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帰りたい(143回目)  VSリゲル兄Ⅰ(対策編)

「制限時間20分、一本勝負。

 試験監督と直接戦闘して、合否は決まるそうです」


 それが、今からやるb級試験の形式だそう。

 試験時間を乗り切れれば合格、と言う単純な話ではないそうだけれど、20分をのりきることはこの試験合格のための絶対条件らしい。


「エリーさん、詳しいね……」

「ほら、試験の要項。

 前にバイト先に来てたc級戦士がこれを持ってたので、きーさんに変身してもらいました」

「え、うそ! みせて……!」

「はいどうぞ」


 エリーさんの渡してくれた要項には事細かく、b級試験の判定基準が書いてあった。

 なんだか難しそうなことがいっぱい書いてあって、よく分からない。


「まぁ書いてあるのは、ようはルールみたいな物です。

 これを見ると、別に相手を降伏させる必要はないみたいですね。

 格上の人を相手にするんですから当然ですけど。

 評価基準は技の技術、正確性、あとは判断力────」

「1対1の実戦で大切なことってことだな!」


 小難しいのが苦手なクレアさんが、適当に一言でまとめてしまった。

 エリーさんは少しいやな顔をしたけれど、特に訂正の必要もなかったのか、そのまま続ける。


「でも、これスピカちゃんには少々分が悪い勝負な気もします。

 スナイパーの役目は遠くの物を安全圏から狙うこと、安全を確保するためにわざわざ味方を一人近くに置いておくチームもあります」

「でも、この試験は直接接近して闘わなきゃいけないから、そうもいかないワケね?」


 そういえば、狙撃手はb級の試験で合格できないから、中々数が増えないって言うのをリーエルさんから聞いたことある。

 大抵の人は接近戦みたいな他の技術も身につけて挑戦するか、狙撃手を諦めて別のぽじしょんで活躍を狙うか、らしい。

 リーエルさんもb級合格の時はセルマさんと同じ術師だったらしいから、もしかしたらその壁はスピカが思ってるより高いのかも知れない。


「アデク隊長、なんかコツとかないんですか?」

「はぁ? オレは試験監督なんてやったことねぇよ」

「受けたことはあるでしょう?」

「よく覚えてねぇな、死ぬほど必死だったから」


 一番の経験者がこれだ、ちょっとっていうか、かなり不安になってきた────


 みんなに協力してもらって申し訳ないけど、スピカは駄目かも知れない────


「ねぇ、そういえば、リゲル兄って、どんな戦い方するの……?」

「リゲル君の戦法ですか、そうですねぇ。

 私も長らく闘ってるところは見たことありませんし、そもそもあいついつもロイドの補佐に回ってて、一人で闘ってることがなかった気もします」

「オレもあまりハッキリと活躍するところは見たことないね。

 多分弱くはないんだろうけれど」

「わたくしも同じ感じです、スピカの力にはなれませんね」


 なんだそれ、人生の先輩4人に頼ってみたけど全然参考にならないや────


 この人たち頼りにならないなぁ────


「まぁ、ただ言えるのはオールラウンダーな事です。

 うちの隊にはロイドのパワー、イスカのヒール、ミリアのスピードという役割がそれぞれありましたけれど、リゲル君は誰かがいないとき必ずその代役を務めていました。

 本人は好き好んで搦め手を使いたがりますけど」

「そんだけの能力持ってて搦め手好き?

 いっちゃあ悪いが、あの王子様って────」


 アデク隊長はそこまでで言葉を濁した。

 なんか言いたいけれど、兄が王子様だから遠慮してるみたいだ。


「そう、あいつは根っからの『変態』なんです」

「いいやがった」

「でも、流石にこの勝負で搦め手や不意打ちはあまり使わないんじゃないですかね?

 だってそれじゃ試験になりませんし」


 まぁ、そうか────


 実の兄が変態と呼ばれたって言うことより、エリーさんがにいを変態だと思ってるのがちょっとしょっくだったけど。



「まぁ、なんにしても搦め手も使わないんじゃ、対策が出来ませんけどね────」

「「「「うぅん……」」」」


 一斉にみんな唸って、それっきり黙り込んでしまった。


 あ、これ詰んだ────涙出てきた────


「みんな、スピカが辞めても元気でね────」

「何言ってんのスピカ?

 ねぇねぇ、それよりちょっといいかな?」

「うわっ……!」


 突然後ろから声をかけられてびっくりした、張本人のリゲル兄だ。


「な、なんですか?」

「きみきみ、君に用があって。えっと、セルマちゃんだっけ?」

「じ、自分ですか!?」


 突然名指しで呼ばれたセルマさんはびっくりして声を上げた。


「ちょっと、君の持ってる武器貸してくれないかなぁ。

 その便利そうな杖とその便利そうな鎖と鎖。

 僕としたことが生憎と、今武器の手持ちがなくてねぇ」

「ふざけんなよ!!

 セルマ、わざわざ貸す必要ないからな!」


 セルマさんは、リゲル兄の突然の要求にしばらく固まっていたけれど、少し考え込む。


「────いいわ、貸してあげる」

「おい!!」


 止めるクレアさんを尻目に、セルマさんはリゲル兄に持っていた杖と鎖を渡す。

 大切な武器のはずだけれど、その手はなんの迷いもなかった。


「大切な物よ、壊さないで・・・・・ね?」

「うん分かった、ありがと。

 じゃあ、僕はいつでもいいから始めるとき言ってね」


 じゃらじゃらと手首に鎖のりーるを付けながら、リゲル兄はまたぱぱのところへ戻っていった。


「なんで渡しちまったんだよセルマ……これじゃスピカはお終いじゃんか……」


 帰って行くリゲル兄の背中を見ながら、クレアさんが呆然と言った。

 流石にそこまで言われるとちょっと傷つくけれど、確かにセルマさんのせいで絶望的な状況がさらに悪化してしまったような気がした。


「いやクレアちゃん、今のはかなり分かりやすい助け船だったよ」

「全く、アイツもスピカには甘いですね!」

「どういうことた?」

「杖に鎖────初心者が簡単に扱える武器じゃないですよね

 借り物ならなおさら、慎重にならざる負えない……」


 あっそうか、リゲル兄の助け船ってそう言うことか。

 わざと遣いにくい武器を選んで、はんでをくれたんだ。


「それにあの武器2つを使うなら、リゲルさんの対策ができる・・・・・・!!」

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