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帰りたい(133回目)  VS王国騎士アダラⅢ


 突然現れた、どうにもつかみ所のないマッサージ屋さんのイスカさんとアダラさんの闘いが始まった──


「喰らってください! “王宮式雷電砲ロイヤルボルト”!!」

「うっわイキなりそんなっ!! 危ないイスカさん!!」


 迫る雷撃は、不意打ちにも近い速さでイスカさんに迫る。

 ダメだ、自分のバリアも間に合わない!


「危ないなぁ、よっ」


 しかし、その強烈な雷を軽い身のこなしでなんなく避けたイスカさん。

 それを見てアダラさんも意外そうな顔をする。


「思ったより素早い──ただのマッサージ店の店主ということはなさそうですね……」

「そう? まぁ、痛いのはいやだからね」

「そういう意味ではなくて──いや、ならばわたくしも力を惜しまないまでのこと! もう一度パサパサ!」


 再び、蝶の精霊を呼び出し空中に浮き上がるアダラさん。

 来る、さっきと同じ一斉砲撃だ。


「イスカさん! あの人あの高さから狙い撃ちしてくる気よ!」

「うわぁ、蝶々って結構おっきいと顔怖いよね。

 複眼とか口とか、僕あの大きさの虫ダメかも……」

「聞いてる!?」


 そうこうしてる間にも、アダラさんは魔力を貯め終わり今にも攻撃を打ち出しそうな勢いだった。


「行きますよっ! 覚悟なさいっ! “王宮式雷連擊ロイヤルエレクトリック”」

「“ピックアップ・シダー”っ!」


 そしてついに、近くにいるだけでも肌が焼け焦げそうなほどの電流がイスカさんを真っ直ぐに襲う。

 しかし、強烈な電流を喰らったにも関わらずイスカさんはその場に立ち続けていた。


「無傷……?」

「いったぁ────リゲル君のお姉さん容赦ないなぁ」


 いや、正確には無傷ではなく、手がボロボロと黒焦げていて────


「イスカさん大変! 自分“癒師”だからすぐに応急処置を!」

「イヤイヤ大丈夫、ほら見て」


 イスカさんはそう言うと黒焦げた手をグーパーしてみせてくれた。

 するとみるみるうちに、両手が元の姿に戻ってゆく。


「回復の魔法!?」

「ううん、これは僕の固有能力。

 身体を自由に植物に変身させたり、伸ばしたりできるんだ。

 今は両手を堅くて丈夫な杉の木にしたんだよ」

「でも今黒焦げて────」

「うん、でも木に変身してた部分が壊れても、ある程度なら再生できるんだ。ちょっとすごいでしょう」


 そういう間にも、イスカさんの両手はすっかり元の形に戻っていた。

 すごい、“癒師”顔負けの回復力だ。


「なるほど、その固有能力ならわたくしの電撃もある程度は防げるというわけですね。

 もしや貴女、【メタモル・ツリー】のイスカ・トアニですか?」

「おぉ、王女様が僕の名前を知ってるなんて光栄だなぁ」

「そういう意味ではないです!」


 頬を膨らませて、アダラさんは不機嫌そうに唸る。


「リゲルから名前を聞いたことがあるので少し調べさせて貰ったんです。

 せっかく軍に入り3月でd級入り、9月でc級まで昇進したのに、僅かその3月後街のマッサージ屋に転身したおバカがいると」

「へぇ────そりゃ間違いなく僕だ」


 明らかに罵倒されたイスカさんだったけれど、彼女は顔色一つ変えずにそう答えた。


「確かに1年足らずで辞めちゃった僕は、おバカかもねぇ」

「え、でもそれってすごいことなんじゃ……」


 軍に勤めている自分なら、その出世の早さは超スピードと言って差し支えないと言いきれる。

 本来なら、長い年月をかけて培ってゆくキャリアだ。


 それが本当なら、イスカさんは間違いなく世に言う「天才」だ。


「そう、だから一度聞きたかったのです。

 なぜわざわざ軍に入隊したのにその地位を捨てたのですか?

 まさか入隊はお金のため?」

「そうだよ、王女様は直感も素晴らしいんだね」


 あっけらかんと、イスカさんは言い切った。


「元々僕の夢だったんだ、マッサージ屋さんは。

 軍に入ったのもお遊びじゃないけれど、使命とか志とかじゃなく、ただ単にお金が欲しかったからだよ。

 出世が早いと割もいいんだ、あの仕事は」

「やはりおバカでしたね────っ!

 生活のため、家族のため、そのために軍に入って私腹を肥やすのならなんの文句もありません! しかし──」


 アダラさんは堪えきれなくなったように口火を切った。


「しかし、軍はただ単に踏み台にするべき職業ではないはずです!

 自分の命も、人の命もかかっているのに!

 貴女のような天才ならなおさら!

 わたくしは国を護る者として、貴女が戦場で命を賭けていたことが許せない!」

「そんなことは知らないよ、王女様には分からないらしいね、庶民の気持ちが。

 今僕がこのボロいビルディングでマッサージ屋さんをせこせこやってるのは、命を賭けてでもやりたかったことだからだよ……」


 イスカさんは、静かに、でも確かにそう言い放つ。


 お金のためでも何でもいい、目の前のこの人が確かな誇りを持っているのが、自分はとてもカッコいいと思った。


「ならば────わたくしは今貴女をここで倒し、王国騎士にスカウトします!」

「なんでそうなるのさ……」

「そのスキルはきっと王国騎士でも役に立つ!

 そのキャリアを次の仕事に仕事に生かしてみませんか!? ですっ!

 “王宮式電圧縮ロイヤルボルテージ”」


 叫ぶと伴に、アダラさんの背後には周囲の空気が淀んで出来たようなドス黒い雲が立ち込め始めた。


 そしてゴロゴロと音を立てるそれは、中で強烈な電気を生む雷雲になっているのが分かる!


「イスカさん、あれ────」

「────────やっぱ、無理かも。これ勝てないよ」

「えぇ!?」


 案外諦めの早い人だった。


 さっきまであのアダラさん相手に一歩も臆さずとてもカッコよかったのに、一瞬のうちに雰囲気がふやけてしまった。


「なら自分も一緒にあれを止める方法を考えましょう!!」

「あ、いやー、それでも変わらないかなぁ。

 1発防げても、2発目3発目は無理だよ。

 ちょっとまってよ……」


 イスカさんはしばらく顎に手を当てて考え込んだ後、ふぅと短いため息をついた。


「え、なんですか?」

「しょうがないかぁ────うん分かった、僕に任せてよ」

「何を────」

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