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帰りたい(137回目)  VS王国騎士カペラⅣ

「だっ────!」


 強烈に地面に打ち付けられたロイドは、一度大きく跳ね返ると、2度目に身体が地面につく前に両足で着地し、追い打ちをかける王子様を振り払った。


「クソがっ、不意を突きやがって! リゲルみたいでやらしいなぁ!」

「別に複数の属性魔法を扱う人間なんて珍しくないだろう、殆どの人間は頑張ればどんな属性でも使えるんだ?

 それにオレはリゲルの兄貴、常に真正面からなんて最高の騎士道パフォーマンスは求めないで貰いたいなぁ?」


 いや、そこまで散々言われ続けるアイツって何なんだよ────


 ちなみにアタシはさっきに比べると随分マシになったけれど、まだまだ動けそうもないから2人の闘いを三角座りで見ていた。

 クソッ、体力さえあればあんな2人ボコボコに────と言う以前に、なんだか男2人の勝負になってしまって疎外感で少しさみしい。


「なんだか、不思議な感覚だね。噂に聞くロイド・ギャレット、君と手合わせする日が来るとは思わなかった。

 どうだい、これを期に王国騎士にでも。元軍人も結構多いアットホームな職場さ」

「王国騎士サマがオレわたしを直接勧誘だぁ?

 有り余ってんだろそんなもん」

「それが、うちは君たちのところより人材不足でね、案外親父を護る盾も薄くなってきてるんだ。

 君ほどの実力者なら大歓迎──ではないけれどとても嬉しいよ。

 どうだいリゲルと一緒に────」

「はっ────!」


 ロイドは、吐き捨てるように笑った。


「何を言い出すかと思えば、結局リゲルの勧誘が狙いだろテメェら?

 オレわたしを引き入れればアイツも自動的に付いてくるって魂胆か?

 アイツを引き入れようと裏でゴソゴソやってんのも知ってるんだぞ!」

「まぁ、うん────親父はスピカだけじゃなく子ども全員を近くに置きたがっているからね。

 スピカほどじゃないにしろ、リゲルの勧誘もウチは行ってるのさ。

 それとは別で君の勧誘は本心なんだけど……?」

「バカらしい! オレわたしはアイツらのリーダーで、リゲルもヒルベルトもオレわたしの隊の隊員だ。

 それは譲らねぇな!」


 その一言に、王子様は少しだけ圧倒されたように驚いた。


「流石だね──王子相手にそこまで言う奴も、中々いない」

「そもそもそんな戯言、時間のあるときにしやがれ。

 言ってやるがオレわたしの天衣時間はそう長くねぇからな、次で決めるから覚悟しろ」


 そう言うと、ロイドは再び構えに入る。


「どうやら交渉決裂か、寂しいなぁ」

「言って、やがれっ────!」


 瞬間────女ロイドが目の前から消えた。


「消えた────いや高速で動いてるのか!!

 “王宮式防御ロイヤルプロテクト”」


 自分の周りにバリアを周りに張り巡らした王子様は、高速で周りを飛び回る気配に集中する。


「“上だコノヤロー”!!」

「そう来ると思った! 迎え撃ってやる! 

 王宮式封殺拳ロイヤルフィスト!」


 どんっ────と、拳と拳がぶつかり合っただけとは到底思えないような地響きが周りを揺らす。


「うわなんだこれっ────!!」


 吹き上がる風に飛ばされないようにしっかりと踏ん張ると、すぐ近くで広場の石畳がバリバリと裂けていった!


「ウソだろ衝撃波だけでっ!?」


 とてつもない両者の衝突はやがて徐々に止み、やがて吹き荒れる風や砂埃も晴れて周りがクリアになってゆく。

 そこには王子様とロイド───まだ2人ともしっかりと立っていた。


「楽しかったぜ、なぁ────オレわたしの勝ちだリゲルの兄貴」

「ふふっ、うわさに聞くリゲルの友だち。

 なかなかどうして侮れないヤツだね……」


 そう返すと同時に、王子様の膝が地面に付く。


 勝負ありだと判断したのか、やがてロイド・ギャレットの“精霊天衣”も解かれ、元のガチムチに戻った。


「いつもリゲルと仲良くしてくれて、ありがとね……」

「ばっか、アイツが勝手につきまとってくるだけで、オレがアイツと仲良くした覚えなんかこれっぽっちもねぇよ」

「そっか、そりゃあ君ならリゲルと楽しくやれそうだもんな。

 そっか、そっ────か……」


 その言葉を最後に、王子様はその場に倒れ込んで動かなくなった。



「おい大丈夫かよ王子様!!」

「んだよ、自分を殺しかけたヤツの心配か?」


 うわ、これ死んでたら超やべぇんじゃねぇのか!?

 もし王子様を殺したとなれば、ロイドだけじゃなくアタシまで重罪人だ!


 そんなのやだ!!


「くそ、こうなったら出来るだけ遠くに運んで土に埋めて証拠を────」

「バカ隠蔽しようとするなA級犯罪者。

 そいつは気絶してるだけだ、流石に殺すほどの力は出しちゃいねぇよ」


 確かに、近付くと王子様の腹はすーすーと上下していた。

 よかったー、死んでねぇでよかったー────


「それにしてもあんた、すげえんだな……」

「おめーが弱えだけだクソ新人。

 その程度で王国騎士の相手をしようとしてたのか?     

 笑わせるなよ、あれならエリアルといい勝負だ」

「なにっ!?」


 ロイドの言葉に、正直カチンときた。


 エリアルといい勝負と言われて腹が立ったんじゃない。

 エリアルをバカにされたようで腹が立ったんだ。


「それでもアイツは今強くなってる。

 ミリアが消えて────いや、お前らと出会ってからか?」

「ミリア? だれ?」

「なんでもねぇ。

 まぁ、オレには関係ねぇ事だが、せいぜいエリアルの足だけはひっぱんな」

「なんだと……!?」


 そう啖呵は切ってみたけれど、正直反論する言葉は後から出ては来なかった。


「オレは忙しいんだ。そいつの処理は任せたぞ、じゃあな」

「あ、おい!!」


 止めようとしたら、と言うより物理的に噛みつこうとしたけれど、その前にロイド・ギャレットは、今度は軍の本部へ登るエレベーターで上へ行ってしまった。


 今のアタシの体力じゃ、上まで追いかけることが出来ない────



「ったく────」

「いやぁ、強かったねぇ【百万戦姫】。流石幹部候補の1人に数えられるだけのことはある」

「つったって、あんないけ好かない性格じゃ────おわっ!?」


 当然のように隣に立っていたのは、さっきやられたはずの王子様だった。


「あ、あんたやられたんじゃなかったのか!?」

「いやいや、やられてないよ。フリはしたけども」


 そう言いつつ、王子様の足は小刻みに震えていた。


 余裕そうに見えて結構頑張ってるのか、もしかして今なら勝てるんじゃね?


「いや、それでも君には負けないよ。

 それにしてもまったく、あんなヤツとマトモに闘うわけないじゃないか、アイツは化け物さ。

 軍でも持て余してるんじゃないのか?」

「しらねぇよ……」

「そうか、とりあえず君はオレと王宮まで一緒に来てもらうよ、オーケー?」

「────────うそだろ……」


 【百万戦姫】、エリアルがもう一歩の所で幹部の座を逃し続けてると言ってたけど、多分そう言う詰めの甘さなんじゃないのか────



 とりあえずこの状況でアタシは勝てる気がしない。


 大人しくお縄に付く運びとなった。



「ガルルル────」

「そう言いつつ噛みつく気満々だね、嫌いじゃないよ、そういうパッション」

「ルルルッ────そういえばリゲルが上にいる、とかさっきアイツ言ってなかったか?」

「言ってたね、そりゃいるだろう。なんせ今住んでるところが違うとは言え、この上の王宮はアイツの実家なんだから」



 でも、アイツは用事があるとか言ってたし────


 一体あのリゲルとか言うやつの目的は何なんだ?

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