兄と言っても、そんな言い方はないはずだ。


「分かったよ、怪我しても、知らないから、ねっ……!」

「ととっ!」


 空中からの一発を、リゲル兄はもう一本の鎖を使ってはじき飛ばした。

 でもさっきよりぎりぎりだ。


「もう一発……!」

「容赦ないなぁ!」


 もう一本の鎖を別の電灯に絡めて逃げようとするリゲル兄。

 地上ではスピカの方が圧倒されていたけれど、今度はこっちが攻撃する番だ。


「リゲル兄、このまま時間終了にして……!?」

「やーだよ。それに、僕もまだ諦めるわけにはいかないんじゃないのかなぁ!?」


 さっきまで逃げ続けていたリゲル兄が、急に方向転換して攻撃をしかけてきた。


 鋭い靴先から、こちらに強烈な蹴りを入れてくる。

 ぷろぺらの揚力で何とか避けると、今度は鎖をうまく使ってたーんをして迫ってきた。


 壁を蹴って勢いを付けて、そのまま鎖を使ってまた攻撃────

 その変則的な動きは、スピカが眼で捕らえるよりも早く修練場の中を動き回る。


「捉えきれない──なら、電灯全部落としちゃう……!」

「おっとぉ!?」


 修練場の電灯は、16本。

 吊してあるその全てに弾を放って、一つ一つ落としてゆく。


 もちろん応戦するリゲル兄を相手にしながらは大変だけれど、段々と範囲が減ってくるリゲル兄も、きつそうだった。


「6──7,8,9本ッ……!

「中々厳しいねっ!」

「10本──11本……!!」


 12,13,14と電灯がどんどん減ってゆく。

 下にいるみんなにもその破片は飛んでいたけれど、カペラ兄がばりあで防いでくれていた。


「こちらは構わずやるんだスピカ!」

「うんっ────」


 そして15,16──全ての電灯を打ち落とし終わった!!

 足場──じゃなくて起点を失ったリゲル兄は、そのまま下へ落ちていった。


「おっととととと、ぬぬっ……?」


 下に着地したリゲル兄は、そのままこっちを振り返ることもなく足元を見回す。

 なんか、見つけたみたい?


 あれは──スピカの最初に落とした銃!?


「あはは! スピカ趣味がいいねぇ! こりゃいいや!」


 少しハイになったリゲル兄が、何発か銃を撃ってくる。

 危ないって──危ないって!!!


「おいスピカの兄ちゃん、ズルいぞ!」

「何がズルいもんか。ある武器で闘う、生き残る。それが僕のやり方だ!」


 スピカの銃を構えて、今度は正確にこちらを狙いながらリゲル兄は叫んだ。

 リーエルさんを見ていたから分かる。

 その目は確かに、敵を狙うすないぱーの眼だ。


「自分の武器がなければ、落ちてる武器で闘う。

 落ちてる武器がなければ、相手の武器を奪って闘う。

 相手の武器を奪えなければ、自らの拳で闘う。

 固有能力も、精霊もいない僕だけれど、王子として死んでも生き残らなきゃいけないんだ……」


 スピカを打ち落とそうとしているリゲル兄、多分器用な兄なら、動き回って逃げてもスピカに弾を当てるはず。

 なら、ここでの正しい道は、迎え撃つことなんだ。


 スピカは、持ってるぽーちから、一番重くて強力な武器を取り出して、リゲル兄に向けた。

 普段なら滅多に使わないこれは、スピカの最後の切り札。


「“魔力直結ばずーか”、だよ──弾じゃなくて魔力そのものを飛ばす──簡易魔力砲ふぁる!」

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