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帰りたい(135回目)  VS王国騎士カペラⅡ


 無理だ、勝てない────

 そう思ったのはエリアルやスピカと別れた直後だった。


「そぉれっ!」

「おわっ!!?」


 エレベーター前の広場が爆発に包まれる。

 幸いアタシは攻撃を避けることが出来たけれど、あんなのに当たったらひとたまりもない!!


「オレもね、別に闘いたいわけじゃないんだ。

 でも君とは戦う以外のコミュニケーションがとれそうにないねっ!」

「うぉらぁ! ごちゃごちゃ言ってっと首かみちぎっぞぉ!」

「おっと危ない!」


 そう言いつつ、余裕そうに避ける王子様。


 くそっ、ムカツク!!


「はぁ、はぁっ……このっ!」

「もうバテたのかい? さっきから闘いを見てると、君何も考えず攻撃してきてるでしょ?」

「なにっ!?」


 ニヤニヤと笑いながら、敵は軽く左右にステップを踏んでみせる。


「そうさ、だって攻撃がさっきからずっと、大ぶりの直線的すぎる。

 ホントはもっと冷静になれば研ぎ澄まされた攻撃が出来るのに、それが今はからっきし、これっぽっちも全く出来ていないのさ。

 オレは何となく分かるんだよ、そう言うの」

「……………………」


 なにを考えてるんだこの男────

 得体の知れなさにアタシは、一端王子様と距離をとる。


「なんでそんなことをわざわざアタシに教えるんだ?」

「おっと、少し冷静になったね。

 ほらほら、オレは出来れば全力の君と戦いたいと思ってるんだぜ?」


 からかうように、王子様はニヤニヤと笑う。

 さっきからアタシをおちょくっているのかバカにしているのか、本気でない態度にアタシは腹を立てていた。


「クソがっ! 舐めやがって!」

「ははは、また頭に血が上ったね。当たらない当たらなーい!」


 そういってヒラヒラと技と紙一重のところで、全ての攻撃をかわしてみせる。


「当たれっ! 当たれっ!」

「なんでさっきからそんな攻撃しか出来ないのさ?

 スピカの仲間だからって事で前に調べさせて貰ったけど、君のパフォーマンスは頭に血が上らなければもっと高いはずだろ?」

「あぁん!?」


 何でテメーにそんなこと──と言いかけて、王子様の言うことが的を得ているとふと思ってしまう。

 確かに蜘蛛女と闘ったときも、精霊保護区のときも、今よりアタシは冷静だったかも知れない。


「────────悪いかよ! アタシのかってだろ!」

「そうだね、悪くないし、勝手だけど……クククッ、舐めてんのか!! 気に入らないっ!」


 叫ぶと伴に、風を操って作られた突風が身体を吹き飛ばす。


「のわっ!! 何だイキなり!!」

「悪かったよ!! 茶番をしかけたのはオレだもの!!

 でも妹のために闘うといいながら勝てない相手に弱点を晒し続ける!

 そんなヤツにスピカは任せられねぇよ!

 オレは君を本気でぶっ殺したくなった!!」


 風はどんどんと勢いを増し、そしてついにはアタシの身体が宙に浮かんだ!!


「いぎぃっ!?」


 身体が空を舞い、そのままの勢いで高く上がったかと思うと、風が突然止んでアタシは広場に投げ出される。


「のわっととと────くそっ!」


 何とか着地をしたけれど、敵の攻撃はまだ止んでなかった。


「おらっ!」

「うぉだ────っ!?」


 今度は直接殴ってきた相手の拳を腕で受け止める!

 渾身の力で放った風でもないのに、腕の先からガンガンと痛みが広がる。


「そぉらっ! そらっ!」


 必死に受け身を取りながら隙を見つけるけれど、まったく歯が立たない。

 近接戦闘ならアタシにも部類があると少しは思ったのに!


「そして隙アリだよっ!」

「ッ────────いてぇ……!」


 ついに、強烈なボディブローが腹を抉って、アタシに膝をつかせた。

 一撃で世界が歪み、一瞬だけ意識が遠くにやられそうになるのを自力で引き戻す。


「クソが……ぁ」

「いやぁ、あんまり妹と同じくらいの女の子に手を上げるなんてしたくもないんだけれどねぇ。

 オレも流石に、妹のためだ。アツくなっちゃったよ」


 なにが妹のためだ捕縛しようとしたくせに、と毒を吐きたくなったけれど、肺に空気を吸い込むのに性一杯で言葉が出てこなかった。

 再び立ち上がろうとしても、身体が動かない────


「でも君、どうしようかなぁ。

 少し席を外すことになるけれど、やはり王宮に運んでおこうか?

 まぁ、どうせ君のバックにはリゲルがいるんだろ?

 しばらく牢獄行きくらいですませてやるし、どうせここを塞いでる間あの2人は上へ行けないんだ。

 オレたちが闘っても意味ないんだよ、そろそろ諦めなよ」

「なにが諦めろだ────くそぉ!」


 敵と本気で戦ってはいなかったとは言え、負けるのはアタシのプライドが許さなかった。


「なんだい、散々啖呵をきっておいて、逃げるのかい?

 まぁその判断はいいさ、逃がすわけはないんだけど」


 そう言うと王子様は、アタシの服を掴んで軽々と引きずる。

 抵抗しようにも、力も及ばなければ気力も続かない。


「クソッ、離せこのっ! ガブッ!」

「いったぁ! いま噛んだね!? もういい、縛って連れてく!!」

「縛るなこのっ!」



 そんなことを王様としていると、今まで静かだった王宮直通のエレベーターがチンッと鳴った。


「ん、エレベーターが降りてきた? こんな時に誰が────」


 まさかスピカやエリアルが門前払い喰らって降ろされてきたんじゃ────と思ったけれど、出て来たのはどちらでもなかった。


「ふん、なんだよ。下に強ぇヤツがいるから遊んでこいってリゲルのやろーが言うから来てみりゃ……アイツの兄貴じゃねえかバカバカしい」

「お前は────誰だ? なんで王宮のエレベーターから降りてくるんだい?」



 不満そうにぶつくさ言いながら、アタシ達の目の前に現れたガタイのいい男。


 アタシは、この男に見覚えがあった────

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