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帰りたい(142回目)  無理難題を押しつけられたね


 また閉じ込められそうで怖い、と思ったけれど今度はリゲル兄も付いてくれているから安心だ。



「良かったねぇスピカ、父さん認めてくれるみたいだよ」

「あれ、絶対無理難題、押しつけてくるよ……

 リゲル兄何とかしてよ……」

「いやぁ、僕が手を出したらフェアじゃないでしょ?」


 ふぇあって──そもそもここまでリゲル兄は、スピカにすごく良くしてくれて、とっても感謝してる。

 正直リゲル兄の協力がなかったら、カペラ兄やアダラ姉に捕まっちゃってたと思う。


 だから今さらふぇあも何も、ないと思うんだけどなぁ────


「リゲル、余計なことはするなよ」

「分かってるよ、僕の仕事はスピカと父さんにそれぞれチャンスを作ることなんだから。

 これでどう転んでも、お互い納得の出来る場が一応整うね。

 仲直りの記念に今日の夕食は何かいいもの食べようか?」

「今日は魚の日だ、もう食材も用意させている」

「父さん、最近魚介類が高くて仕方ないんだよ、知ってた?」


 最近ミューズ漁業組合商会長さんが捕まったせいで、お値段が高くなっているお魚さんも、ぱぱなら簡単に食べられる。

 ちょっとぷりんせすに生まれて良かったかも知れない。


「ところで、ぱぱ、今度はどこに向かってるの?」

「ここだ」


 通されたお部屋はお城の中にある鍛錬場だった。

 中には一通りのトレーニングの機材が揃っていて、身体を鍛えたり模擬試合ができる。


 何でお城の中に──って思うかも知れないけれど、この国の王子や姫は、軍や王国騎士に携わってる人が多い。

 だから、おじいちゃんの前の前の前ずーっと前の王様が、ここに一つ鍛錬場を作ったんだって聞いたことがある。


 スピカはあまり使ったことがないけれど、よく兄や姉たちの練習試合を見ていたから、馴染みのあるお部屋だ。


「なるほど、ここなら広いし思いっきりやれるね」

「でもぱぱ、闘って認めてもらうってどうやって────」

「そうだね、父さん。僕はスピカの強さをもうとっくに認めてるつもりだよ? よく知らないけど」


 よく知らないのに認めてくれてる、何かちょっと心がこもってないみたいで悲しい────


「リゲル、お前は最近a級に上がり、試験の監督を任されるようになったそうじゃないか?」

「あーうんそうだよ。b級のね」

「え、リゲル兄すごい……!」


 a級の人たちの中でも、b級の試験の監督を任されるのはごく一部の隊員だけだって、まえにリーエルさんから聞いたことがある。

 それを兄の年齢19歳で達成してしまうなんて、やっぱりリゲル兄は凄い人なんだ。


「────ってまさか……」

「b級二次試験は、監督と直接刃を交え合否を決めるそうだな。

 その採点基準はとても厳密に決められていて、マニュアル通りに行う必要があると」


 その言葉で、ぱぱが何を言いたいのか、何を指し示すのかようやく分かった。


「それを、スピカにやれと」

「あぁ、もちろん。公平な判断は、お前の得意とするところ、だな?」


 それを聞いて、リゲル兄は黙り込んでしまった。


 公平、公正と言う言葉は、リゲル兄が一番よく使ういわば口癖みたいなものだ。

 それを引き合いに出されて、返す言葉がなくなってしまったのかも知れない────


「b級試験……」


 b級試験──スピカたちがこの間受けたd級試験の、上の上の試験のことだ。

 初めての人の合格率は1割以下だって聞いたこともある。


 そんな難しい試験に、ついこの間軍人さんになったばかりのスピカが挑むなんて、絶対無理だってことは目に見えていた。


「そ、そんなの駄目、だよ……スピカはこないだd級試験、合格したばっか、だし……」

「ならば、やはりお前の今後はこちらで決めさせて貰う」

「そんな────」


 どうにからならないのか、そう思ってリゲル兄の方を見てみたけど、兄もお手上げだとばかりに肩をすくませるだけだった。

 どうやら、スピカが試験を受けてぱぱを認めさせる以外に方法はないみたい────


「ぅわかった……やってみる、けど……」


 けど、自信がない。

 まったくまったくまったく、自信がないよ────


「どうしよう──スピカ、ここでみんなとお別れしなきゃいけないのかな……」


 そう思うと、自然と涙が出てきた。

 ここまで頑張って、修行や冒険もして、スピカは少しだけ強くなれたのに────


 そんな────




「あー、きーさんここですか?」


 その時、鍛錬場の扉が開いて猫ちゃんを抱えたエリーさんが入ってきた。


「エリーさん……!? 何でここに……」

「なんだここ?」

「すごいわ……広いお部屋ね!」


 エリーさんだけじゃない、クレアさんにセルマさん、アダラ姉にカペラ兄────


 それに、アデク隊長も────


「み、みんな……!」

「あぁ、スピカちゃんこんな所にいたんですね」



   ※   ※   ※   ※   ※



「この猫ちゃんに案内されてきたんだ。

 いやぁまさかこんなことにやってるなんてね面白い面白い」


 そうへらへら説明をするのはカペラ兄だった。

 そういえば、連れてきた猫ちゃんがいつの間にかいなくなってたのに気付かなかった。


 どうやらスピカの元からそっと離れて、みんなを案内してくれたみたいだ。


「ありがとね、猫ちゃん……」


 猫ちゃんを撫でると、猫ちゃんはごろごろとのどを鳴らして気持ちよさそうにする。


「きーさんてスピカちゃんに甘いですよね。

 なんというか、普段私にしてくれない優しさを感じるというか」

「それお前が言うのか?」

「え?」


 エリーさんはよく分かってないみたいだけど、猫ちゃんもエリーさんもスピカにとっても良くしてくれる。

 いつもちょっと申し訳ないくらいだ。


「おいお前さんたち、今はそんなこと話してる場合じゃないんじゃないのか?」

「あ、そうだった……」


 スピカたちは、今鍛錬場の隅っこを借りてみんなでb級試験の作戦会議をしていた。


 もちろん作戦会議だ、聞かれちゃいけないからリゲル兄とぱぱは離れたところにいて貰ってる。


「それにしても、b級試験か。

 また無理難題を押しつけられたね」

「よく分からないですけど、スピカには難しいんじゃないですか?」


 兄や姉はなんだかスピカの出された条件に不満があるみたいだった。

 確かに、この条件は無理があるなって、スピカも思う。 


「なんだよ、あんたらスピカを冷やかしてんのか?」

「そんなことないさ、オレらだって力になれるならなりたいもの」


 そういってカペラ兄は短くため息をついた。


「2人はスピカちゃんを捕まえようとしてたのに、協力してくれるの? どういう心境の変化かしら?」

「いやいや、心境の変化も何もないです。

 わたくしたちの仕事はあくまでもスピカを捕らえて城に連れてくこと!」

「そう、だから仕事は仕事と割り切ったけど、その後のことはどうしようと勝手、妹に協力するのも勝手だろ?」


 双子の兄と姉はそうやって言いながら、スピカの頭をわしわしと撫でた。


 ここまで来る間に乱れた髪の毛だったけれど、2人がぐしゃぐしゃにしたせいでもっと髪がぐしゃぐしゃになっちゃう。


「や、やめてよぉ……2人して、ぐしゃぐしゃしないでぇ……」

「いやぁごめんごめん、つい、ね」

「スピカとこうやって話すの久しぶりで、つい、です」


 そういえば、兄や姉と会うのは春にお城を出て以来だった。

 2人にはよくこうやって頭をぐしゃぐしゃされていたけれど、随分久しぶりで、少し懐かしい。


 あと、相変わらず不快────


「まずは対策を立てないと、ですね。

 b級試験の内容なら、何となく知ってますよ」


 そう言うのは、エリアルさんだった。


 猫ちゃんを膝の上に乗せて、ぐしゃぐしゃと撫でている。

 あ、この猫ちゃんスピカと同じ顔してる────


「でも、今からでも間に合うかな……?」

「やるしかないでしょう、テスト前のかき込み勉強です。頑張りましょう」


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