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帰りたい(136回目)  VS王国騎士カペラⅢ

「ふん、なんだよ。下に強ぇヤツがいるから遊んでこいってリゲルのやろーが言うから来てみりゃ……アイツの兄貴じゃねえかバカバカしい」

「お前は────誰だ? なんで王宮のエレベーターから降りてくるんだい?」


 不満そうにぶつくさ言いながら、アタシ達の目の前に現れたガタイのいい男。

 アタシは、この男に見覚えがあった。


「あんた────ロイド・ギャレットか!!」

「ん? お前どこかで会ったっけ?」

「忘れてんのかよ!!」


 アタシとこの男は、前にエリアルのバイト先のカフェで会っている。


 確か、エリアルと同期で入隊してから2年程しか経っていないのに、軍の幹部として選ばれるんじゃないかと一時期うわさになってたヤツだ。

 確かにアタシと会話したのは少しの時間だったけれど、それにしたってこの態度はとても失礼じゃないのか?


「まさか────【百万戦姫】のロイド・ギャレット?

 リゲルと同じ隊の戦士か、こんな所で会えるなんてねぇ」

「こんな所って、あんたの実家の前だろ。

 それよりあんた、王様だろうとリゲルの兄貴つーんだから、ぶん殴ってもいいんだろ?」

「普段君は弟をどんな扱いしてるんだ!!?」


 王子様にも臆面もなく言い切るロイド・ギャレットは、早くも王子様を宣言通りぶん殴ろうと構えていた。


「ちょちょちょ、待てよ! 待っておくれ!?

 なんでオレは君にぶん殴られないといけない!?」

「上でリゲルが強いヤツがオレと闘うのを心待ちにしてるつーから来たんだ、多分あんただろ?」

「違う違う! 暴力反対だ!」


 さっきまでアタシをぶっ殺すとか言ってた男がなんか言ってる。

 変わり身の早さというのも酷いもんだ。


「つってもこの振り上げた拳をどう収めたものか……

 まぁいっか、お前いまからオレと闘え」

「んだよやんのかおらぁ!?」

「まさか君こんな状態の女の子をそんな理由で攻撃する気か!?」


 王国騎士サマはどうやら本当に騎士サマだったようで、アタシとロイドの間に割って入ってきた。


「わ、分かったよ……オレが君と戦うからその子には手を出さないでおくれ」

「ふざけんな!! アタシを護ろうってのか!!」

「そうだよ、その傷でコイツにぶん殴られたら本格的に死んじゃうだろ、君は」


 いやいや、いますこーし身体動かすのがしんどいくらいで、ロイドくらい相手にするなんて余裕だし!

 なんなら王子様と2人がかりで来てもアタシの圧勝だし!?


「あ、あしっ──圧勝だ────し?」


 と、そう言おうと思ったけれど、残念ながらアタシは声を出すことが出来なかった。


「ほら、ダメージ喰らいすぎて大きな声が全然出せてないじゃないか。

 切るならもっといい啖呵の切り方教えてあげるから、今は自分の身を守ることに専念しなよ」


 そう言うと、王子様はロイドに向き直る。

 どうやらゴリ押しのせいで、仕方なく闘うことにしたらしい。


「【百万戦姫】ロイド・ギャレット、百万が敵を相手にしても及ばない戦場の姫────

 リゲルから聞いてた分にはもっと可愛い子かと思ってたのに、こんなガチムチの戦闘狂だったなんて。

 ちょっとガッカリだよ────」

「あぁ!? なんだとぶん殴るぞ!!」

「うん、元々そのつもりなんだろ!?」


 クソ、言葉が通じない────と王子様が吐き捨てた。


 おっと、王子様のそんな顔中々見れる物じゃないね────


「それにテメェ、【百万戦姫】つー、いい方はヤメロ。

 オレはそう呼ばれるのがピクルスの次にいけ好かねぇ」

「なんでだい、可愛いじゃあないか?」

「だからだ! オレは男! 姫でもなければ女でもねぇ!!」

「うおぉっ!?」


 激高したようにロイドは王子様に殴りかかる。

 慌てたように避けた王子様は、数歩下がって体勢を立て直した。


「君も激高すると最高に周りが見えなくなるタチだね!

 いつも弟を困らせるいじめっ子に、せいぜいいい顔させて貰うよ!

 “王宮式大突風ロイヤルウィンドバースト”」


 先ほどアタシにも使った突風を起こす魔法を、ロイドにむかって王子様は放つ。


「効くか! “ぶち抜け”ぇ!」

「正面突破かよっ!? よいしょっ!」


 攻撃を破り迫る相手に、王子様も拳で対抗する。


 2人のぶつかり合いは、そのあと2,3回の攻防を繰り返し、お互い一端の距離をとった。


「拳を交えて思い出した。

 君の固有能力【リミット・イーター】────自身の力を限界まで出せる能力だったね。

 流石のオレでも、苦戦してしまうってワケだ!」

「それだけじゃねぇことは知ってんだろ、なぁっ!

 こっちは先に本気出す、“精霊天衣”!!」


 叫ぶと、一瞬ロイドの全身が強い光に包まれた。


「うおっ!? 何やってんだあいつ!?」

「あれがそうか────」


 そしてまばゆい光はやがて消え、金髪の女がそこに立っていた────


「だ、誰だ────入れ代わったのか??」

「いや、女になったんだ────!」

「だーーらっしゃあぁ!」


 美人な顔とは想像もつかないほど闘いを楽しむように、女ロイドは再び王子様に殴りかかる。


「ぐっ! 知ってるとも!

 君の契約するその概念精霊!!

 内にいるその精霊と“精霊天衣”することで、女性の身体と大きな力を得る!」

「その通りだっ!」


 散歩分飛ばされたかと思うと、さらに踏み込みをかけ10歩分の威力で打ち返す。

 ヘラヘラ喋りながら闘う王子様も、状況的にはかなり厳しそうだった。


「そしてその“精霊天衣”は、君の固有能力の【リミット・イーター】の性能も大幅に上げ、まさに王国屈指の実力を手に入れるわけだっ!」

オレわたしの詳しい説明ありがとよっ!」


 2人の拳が、足が、衝撃波を放ちながら広場の至る所でぶつかる。

 目で追えないほどのその速さは、悔しいけれどアタシとの実力の差を歴然にするものだった。


「はぁはぁ……強いね! しかも強くなった!」

「時間稼ぎのつもりか、プリンス?」


 互角に見えた2人の力関係パワーバランスが、大きくロイド・ギャレットに大きく傾いているのが分かった。

 王子様が、両手に地面を付いて大きく肩で息をしている。


「時間稼ぎなんてとんでもない、国を護る戦士として、君のような頼もしい人間が軍に携わっていてくれることには嬉しさしか感じないよ。いつもありがとね!」

「しゃらくせぇ! バカにしてんのか!」

「してないよ! 搦め手の準備をしていただけさ!

 王宮式剣山ロイヤルソードエッジ!」

「なにっ!?」


 地面から、石畳を突き破って沢山の岩が勢いよく突出する。


 不意を突かれたロイドは体勢を崩しながら、ギリギリでその凶器を避けていった。


「くそ、土魔法!」

「本命はこっち! “王宮式風特攻ロイヤルウィンドアタック”」


 ロイドが体勢を崩したところに、自分で突出させた岩場を足場にして王子様が強烈なパンチを繰り出した。


「だっ────!」


 強烈に地面に打ち付けられたロイドは、一度大きく跳ね返ると、2度目に身体が地面につく前に両足で着地し、追い打ちをかける王子様を振り払った!


「おわっ、あぶなっ!」

「クソがっ!」

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